第697話 戦争をよく知る龍王

「しっかりしろ! ベルモント!」


 シェアーザはネスコーの火によって、焼かれ落ちて人型へ戻ったベルモントを抱えながら、戦線を離脱してヴァルーザ龍王の居るイルベキアまで戻って来る。


 直ぐにシェアーザ達の元に姿を見せたヴァルーザ龍王は、ベルモントに駆け寄ってくる。


「ベルモント! こ、これはひどい」


 シェアーザも人型に戻り、ベルモントの深刻な容態を見る。


「ネスコー元帥にやられました。治療が直ぐに必要な状況です」


 ヴァルーザ龍王は頷き、近くに居た者を呼ぶ。


「衛生兵! 直ぐに医務室へ運べ!」


 イルベキアの兵士たちは直ぐにヴァルーザの声に集まってきた後、ベルモントを担架に乗せて、医務室へと運んで行った。


 全身が酷い火傷をしていたが、シェアーザが直ぐに火を消して処置をしたおかげで、全焼で即座に死する事は免れた。後はベルモントの回復力次第だろう。


「ヴァルーザ龍王、私は直ぐに戻らなくてはなりません。連合軍の多くは退けましたが、それによってネスコー元帥や、スベイキアの兵士達が前線に出てきています」


「私も行こう」


 ヴァルーザ龍王がそう言うと、少し逡巡したがシェアーザは口を開いた。


「『個別の軍隊』達であっても『コープパルス・ドラゴン』の軍勢には長くは持たないでしょう。前線へ向かえば、貴方の命の保証は出来ません」


「構わん。自分の国の兵士が、必死に国の為に戦っているのだ。国王の私が逃げるわけにはいかぬ!」


 どうやら覚悟の程はあるようでヴァルーザもまた、死を受け入れつつあるようだった。


「分かりました。こんな機会は二度とありません。一緒にコープパルス・ドラゴンに一矢報いてやりましょう!」


 これはシェアーザなりの冗句でもあり、本心からの痛快な言葉だった。


 ブルードラゴンが、コープパルス・ドラゴンに逆らう歴史は、アサには存在していなかったのである。


 明確な上下関係が古き時代から『』には存在しており、現在はスベイキアとその他の国という形でそのまま反映されていた。


 ブルードラゴンが、コープパルス・ドラゴンに反旗を翻そうというのだから、シェアーザとヴァルーザは互いに荒唐無稽さ加減に笑うのだった。


「そうと決まれば急ぎましょう」


「ああ……。エイネ殿には悪いが、後先考えずに全力で行く」


 死への覚悟を持って圧倒的なのあるスベイキアの龍族と、一戦を交える覚悟を決めるヴァルーザであった。


 ヴァルーザ龍王は龍化を果たしてシェアーザと共に『個別の軍隊』達が、必死に守っている最後の拠点に向かっている。


 拠点ではスベイキアのコープパルス・ドラゴン達がその猛威を振るい、を纏えぬ、イルベキアの龍族達が次々とやられていっている。


 『個別の軍隊』は必死にそんな兵士たちを守りながら戦い、彼らも一体また一体とその身を死地への片道切符へと姿を変えていく。


 『個別の軍隊』達とスベイキアの兵士のコープパルス・ドラゴンとでは、の熟練度は、イルベキアの兵士達の方が上である。


 そのおかげでスベイキア兵のコープパルス・ドラゴンと、そこまで大差はあるわけでは無い。


 しかし熟練度に差があっても、元々の龍種の違いがそれを補って余りある。

 その上にコープパルス・ドラゴンの中でも圧倒的な強さを持つネスコー元帥が居る。


 このネスコー元帥の強さが、そのまま彼らの差を大きく広げる役割を担っていた。


 すでに拠点を守る『個別の軍隊』の多くは、このネスコー元帥に手によって破られていた。


 イルベキアの最終兵器であった『個別の軍隊』もその数を大きく減らして、このままネスコー元帥が率いる、スベイキア兵士達に全滅させられるかと思った矢先、遂にヴァルーザ龍王が、戦場の最前線にその姿を見せるのだった。


 ヴァルーザ龍王は流石にの熟練度も高く、そしてそれに伴って戦力値もコープパルス・ドラゴンに引けを取らぬ程の強さを持っている。


 唯一ヴァルーザ龍王と、ハイウルキア国のガウル龍王は『コープパルス・ドラゴン』と渡り合える『ブルードラゴン』と言えるだろう。そんな一つの国の王が出てきた事で、戦場は一変する。


 ――ヴァルーザ龍王の戦力値は40億。


 ガウル龍王とヴァルーザ龍王は互いに、この世界ではトップクラスの強さを持つ二人であり、イーサ龍王が居なくなった今、この二体の龍族が世界を束ねるに相応しい存在である。


 シェアーザとヴァルーザ龍王の二体が戦闘に加わった事により、再び拠点でのスベイキアと連合軍の猛攻は弱まる。


 コープパルス・ドラゴンの軍で、最高の強さを持つネスコー元帥といえども『個別の軍隊』とヴァルーザ龍王を同時に相手となると、馬鹿正直に力押ししているだけでは勝てない。


 スベイキアの侵攻の勢いが徐々に弱まってきた為に、もう一つ先の拠点までイルベキア軍は、連合軍を押し返す事に成功する。


 無理矢理下がらされた連合軍は既に壊滅状態となっており、ほとんどスベイキア大国の軍と、イルベキア軍の戦いの情勢になり替わっていた。


 流石は大国と呼ばれるイルベキアだけの事はあり、これだけの不利な条件を突き付けられた状態から持ち応えている。


 しかしここでスベイキアに次ぐ大国と呼ばれる『イルベキア』と肩を並べる『ハイウルキア』の軍が、前に出てくるのだった。

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