第655話 念話の相手

 リラリオの世界で『隠幕ハイド・カーテン』を使い身を隠していたレアだったが、フルーフの話を盗み聞きした事で動揺して魔力コントロールを疎かにしてしまった。そして『煌聖の教団こうせいきょうだん』達に自分の居場所がバレてしまったのである。


 まだ自分が何者かという事を知られないようにしなければと考えたレアは、慌ててその場からレイズに繋がる洞窟に連なる岩陰の方へと『高速転移』を用いて移動する。


煌聖の教団こうせいきょうだん』の者達に自分がレアだとはまだバレてはいないかもしれないが、すでに『煌聖の教団こうせいきょうだん』の大魔王達が複数体、こちらに向かってきていた。


(どうしよう……、どうしよう……!)


 自身では『魔王』を名乗っているレアだが、総合的な力を省みるならば十分に『』には達しているレアである。


 そのレアが移動に使っている『高速転移』は、本来『リラリオ』の世界の魔族達では、決して追いつけない程の速度が出ていた。


 ――しかしそれでも相手が悪い。


 この場に居る『煌聖の教団こうせいきょうだん』の者達は『本隊』と呼ばれる『アレルバレル』の世界に居た魔族達であり、その全員がレアよりも優れた力を有する大魔王達である。


 彼らは金色こそ体現しては居ない魔族達ではあったが、元々の戦力値が必死に逃げ続けているレアとでは余りにも違いすぎる。


隠幕ハイド・カーテン』の裏で金色を纏って必死に戦力値を高めてはいるレアだったが、それでも『煌聖の教団こうせいきょうだん』の魔族達の方が遥かに速い。


 一直線にこのまま移動していては、あっさりと追いつかれてしまうだろう。


(何か……、何かしなければ……!!)


 攻撃をすれば居場所を知らせるような物。そしてこのまま『高速転移』を使って、逃げていてもいずれは追いつかれる。


 バルドやルビリスの居た所からはかなり離れる事が出来たが、それでもこれくらいの距離であれば、無事に逃げ切ったとはとてもいえない距離であった。


 だがそれでも『隠幕ハイド・カーテン』の効果は十分に発揮している為、だいたいの位置はバレてはいるだろうが、まだ正確な位置は組織の者達にバレてはいないだろう。


 ――そこまで考えたレアは一つの賭けに出た。


 洞窟の入り口のある方とは違う岩山の方へ向けて無詠唱で魔法を放った。


『スタック』を必要としない程の中規模魔法を放った後、レアは向かってくる大魔王達を一瞥すると、洞窟の方へも向かわずにそのまま近くの岩陰に身を隠した。


 後ろから追いかけていた組織の魔族達は、突然遠くの岩山が爆発した事で一瞬そちらに気をとられたが、直ぐに魔族達は互いに目配せをする。


 一番前に居た魔族が後ろの二人に合図を送ると後ろの二人は直ぐに頷きを返す。一番前に居た魔族が一直線に岩山の方へと向かっていき、二番目の位置に居た魔族はそのまま洞窟の中へと入っていった。そして最後尾に居た魔族は洞窟の前で待機した後に『漏出サーチ』を使って最初に、レアが居た場所辺りの周辺を探知し始める。


 洞窟の入り口がある場所からそう遠くない岩陰に身を隠したレアは、必死に『隠幕ハイド・カーテン』の魔力コントロールを維持しながら今度こそ、外に魔力の余波を出さないようにと注意する。


 なんとかレアは最初の作戦通り、岩陰に身を隠す事には成功した。これで僅かではあるが時間を稼げるだろう。他にまだ追手が来ていないかを確認するが、どうやら最初の三体だけが追いかけてきたようだった。


 レアの居る岩陰からそう遠くない場所に洞窟の入り口はある。こっそりとレアは身体が見えないように気をつけながら、洞窟の入り口に陣取る魔族を盗み見る。


(よし! 上手く行った! このままアイツラをこの場所に縫い付けておいて、逆方向へ逃げれば!)


 レアは来た道をそのまま帰ろうと岩陰から離れようとするが、次の瞬間に空から次々と極大魔法が降り注いでくる。


(なっ……!?)


 先程岩山の方へ向かっていった魔族が、無差別に辺り一帯に魔法を放ち始めたようであった。爆音が鳴り響きながら、次々と魔法が放たれ続ける。


 一発でも当たれば、レアの耐魔程度であれば瀕死になる程の威力であった。そんな魔法が次々発動されているというのに、空に居る大魔王はお構いなしに放ち続けている。


 他の世界の魔族であれば、これだけの規模の魔法をこれだけ連続で放てば直ぐに魔力が枯渇すると思われる。しかしこの場に居る『アレルバレル』の世界の『』以上の存在達には、どうやらその『魔力枯渇』の問題はなさそうであった。


 そして更に洞窟の前に居た魔族が『漏出サーチ』の使う範囲を少しずつ狭めていく。

 どうやら仲間の攻撃が行われた周囲一帯にレアは居ないだろうと判断して、徐々に居場所を見極めようとしているようであった。


 上手く連携をとられて身動きが出来ないレアは、涙目になりながらも必死に考える。


(そ、そうだ! 『念話テレパシー』で助けを呼ぶことが出来れば!)


 正に妙案が思いついたとばかりにレアは一瞬笑顔になったが、直ぐにその笑顔が曇っていく。


(だ、誰を呼べばいいのよぉ……)


念話テレパシー』は互いに意識の波長が合わなければ伝える事が出来ない。


『アサ』の世界に居るエイネが『リラリオ』の世界へ行く事が決まったフルーフに戻ってきたときに『念話テレパシー』を飛ばして欲しいと伝えたのには、こういった理由があるからであった。


 片方がこの世界に居ないと判断していれば、たとえもう片方の存在が『念話テレパシー』を送ったとしても相手には届かないのである。


 この世界にいつ来るかなど詳しい打合せをしていれば『シス』や『ラルフ』に送る事が出来たかもしれないが、突発的にこの世界へ来ることになった上に『隠幕ハイド・カーテン』を使った状態でこっそりこの世界に来ているレアに、気づいてる者は居ないだろう。


『アレルバレル』の世界であれば、ソフィやユファにリーシャといった信頼できる者は居るが『リラリオ』の世界では、レアが親しいと呼べる者は少ない。


 いつでもがこの世界にも居れば、レアの『念話テレパシー』に気づき意識を向ける事が出来たかもしれない。


 しかしレアはそんなが、この世界に居るわけないと考えたが、そこでふと何かに思い当たり目をぱちくりとさせた。


 レアの脳内に『』の顔が浮かんだのである。


 ――その存在とは『』と、自分に対して言ってくれた

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