第710話 希少な特異の体現者

「魔族……。まさかお前が?」


 ガウル龍王は金色を纏っているミデェールを見て眉を寄せる。

 イーサ龍王を倒した者は魔族だと聞いていたガウル龍王は、目の前の魔族がそうなのかと一瞬たじろぐ姿を見せた。


「お前がイーサ龍王を?」


「……イーサ龍王?」


 目の前の人型をしたガウル龍王の言葉を理解出来ていないミデェールは、オウム返しをするかの如くイーサに言葉を返す。


 互いに少しの間見つめ合った後、ガウルは笑い始めた。


「どうやらお前の事ではないようだな。焦らせやがって!」


 ガウル龍王はそう言うと『』を纏い始める。

 目の前の魔族が見かけた事のない『』を纏っているのを見て、多少の驚きはあったモノの、そこまでの脅威を感じる事が無かった為、ただの見掛け倒しだと判断したようだった。


「!」


 人型の姿の龍族のガウル龍王は、その右手にオーラを集約させたかと思うと、右手の鋭利で長い爪を剥き出しにして、ミデェールの首を狙い駆け出した。


(何だ? 止まっている……のか?)


 本来であれば今のガウル龍王は、ミデェールの目には止まらぬ程の速さで動いているのだが、今ミデェールの目には、ガウルがほとんど止まっているようなコマ送りのような動きで、動いているように見えるのだった。


(……これ、躱してもいいのかな?)


 ミデェールを目掛けて邪悪な笑みを浮かべながら、右手を突き出して来るガウルを見て、ミデェールはそれを左へ避けた後、右手で拳を作った後に思いきりガウルに向けて振り切った。


「ガハッ……!?」


 ミデェールの拳がガウルに直撃した瞬間、再び時が戻ったかと思うとガウルはそのまま後ろへすっころんだ。


「な……! き、貴様何をした!?」


 ガウルは鼻を抑えながら慌てて立ち上がったかと思うと、ミデェールを驚愕の目で睨むのだった。


(一体何をされたというのだ……?)


 ガウルはスベイキアの龍兵である。コープパルス・ドラゴンが相手であっても、互角以上に渡り合う事が、出来る程のブルードラゴンという龍種の中では、最上位に位置する程の力量である。


 いくら見た事の無いオーラを纏っているとはいっても、ただの魔族程度に遅れを取る事などありえない。


 そして今のガウルは間違いなく、目の前の魔族を殺そうとしたのである。

 それだというのに、気が付けば自分は殴られて転ばされていた。


 再びミデェールを見る目が変わるガウル龍王であった。


(……やはりこの魔族がイーサ龍王を? しかしどう見てもコイツの強さはだ……)


 戦力値を感知する事が出来る魔族と違い、龍族では明確な数値を表す事は出来ない。


 しかしそれでも目の前の魔族が、自分よりも強いとはどう見ても思えなかった。

 そしてガウルの思惑通り、ミデェールが実力的には目の前のガウルという龍族より強いワケでは無い。

 しかしそれは『魔力値』や『戦力値』という数値で表す事の出来るでのみ測った場合であった。


 ミデェールは既にこの世界の魔族では』の体現者なのである。


 生まれた瞬間に持つ者と持たざる者に別れる先天性の素質。

 いくら戦力値や魔力値が高くとも、を体現した者でしか持つ事の出来ない『』という秘められた力がある。


 当然の如くにも分かっているだけで、があり、発動羅列を読み解くモノや相手の能力をトレースできるモノといった、いわば戦闘に特化しているモノと、戦闘に直接関係の無いモノもある。


 そしてアサの世界出身の魔族『ミデェール』が体現した特異は、戦闘に特化しているモノであった。


 更に言えば戦闘に特化した特異の中でも、ミデェールが体現した特異は、に入る特異である。


 彼はまだ『金色の目ゴールド・アイ』という魔瞳を扱う事の出来ない魔族である。


 本来であれば特異は『金色の目ゴールド・アイ』を用いる事でその効力を発揮する事が可能となる。しかしミデェールの特異は『金色の目ゴールド・アイ』を用いずともその効力が、無自覚に発揮されている。


 つまり特別な事をせずとも、ミデェールは戦闘状態の時に、相手との戦力値差があろうとも行動速度を低下させたかの如く、ミデェールには相手の動きが、ゆっくりに見えるのであった。


 そしてまだ彼自身が気づいてはおらず指摘する者が現れなければ、今後彼が知り得る事すら適わない事だが『金色の目ゴールド・アイ』を用いる事でさらに特異は増幅され、その対象となった相手に対し、例えば神聖魔法や、何らかの速度上昇能力で、増幅された相手の速度を強制的に無効化する事を可能とする。


(※相手のバフ効力が失われるワケでは無く、効力が発揮されているにも拘らず、ミデェールにはその速度上昇状態でもゆっくりに見えるという事である)。


 あらゆる世界を見渡しても『』の数は少ない。

 そしてその少ない体現者の中でも、ミデェールが目覚めた特異は、戦闘特化の中では、非常に希少にしてのようであった。


 ……

 ……

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