第681話 子を誇らしげに思う親の心情

 まだシスの中の『エルシス』が『ルビリス』達と戦う前の事であった。

 大魔王フルーフの『概念跳躍アルム・ノーティア』によって、再びアレルバレルの世界に到着した。


 しかし世界間転移の出来る『概念跳躍アルム・ノーティア』という魔法は、最初に位置座標を特定するか、相手の魔力を頼りに指定座標しなければ、その世界のどこに行くかは


 一括りにアレルバレルの世界とはいっても、人間界と魔界に分かれている上に魔界はとても広く、大陸によって支配者が居たりする。


 現在のアレルバレルの世界では中央大陸に居るソフィや、他の大陸は『煌聖の教団』が蔓延っている為、アレルバレルの世界の支配者と戦う事は無いだろうが、それでも目的地が分からなければ、中々にソフィに出会う事は困難となる。


 しかしこの場に居るフルーフの元には、ソフィの配下となったレアが居る。

 レアはかつてアレルバレルの世界の魔界に来た事があり、少し前までソフィと共に居た為、中央大陸の場所もソフィの居る場所も理解している。


 フルーフがアレルバレルの世界をきょろきょろ見回しているとレアが口を開いた。


「フルーフ様! 私がソフィ様の元まで案内しますのでついてきてもらえますか?」


「うむうむ! では頼んだぞレア?」


「はいっ!」


 誇らしげに娘を見るフルーフと自分を任せてくれた事に喜びを感じるレアであった。

 二人は『高速転移』を使いながら今居る魔界の東側の大陸から、ソフィの居る中央大陸へ向けて移動をするのであった。


 レアの速度に合わせて空を飛ぶフルーフは、後ろから『高速転移』の使い慣れた扱いを見せるレアを感慨深く見る。


 最後に別れた時のレアはまだ『高速転移』を覚えていなかった。それが今や当たり前のように『高速転移』を使っている。


 魔力値も戦力値もレパートの世界の時とは、比較にならない強さを持っている。

 そんな娘の成長を嬉しく思うフルーフは、もう絶対にレアから離れはしないと心に誓うのだった。


 やがて魔王城のある中央大陸に辿り着いた。


「フルーフ様。ソフィ様はあの大陸に居るん……ですけどぉ、なんか違和感が……」


 自分がこの世界からリラリオの世界へと向かう前と比べると、比較にもならない魔族の数が居る事を『漏出サーチ』で感知する。


「そうなのか? 敵とやり合っておるのであれば、ワシはソフィ側につく」


 フルーフは金色を纏いながら、中央大陸付近で『スタック』の準備を始める。

 戦闘態勢の一歩手前の状態となるのだった。


 やがて二体の魔族が魔王城から出て来たかと思うと、空を飛んでこちらに近づいてくる。


「む? 貴方は……」


「あーー! レアだぁ!」


 イリーガルとリーシャであった。


「お主は、ソフィの傍に控えていた剣士じゃな」


「ハッ! フルーフ殿。ご無事でしたか!」


 イリーガルがフルーフに頭を下げる横でリーシャは、レアに抱き着いて頬ずりをしている。


「ちょ、ちょっとリーシャぁ! フルーフ様がみてるからやめてよねぇ」


「そんな事言わないでよぉ! レアが戻って来るのを、ずっと待ってたんだからねぇ!」


 レアと同じ髪型をしたリーシャが、同じような口調で嬉しそうに話をしている。


「リーシャよ、その辺にしておけ。ソフィ様がどれだけフルーフ殿に、会いたがっていたか知っておるだろう?」


「……はぁい。レア後でまた一緒にお話しようね!」


「え……ええ、分かったわ」


 レアがそう返事をするとニッコリと笑いながら、満足そうにレアから離れるのだった。


「ふふ、仲の良い事じゃな」


 あれだけ自分に近づく者を遠ざけて、誰とも仲良くせずにいたレアが、キーリという龍族の少女や、目の前の魔族の少女にこれだけ慕われている。

 長い期間離れる事になった事については、後悔をしているフルーフだが、信じて送り出した事に関しては大正解だったとレアの成長を嬉しく思うフルーフであった。


「しかしこれは、ディアトロス殿……、いや、ソフィの結界かの?」


 中央大陸全土に張られている目の前の結界は『レパート』の『魔』を極めたフルーフであっても認める程の完成された結界だった。


「ああ、この結界は『ブラスト』という者の結界ですよ」


「ブラスト?」


「私と同じソフィ様の配下なんですがね? 常にイライラしている馬鹿者なんですよ」


「アハハ! 本当にイリーガル様はブラスト様と仲が悪いよねぇ」


 リーシャがそう言うと、イリーガルは鼻で笑ってと、口にするのだった。


(……ソフィの配下か、という事はその者も『エイネ』が言っておった『九大魔王』なのじゃろう)


 この『結界』の性能は『アサ』の世界でエイネが張った結界とは違い、に居る者であっても、何度か効率的に攻撃をしなければ、解除出来ない程であった。


「ふふふ、そのブラストとやらと会うのが楽しみじゃ」


「フルーフ様、私たちは急いでいるんですからね。早くソフィ様に伝えないと」


「そうであったな。イリーガル殿。ではソフィに会わせてくれぬか」


「直ちに! それでは行きましょう」


 そう言うとイリーガルは、背中から大きな大刀を抜いたかと思うと結界に向けて全力で振り下ろした。

 ガラスが割れるような音が鳴り響いたかと思うと、ブラストの結界が容易く割れるのであった。


 次の瞬間――。

 ブラストからイリーガルに『念話テレパシー』が入った。


(おい! 貴様何してやがる!)


(大事なご客人を連れている。我々以外の者がこの大陸に入るには結界を割る必要がある)


(だったら結界を割る前に一言俺に言えばいいだろうが!)


(いちいちうるさい奴だな。結界を割ったのが俺であることは、直ぐに分かるだろうが)


(これだから戦闘狂は嫌いなんだ。今後はお前が結界を張りやがれ!)


(うるさい、お前は今城の中だろう? ソフィ様にフルーフ殿が来られたと伝えておけ!)


(何? フルーフ殿だと? そ、それを早く言いやがれ『念話テレパシー』を切るぞ)


 慌てるようにブラストがそう言った後『念話テレパシー』はきれるのだった。


「急に立ち止まってどうしたんですかぁ?」


 手持無沙汰だったのかリーシャは、両手で戦闘用の短剣を器用に手の中でクルクルと回しながら、結界を解除した後に黙り込んだイリーガルにそう言った。


「いや、結界を割ったらブラストが文句を言ってきただけだ。フルーフ殿、レア殿、お待たせした。それでは行きましょう」


 イリーガルの言葉に二人は頷き、ソフィの待つ魔王城へ向かい、中央大陸に入る一行であった。


 ……

 ……

 ……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る