第641話 歴史が変わる一日
ヴァルーザに巻きつけられた鎖の発光が止まったかと思うと、具現化されていた鎖は消えていった。
「イーサ龍王。最後の確認なのだけれど、魔人達の大陸に居る魔族達は助けてはくれないのね?」
「私は先程からそう告げていたつもりだったのだが? 理解出来なかったのなら、理解出来るように答えてやろう」
イーサ龍王は玉座に座り直して腕を組みながら厳かに口を開いた。
「魔人達と同盟を結ぶ『
ゆっくりと、エイネは静かに目を閉じた。
それはまるで今の『イーサ』龍王が口にした言葉を忘れないように、脳内に焼き付ける行為のように『ヴァルーザ』龍王には見えた。
「今度はしっかりと理解出来たかな? さて、ここまで来る勇気を持った君に敬意を表してこの場では君を生かして帰してやろう」
イーサ龍王はそう告げると側近達を一瞥する。
「お客様がお帰りだ。
「はっ!」
側近は扉を開けた後に外に居た兵士に声を掛ける。
「おい、
その側近の龍族が配下に告げた言葉の端々からも『エイネ』という『魔族』に対する扱いがみてとれるのだった。
側近の龍族達の言葉を受けて外からここまでエイネ達を案内してくれた兵士が、玉座の間に入ってくる。どうやら彼が再びエイネを外へ、案内してくれるようだった。
エイネはもうイーサ龍王と話すつもりがないのか、隣に居たヴァルーザ龍王に顔を近づける。
(私が大陸を出るまでの間に、全速力で部下たちを全員『イルベキア』とやらに向かわせなさい)。
ヴァルーザにそう小声で耳打ちをすると、近づいてくる兵士達に『エイネ』は連行されるように部屋の外に出ていくのだった。
そして城の外までエイネが連れだされると、兵士は最後にエイネに向けて告げた。
「
『コープパルス・ドラゴン』の『スベイキア』の兵士は、エイネにそう告げると含みある笑みを浮かべながら再び城の中へと戻っていった。
「……」
無表情のまま『エイネ』はゆっくりと空へと飛翔していき、そして『ヴァルーザ』龍王が、自分の後から城を出てくるのを待つのだった。
そしてエイネが先に部屋を出ていった直後に話は遡る――。
……
……
……
「全く無駄な時間を過ごした! ヴァルーザ龍王! お前が話があるというから会ってやったというのにアレは一体なんだ?」
「も、申し訳ありません」
「結局『ガウル』龍王も戻ってこぬし……。どいつもこいつも使えん奴らだ! いつまでここに居るつもりだ! 部下共を連れてさっさと魔人族を潰してこい!」
「申し訳ありません。直ちに向かいます……」
「全く!
玉座に座りながら文句を言い続けるイーサ龍王を残して『ヴァルーザ』龍王は部屋を急いで出て行った。
(イーサ龍王は分かっておらぬ。我々龍族はあの『エイネ』という魔族を怒らせてはならなかったのだ……)
ヴァルーザ龍王はすでに『エイネ』という魔族の恐ろしさをその目で見ている。そして彼はこの後に『エイネ』がやろうとしている事を理解している。
それはもう彼では止められる事ではなかった――。
魔人族と戦争などしている場合ではない。
早く『イルベキア』の兵を国へ連れて行かなければならない。
――ここはもうすぐ死地になるだろう。
ヴァルーザ龍王がスベイキアの城を出ると、直ぐに部下達を『
そして直ぐに『イルベキア』の兵士達が、ヴァルーザ龍王の元に集まってきた。そして一斉に『イルベキア』へと脱出を図るのだった。大急ぎでスベイキアを出ようとする『ヴァルーザ』龍王のその視界の隅に『
ヴァルーザは再び全身が震えあがるのを感じながらも速度を緩めずに、一気に『イルベキア』へ向けて飛び去るのだった。
…………
「龍はとても大きくて、かっこよくて……。会話も出来る知恵のある生き物か……」
小さい頃に彼女が思い描いていた種族『
確かに
彼女が小さい頃に憧れていた『
しかし結局は『龍族』もまた『魔人族』と変わらない
「やはり私が信頼できる種族は魔族だけ」
ぽつりと呟くエイネの目は『金色』に輝いていた。
「やはり私が尊敬できる方は『ソフィ』様だけ!」
『
当然恐るべき『
この場に近づいてくる『コープパルス・ドラゴン』の全員が、信じられないとばかりにエイネの姿を見る。その驚いているコープパルス・ドラゴン達の中には
「我々『魔族』はとても優れた種族だ。お前ら『
……
……
……
その頃――。
スベイキア城の玉座に座っていたイーサ龍王は、エイネの力を感知して急いで立ち上がって口を開いた。
「ば……かな! こ、こんな馬鹿げた『
イーサ龍王の側近達が数人掛かりで結界を張り始めている。流石は戦力値10億を超える『コープパルス・ドラゴン』達である。中々に優秀な結界を張ろうとしている。
その規模は『魔族』でいうところの『
これだけの規模の『結界』であれば、戦力値が10億くらいまでの力の持ち主からでさえ、数度であれば魔法やあらゆる攻撃から守る事が出来るだろう。
そこそこの『大魔王』
―――あくまでそれは、そこそこの話ではあるのだが。
…………
「安心しなさい。私は世界を荒らしまわった後に責任を放棄するような真似はしない」
スベイキア大国の上空に居るエイネを捕らえようと一斉に、スベイキア兵の『コープパルス・ドラゴン』達が、エイネに向けて攻撃を仕掛け始める。
エイネの目が金色になった直後に膨大な『魔力』が吹き荒れた。
今回はその外へ流れ出る魔力で被害が出る事を防ごうともしないエイネは、可視出来る程の魔力を
――我らソフィ様の魔王軍所属の『九大魔王』の力を思い知れ。
『発動羅列』が書き出されて生み出された魔法陣に、迸る程の魔力が『スタック』されていく。
そしてその魔力によって、効果が発揮された魔法陣は高速回転を始めた。
―――神域魔法、『
上空に居るエイネの両手から放たれた魔法は『大魔王下限』
青色をした『結界』が間に合って、全ての魔法に対して防ぐ効果が働く準備が整う。
そしてその『結界』に向けてまるで全てを飲み込む津波のように迸る『エイネ』の魔力が乗った一つの『魔法』が襲い掛かった。
スベイキア城を覆う『
――そう。イーサ龍王の側近『コープパルス・ドラゴン』が張った『
慌ててスベイキアの民達である龍達は、街から離れるように飛翔して魔法から避難を開始する。
その様子を見ながらエイネは『コープパルス・ドラゴンが』居ない事を確認して、彼らが避難するのを黙認するのだった。
それは先程の彼女の言葉通り、必要最低限の『魔族』を罵った愚か者に対する『女帝』の
……
……
……
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