愛娘を探して編

第616話 冷戦状態

 『ダール』の世界から『概念跳躍アルム・ノーティア』によって、を果たしたフルーフだったが、現在居る場所は元々向かおうとしていた『アレルバレル』とはかけ離れた世界だった。


 フルーフが『概念跳躍アルム・ノーティア』を発動した瞬間に『煌聖の教団こうせいきょうだん』の総帥である『ミラ』が『時魔法無効化タイムマギア・キャンセル』という『魔神』が操る『技』を使い妨害したのである。


 その妨害を受けたフルーフは再び『アレルバレル』の世界へ向かう為に『概念跳躍アルム・ノーティア』を試みたが、既に魔力が枯渇しかけていた身体だった為に、完全に魔力が切れて意識を失ってしまった。


 ――現在フルーフは『』と呼ばれる世界に跳ばされていた。

 この世界は『アレルバレル』の世界から座標が一番近い世界である。


 生息する種族は他の世界に生きる種族と遜色は無いが、その割合は『アレルバレル』の世界とは大きく異なっている。


 内訳は『龍族』が三割『魔人族』が三割『精霊族』が二割『魔族』が一割『人間族』が一割といった割合でそれぞれが違う大陸で暮らしている。


 この『アサ』の世界では『龍族』や『魔人族』が世界を代表する力を持っており、この二種族間で近々戦争が行われるだろうといわれていた。


 そして今フルーフが居る場所は、その戦争真っ只中の魔人族が支配する大陸の一つで、魔人族の王が拠点とする場所の近くであった。


「確かこの辺で』を感知した筈なのだけど」


 そこへが倒れているフルーフの元へと近づいてくる。どうやら『概念跳躍アルム・ノーティア』を用いたフルーフの魔力を感知して探りに来たようだった。


 そして遂に倒れているフルーフを発見したその『魔族』は、目を丸くして驚いた。


「そ、そんなまさか! こ、この御方は『』!?」


 その魔族は慌てて倒れている『フルーフ』を担ぎ上げたかと思うと、そそくさとその場を後にするのだった。


 ……

 ……

 ……


 その頃『バルド』と共に『ルビリス』が『リラリオ』の世界へ到着した。


「ルビリス。私は『アレルバレル』の世界で待つようにとミラ殿に頼まれていたのだが……」


 ミールガルド大陸の西南の山脈地帯に降り立った『バルド』は目の前に居るルビリスに声を掛ける。


「そのミラ様が貴方をこの世界へお連れするようにとですね。私に言われたのですよ……」


 バルドはアレルバレルの世界で『ミラ』に用意された施設で、実験体の研究を続けていたところに、唐突に教団の司令官であるルビリスにここまで連れてこられたのだった。


「ほう? ミラ殿に? では『ダール』の世界では失敗したとでもいうのか?」


「いえ、そちらは……。例の計画は成功して『ミラ』様は『』にまた一歩近づかれましたよ」


「では何故この世界へ?」


 バルドは『ダール』の世界で計画が失敗したことにより、この世界で計画を再実行するつもりだろうと予想していた。しかしルビリスの話ではどうやら違うらしく、どういう事かとバルドは首を傾げるのだった。


「あの化け物がこの世界から『アレルバレル』の世界へ戻った事で、この世界がどうなっているか調べてくるようにとミラ様に頼まれたのですよ」


 大魔王ソフィが『アレルバレル』の世界へ戻ってきているという事をきかされたバルドは、目を丸くして驚いていた。


「その様子ではまさか知らなかったのですか?」


「……」


 バルドが無言でルビリスを見つめるとルビリスは、普段あまり見せる事がない表情で溜息を吐いた。


「バルドさん? 研究熱心なのはよろしいですが、貴方は今やこの『煌聖の教団こうせいきょうだん』の相談役なのですよ? もう少し研究以外の事にも視野を広げてもらわなければ困ります……」


「あ、ああ。すまぬな。悪いが最初から説明してもらえるか?」


 別の世界に居た自分より詳しくなくてはいけない筈のバルドは、どうやら研究に没頭していたらしく大賢者『ユーミル』が化け物に倒された事や『ダイス』王国に『煌聖の教団こうせいきょうだん』の大多数が集められた事など、これまで知る由もなかったらしい。


 ルビリスは仕方ないとばかりに、再び溜息を吐きながら事情を最初から話し始めるのだった。


 ……

 ……

 ……


 その頃『アレルバレル』の世界へと『本隊』を呼び戻しにいっていた『ネイキッド』達がイザベラ城へ続々と集まってきていた。


 彼らは『煌聖の教団こうせいきょうだん』の本隊の内の三分の一の部隊をリザートに預けて、残りの部隊を『ダール』の世界のこのイザベラ城へと集結させたのだった。


 しかし戻ってきたネイキッドは倒れている大魔王ヌーを見て、驚いた様子でミラを見る。


「お前が戻っている間に、少し面倒な事が起きてな。あのフルーフの洗脳が解けて、我々の前から逃亡したのだ」


「ま、まさか! そ、それで?」


 主のミラからの言葉に『本隊』の総隊長である『ネイキッド』は信じられないとばかりに、ミラに問いかける。


「奴自身は『アレルバレル』の世界へと向かおうとしたようだが、それは私が阻止した。今は次元の狭間に落ちているか、別世界へと逃げただろうよ」


「な、なんと……!」


「そ、それでヌー殿は、フルーフにやられたのですか……?」


「ああ。厳密には奴が使役した『』にだがな」


 ネイキッドだけではなく、他の『煌聖の教団こうせいきょうだん』に属する大魔王達も倒れ伏しているヌーを見て驚いた様子であった。


「いいか? 少し作戦を変更する。お前達は全員で『リラリオ』の世界へ向かって『ルビリス』と合流しろ」


「分かりました。しかしその狙いは何でしょう?」


「あの化け物とエルシス。そしてフルーフと揃わせるわけにはいかない。それはお前にも分かるだろう? だからお前達はエルシスの力を持つを始末してくるんだ」


「御意! ではミラ様はどうなされるのですか?」


「私は逃げた『フルーフ』を先に始末するつもりだったが、リザート達はあの中立の魔族達と戦争を起こすつもりなのだろう?」


「は、はい! 申し訳ありません。ま、まさかこんな事になっているとは思わず、私が奴に部隊を渡してしまいました」


「ああ。別にそれは構わないんだがな。リザート達が動けば、化け物が網を張るかもしれぬ。こいつが目覚めるまではこの世界でフルーフの魔力を追うとしよう」


 どうやらミラは考えが他にもあるらしく、そうネイキッドに伝えるのであった。


「分かりました。それでは我々はこのまま『リラリオ』の世界へと向かい、ルビリス様達と合流致します」


「ああ。何かあれば直ぐに連絡しろ」


「御意!」


 ネイキッドが返事をすると、慌ててその場にいた者達は『概念跳躍アルム・ノーティア』の準備を始めるのだった。


 ……

 ……

 ……

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