第711話 エイネの選眼
ガウル龍王は最初の攻撃を避けられて、逆にカウンターを貰った後も目の前の魔族が到底自分より強いとは思えずに何度も攻撃を仕掛けるのだった。
しかしそのたびにガウルの攻撃はミデェールに躱され続ける上に、ミデェールから攻撃を受け続けるのだった。
魔族のミデェールの攻撃自体は大した攻撃力を伴っていない為、一方的に殴られはするモノの『ガウル』には大したダメージは通っていない。
だがガウルにとってはこうも攻撃を見切られ続けるとなると、相当な精神的ダメージを受ける事になるのだった。
(……何故当たらない!? 相手の避けるモーションが全く見えぬ!)
これまでのガウルの戦闘経験を含めても、先のヴァルーザ戦以外でここまで苦戦を強いた経験はない。これまで築き上げてきたガウル龍王の培ってきた戦闘予測も経験則も全く意味を為さないのである。
――これは一つの恐怖であった。
これが歴戦の魔族が蔓延る『アレルバレル』の世界や『レパート』の世界であれば『
歴史上に一人も存在していなかった。
つまりこの世界の頂点に立つ程の力を持つ龍族達であっても『特異』というモノの存在を知らない為、何故戦力差がある筈の相手にここまで見切られているのか全く理解が及ぶ筈も無く、ガウルは猜疑心に捕われながらミデェールを攻撃し続けるのだった。
結局何度攻撃してもミデェールには攻撃を当てる事は叶わず、ガウル龍王は得体のしれない妙な生き物を見る目で、ミデェールを見るのであった。
……
……
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ヴァルーザとエイネはイルベキアの上空から、ガウル龍王とミデェールの戦う姿を見ていた。
拠点からエイネが『
上空で人型のガウルを見かけた時、エイネ達は直ぐにミデェールの元へ駆け寄ろうとしたが、ミデェールが
直ぐに助けに行かなくては若い魔族の命が、ガウルに奪われてしまうとばかりに、ヴァルーザはエイネを振り切ろうとするが、エイネの手の力が恐ろしいまでに強く振り払えない。
ヴァルーザはエイネに非難の目を向けて、何をしているのだと口を開こうとするが、エイネは何かに取り憑かれたかのような目でヴァルーザを睨むと、声を出すなと
エイネのその目を見たヴァルーザは、全身が震えあがったかと思うと、言葉を発せなくなった。
そして余計な事を口にしようとしていたヴァルーザが、大人しくなったのを確認した後、再びエイネの視線は特異を用いてガウル龍王の攻撃を避け続ける『ミデェール』に移るのだった。
(……彼が使っているあれは、バルド長老が使っていた『特異』と呼ばれる能力に酷似している)
エイネは
過去に一緒の集落で過ごしていたバルドが、数回だけエイネに見せた事のある力。
その相手を縛りつけるという恐ろしい、特異という能力を発動させている時の光と、今ミデェールの金色のオーラを纏っている時の彼の周囲に時折瞬くような光が、全く同じ輝きの光だったのである。
エイネは直ぐにこの光が、特異によるモノであると気づいたのであった。
そしてヴァルーザは龍王であるガウルと、殺し合いを繰り広げた事もあり、ガウル龍王という龍族の力がどれ程強いかを知っている。
そんな彼は魔族の若い青年がガウル龍王に直ぐに、殺されてしまうと思っていたが、なんとそのガウルの攻撃を避けただけでは無く、カウンターで拳を合わせて吹っ飛ばしたのを見た。
一体何が起きたのかとヴァルーザはあの若い青年を目を凝らしてみるが、その目にはやはりガウル龍王と同じく、特別強いようにも見えず、ただの魔族にしか映らなかった。
だが、この場に居るエイネという恐ろしい魔族が大事な同胞である彼を前にして、助けに行こうとしないところを見るに、あの若い魔族に何か秘密のようなモノが隠されているのだろう。
そうでなければ魔族の同胞を救うために龍族全てに対して、敵対の意思を示したこの魔族が、ガウル龍王という恐ろしい力を持つ龍族と相対している彼をこの場で助けに行かない理由がないからである。
……
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