支配者同士の駆け引き編

第721話 フルーフの編み出した呪文

「聞きたい事だと? ミラの組織していた『煌聖の教団』の事なら何も知らんぞ? 奴らが狂信者の集まりであの野郎の為なら喜んで命を投げ出す奴らが居たという事くらいしか知らぬ」


 大魔王ヌーの言葉に偽りは無い。

 『煌聖の教団こうせいきょうだん』の総帥ミラとは同盟を組んで長いが、彼自身が教団のメンバーというワケでは無い為、煌聖の教団の内情やルール。その他一切の組織内のやり取りを聞いてはいない。あくまで彼は大魔王ソフィを葬る為に、ミラに協力していたに過ぎなかった。


「……組織の中の事などはどうでもよい。我の配下達が何処に跳ばされたかを知らぬか?」


 現在フルーフからの報告で、九大魔王の一体である『エイネ』の居所は分かっている。

 しかしそれ以外の九大魔王の行方や、魔王軍の序列部隊の者達。魔王軍に属する多くの者達が、組織の者達の手により行方不明のままである。


 ヌーは素直に知っている事を話すかどうかで迷ったが、結局ここでだんまりを決め込んだところで、待つのは死だけだろうと判断する。


 たとえソフィが許したとしても、その背後でヌーに殺意を向け続けているもう一体の大魔王が、彼を許す筈が無いからである。


 フルーフを洗脳し操っている時からあらゆる情報を手に入れたヌーだったが、この大魔王フルーフには、を使わせたら右に出る者は居ない。単に殺されるだけでは無く『代替身体だいたいしんたい』へと魂を移したところで、このフルーフが居る限り、何らかの方法で、をかけてくるに違いない。


 下手に隠し事を続けるよりかは、ソフィに少しでも恩を売っておく方がマシだと考えるのだった。


「俺が知っているのは『天衣無縫』の居場所だけだな」


「……『』か。何故お主がエヴィの行方を?」


「『九大魔王』の奴らを相手にするには、煌聖の教団の中でも力を有する者にしか務まらない。そして『天衣無縫』には、セルバスが対応にあたっていたらしくてな」


「セルバス?」


「ああ『煌聖の教団の最高幹部の野郎でな。物事を腕力でごりおす魔族だったが、あの中では比較的話が通じる野郎だった。アイツが別世界へ跳ばしたのが『天衣無縫』のガキだったってわけだ」


(……腕力に自信のある大魔王が相手であれば、確かにエヴィでは相性は悪い……か?)


「それでエヴィが居る場所は、分かっているのか?」


「俺が知っているのは『』という世界に『天衣無縫』が居るだろうという事くらいだ。興味が無かったからな。それ以上の事は知らん」


「……ノックスという世界か。ヌーよ、お主はその世界の場所を知っておるのか?」


「直接行った事は無いが、セルバスの野郎からある程度の座標は聞いている。元々セルバスはそのノックスの世界を支配しようとしていたらしいからな」


「そうか。ではその世界の座標とやらをフルーフに教えるがよい」


 当然の事とばかりにそう告げるソフィだったが、素直に応じるつもりが無いのかヌーは黙り込む。


「交換条件だ、化け物。その世界の座標を教える代わりに、俺をここから出して自由にしろ」


 突然のヌーの交渉の提示の言葉に、これまで成り行きを見守っていたフルーフが口を開いた。


「ソフィよ『金色の目ゴールド・アイ』で強引に吐かせてしまえ。こいつを自由にすることは、ワシには看過できぬ」


「直接手を下したのが組織の者か、お前かまでは分からぬが、我の友人を操り攫った事に、お主が関与している事は分かっている。今更それを無かった事にするわけにはいかぬ事は、お前も分かっているだろう?」


「ククク。ならば好きにしろ。俺はもう何も言わん」


 フルーフは視線をソフィに向ける。


 『金色の目ゴールド・アイ』で操れとその視線が告げていた。


 しかしソフィが『金色の目ゴールド・アイ』を使う前に、ヌーの目が


「何をしようとしているか分からぬが無駄だ。その結界は我が張っている結界だ、お前が何をしようと無効化される」


「クックック、それはどうかな? お前は確かに化け物だが、どこか


 ヌーはそう言うとニヤリと笑い、そして一層目を金色に輝かせる。


「ソフィ、嫌な予感がする! さっさとコイツを操れ!」


 切羽詰まったような声をあげながらフルーフは、そうソフィに告げるが、次の瞬間にはヌー自身に異変が起きて、目が虚ろになっていく。


「まさかっ!」


 フルーフは牢の内側に居るヌーを見て舌打ちをする。


 ――呪文、『呪縛の血カース・サングゥエ』。


 少なからず魔力を必要とする筈のその呪文は、確かに効果が発動された。


「こ、小賢しい奴めが……っ!」


 フルーフは自分が編み出した呪文だけあって、どうやってヌーがこの結界の中で魔力を必要とする筈の呪文発動が出来たのかを悟るのだった。


 ……

 ……

 ……

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