第666話 恐ろしき九大魔王たち

 イリーガルはリザートの目を見る。

 これまでのどこか怯えたような目から肝が据わったような目に変貌した事で、何かあると判断をする。しかし何かをされたとしてもやる事は変わらない。

 この場を受け持った以上は自分のやる事は敵の足止めに全力を注ぐまで。イリーガルは大刀を両手でぐっと握りしめて敵がどう動くかを見極める。


「……行くぞ!!」


 指揮官リザートがそう叫んだと同時に『煌聖の教団』の者達は一斉に『高速転移』を使い始める。


「……!」


 イリーガルは自分に襲い掛かって来るモノだと思い、一気に大刀を振り切った。

 その大刀の衝撃波によって多くの者達の首が吹き飛んだが、これまでと違い敵は動きを止めずに、一定の速度を持ったまま移動を開始し始める。


 イリーガルは阻止しようと縦横無尽に大刀を振り回し次々と敵の首をちぎっていく。

 しかしその大壁となっているイリーガルをなんとかすり抜けるようにして、次々と『煌聖の教団』の魔族達はこの場から離脱していく。


「……くそっ!」


 流石にたった一人では全員を足止め出来ず、イリーガルはそれでも数百体の者達を屠っていく。

 その場にイリーガル以外の者達の首が飛び、残存する者が居なくなったのを確認し『イリーガル』は自分を追い越していった者達を追いかけるのであった。


「……よし! お前達ばらけろ! ばらけながら飛んで行くんだ!!」


 リザートは『』の手から抜け出した事で慢心することなく、背後から迫って来るであろうイリーガルから、少しでも犠牲を押しとどめる為に指示を出す。


 すでにリザート達の肚は決まっている。

 自分が次の標的となって、首を飛ばされても構わない。

 重要な事は敵の戦力を少しでも削ぐ事。その後に自分が生き残れなくても構わない。


「行くぞぉおお!」


 リザート達は『高速転移』を使い『リーシャ』達にグングン迫る。


 中立の者達は隊列を崩さないように通常の速度で移動をしている為『高速転移』を使って移動をしているリザート達にあっさりと距離を殺されて迫られてしまう。


「見えた!」


 リザートとその『煌聖の教団』の本隊の魔族達は、次々と追いかけながら『スタック』を展開する。


 あらゆる場所に魔法陣が出現し、後先考えずに集団に向けて魔法をぶっ放すつもりであった。


「ふーん『イリーガル』様を出し抜くなんて中々やるわねぇ?」


 ――声が聞こえた。


 ――そして次の瞬間。


 前を飛んでいる集団の最後方に居る者達に向けて、魔法を発動させようとしていた者達の手が、一斉に切断される。


「なっ……!?」


 リザートは自分の魔法が発動されなかった事にまず驚いたが、その時点ではまだ自分の両手首が無くなっていることに気づけなかった。


 声を出してそして次に魔法を放とうとして、ようやく自身の手首が無くなっている事を把握する。


(……一体何が!?)


 リザートが最後に思い浮かんだ言葉は、何が起きたか分からない疑問の言葉だった。


 次の瞬間には意識がなくなり、魂が『代替身体だいたいしんたい』に向かっていった。

 そして時を同じくして次々と『煌聖の教団』の魔族達の手、足、首が吹き飛ばされていく。


 中立の者達の集団の姿が目に映っているというのに、その誰もが攻撃をする事が出来ずに息絶えていく。


 ――影が動いていた。


 その影を認識することは出来るのだが、誰もがその正体に気づく前に死んでいく。


 ――その影の正体は『神速』のリーシャであった。


 彼女は『スタック』を使っている者達を次々と攻撃し、一体、また一体と敵を倒す毎に反動をつけながら速度を増していく。


 何体かの魔族の魔法が発動寸前までいき、魔法陣が回転しそうにはなっている。

 しかし魔法陣が回転を始める前に術者を切り刻んでいく。


 殺せば殺す程速度が増していく『神速』のリーシャはすでに、の魔族では止めようがない。


 時間を測るならば『イリーガル』が、一度に一斉の首を吹き飛ばすよりも、リーシャが一体一体屠っていく速度の方が速い程である。


 そして速いだけでは無く、一撃一撃が重い。あっさりと戦力値が500億を越える魔族の命を奪っていく。


 それでも『煌聖の教団』の者達は死を覚悟の上で、魔法を展開しようと次々『スタック』を始める。


 そんな彼らの背後から衝撃波が次々迫って来たかと思うと、首を刎ね飛ばされていく。


 『処刑』のイリーガルが辿り着いたのである。


 前方は『神速』リーシャが。そして背後からは『処刑』イリーガルが――。


 『九大魔王』の前衛を任されている両者は、普段から連携が実に良く取れていたが、その両者の阿吽の呼吸は、この場でも見せつけるように示されていた。


 もはや中位領域程度の大魔王では、いくら数がいようとも『九大魔王』達にとっては何も問題はない。


「ああああっっ!!」


 敵を屠る毎に速度を増していく『神速』は、敵が居なくなるまで止まる事は無い。


「うおおお!!」


 そして鬼のような形相で大刀を振り回しながら衝撃波をあらゆる方向へ飛ばしているイリーガルも、すでに数千体以上の魔族の首を刎ね飛ばしている。


 たった二名のソフィの配下の手によって数万といた大魔王達は、全滅を余儀なくされるのだった。


 そして誰も居なくなったのを確認したイリーガルは、恐ろしい形相で辺りを見回す『リーシャ』の肩に手を置いて落ち着かせるのだった。


 …………


「おいおいお前ら……。少しくらい残しておけよ……」


 ようやくステア達の元に辿り着いたブラストだったが、最後尾に向かったところ、その場所に居たのはリーシャとイリーガルのみだった。


 フラストレーションを発散しようと意気揚々とこの場に姿を見せたブラストは、舌打ちをしながら悔しそうに立ち尽くすのだった。


 ……

 ……

 ……

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