大魔王シスVS大賢者ミラ編

第684話 大魔王シスVS大賢者ミラ

「分かった。ではディアトロスとブラスト。お主らだけだ。それでよいな?」


「「御意!」」


 ソフィの言葉にイリーガルとリーシャは同時に返事をする。


「イリーガルよ。魔界とこの大陸に居る者達を頼むぞ。そしてリーシャよ、お主は人間界の方を頼む」


「「御意!」」


「それではフルーフよ。我らを跳ばしてもらえるか?」


「うむ。もちろんじゃ。レアよ、お主はこの世界に残っておるのじゃ」


 フルーフがそう言うとレアは素直に頷いた。


「レアよ。よくぞ我の命令を守り、報告をしてくれた。感謝するぞ」


「はい!」


「それではリーシャよ、レアを頼んだぞ」


「はい! お任せください」


 ソフィはリーシャの嬉しそうな表情に頷きを返すと、フルーフの顔を見る。


「では、用意はいいな?」


 三人が頷くのを確認するとフルーフは『概念跳躍アルム・ノーティア』の『スタック』を始めた。


 ――神域『時』魔法、『概念跳躍アルム・ノーティア』。


 こうして再び最強の大魔王は『リラリオ』の世界へと赴くのだった。


 ……

 ……

 ……


 その頃『ユファ』を『ルート・ポイント』を使って飛ばした大魔王『シス』は、こちらの様子を窺っている『煌聖の教団こうせいきょうだん』の総帥、大賢者『ミラ』と再び対峙するのだった。


「確かに恐ろしい程の魔力と戦力値を持っているようだが、魔神の領域へと昇華した私にはもう関係の無い話だ」


 ミラはそう言うと『三色併用』を用いた事により、とんでもない魔力となっているシスに言い放った。


(……話を聞いているのかいないのか、先日とは別人のようだ)


 ミラは無口なシスを見ながらそう考えた。比喩では無く、魔力も何もかもが違う。


 今のシスは『アレルバレル』の世界で『エルシス』の力を使っていた時と本当に別人のように感じられた。


 そこまで考えていた時、シスが少し前傾姿勢になったのを見たミラは、長年戦闘へ身を置いて培ってきた経験から、すぐに攻撃をしてくるだろうと判断して自身の周囲の至るところに『スタック』を展開する。


 先程のエルシスの戦闘スタイルによく似ていた。

 不死の力や魔神の力を有する事となったミラではあるが、やはり根底にあるのは『尊敬』するエルシスの戦闘スタイルのようだった。


 そして遂に大魔王『シス』が動いた。

 目を『金色』に輝かせながら卓越した魔力コントロールで移動しながら『スタック』している。

 移動しながらの『スタック』は、コントロールが難しく、周りに余波を漏らすのが常だが、今のシスは完全に自身のコントロール下に置いている為、100%の力でそのまま打ち抜く事が出来るだろう。


 ミラもまた完全に『スタック』の準備を終えた。

 こちらに向かってくるシスが、ミラの魔法の間合いに入るまで凡そ0.05秒程。


 そして大魔王『シス』がミラの間合いに入った。


 その瞬間にミラは両手にオーラを纏わせながら『スタック』させていた魔法を一気に発動する。

 シスの視線の先で突然爆発が起きて視界を阻害される。その爆発は神域魔法の極大魔法の一つのようだったが、今のシスにはノーダメージであった。しかしブラインドの効果を及ぼす事には成功している。


 シスは突然視界を防がれた事で苛立ちながら更に上空へと上がって、敵の場所を把握しようとする。

 先程シスが居た場所周辺は、爆発によって何も見えない。そしてその見えない位置から次々と高密度のエネルギー波が連続で発射されてくる。


「!?」


 シスは自身の魔法で弾き返そうとするが、レーザーの規模を目視した瞬間即座にやめる。


 『魔神』のレーザーは、今のシスから見ても受けの行動をとるのは悪手だと感じた為だった。

 戦力値に関係が無く、今のシス程の魔力であっても撃ち返す事は不可能だと察した。


 しかしレーザーは一発、二発ではなく、まるで速射砲のように次々と発射され続けて来る。

 しかもその軌道はレーザーごとに違い、曲がりくねりながら向かってくるものや、ストレートに一直線に向かってくるものもある。


 そして最初の極大魔法によって良く見えない場所からの発射の為、魔力感知を頼りに避けるしかない。

 正にこの魔法は遠距離をキープしながら戦う事を得意とする賢者や魔法使いの戦い方に最適であるといえた。


 そして一発でも当たれば、敵を瀕死にさせる事を可能とする殺傷力付きである。

 器用に数十発のレーザーの速射を躱し続けるシスだったが、躱した先に先読みされたかの如く、レーザーが放たれていた。


 既に『高速転移』も用いながらの移動をしていた為、仕方無くシスは、相手の攻撃を次元の彼方へと飛ばす『時魔法タイム・マジック』を無詠唱で使わされた。


 ――神域『時』魔法、『次元防壁ディメンション・アンミナ』。


 対魔法の『最高防衛時魔法』によって、レーザーはそのまま次元の彼方へと送られる……筈であった。

 しかしレーザーはバリアのように張られた『次元防壁ディメンション・アンミナ』をなんと


「!」


 シスはその高速レーザーを跳ね返す事が出来ずに必死に体を捻る。レーザーはシスの頬を掠めていった。


 なんとかシスは致命傷を防ぐ事に成功したが、何故自分の『次元防壁ディメンション・アンミナ』で魔法を跳ね返せなかったのかと不思議そうに眉を寄せる。


 そして爆発によって視界が見えなくなっていた場所が晴れていき、やがて目を『金色』に輝かせているミラの笑みを浮かべる姿が見えた。


「ククク、何故私の攻撃を止められなかったのかと疑問に思っているようだな」


「……」


 無言で睨み返すシスであった。


「何故跳ね返せなかったか、戦闘の間に考えるがいい。お前には理解出来ないだろうがな」


 そう言うと再びミラからレーザーが速射された。

 レーザーは一発一発が恐ろしく早く、そして殺傷能力は折り紙付き。更には『次元防壁ディメンション・アンミナ』で跳ね返す事や『時魔法タイム・マジック』を用いた、あらゆる相殺すら許されない『時魔法無効化タイムマギア・キャンセル』が付与されている。


 大賢者ミラが手にしたかったのは、この戦術を可能とする『時魔法無効化タイムマギア・キャンセル』だったのである。


 これを手に入れる為にダールの世界を死地に変えたといっても過言ではない。

 その当初の計画通り、魔神からこの力を奪ったミラは正に念願が叶ったといえる。


 そして『時魔法無効化タイムマギア・キャンセル』はレーザーに限らず、あらゆる攻撃手法に付与することを可能とする。ミラの『特異』である『発動羅列』を読み解く力はあらゆる不可能を可能とする。


 相手からある程度離れて距離を保ちながら戦うミラにとって、このレーザーは正に彼の為に作られたような魔法となっていた。


 『時魔法無効化タイムマギア・キャンセル』や、レーザーといった攻撃手段がなければ大賢者『ミラ』など、今の大魔王シスの敵ではなかっただろう。


 ミラとシスでは魔力でも差があり、戦力値でも圧倒的な差があるのだ。

 しかし単純に魔力を互いに測る試合ではなく、これは生死を掛けた戦闘なのである。互いに相手に致命傷を与えられる方法がある以上、戦い方次第で戦力値差などいくらでも覆る。


 たとえ一桁の年齢の『子供』であっても、相手の命を容易く奪える『武器』を持っていれば、屈強な肉体を持つ『大人』に勝るようなモノなのである。


 『ダール』の魔神が使っていた『時魔法無効化タイムマギア・キャンセル』と『高密度レーザー』はその『』となり得たのだった。


 ……

 ……

 ……

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