第612話 死を司る神

「何がおかしい、フルーフ! お前の頼みの綱の死神は私の一撃で滅びた。次はお前の番だ!」


 ミラは『死神皇』を撃ち滅ぼした時の表情とは程遠い表情を浮かべながら、勝ち誇るフルーフの笑みに苛立ちを向けてそう告げるのだった。


 『魔神』の『高エネルギー波』と同じ規模の魔法を放つ準備をして追尾をしながら『ミラ』はフルーフに手を向ける。


 『高速転移』であっても今のフルーフよりも速く動く事の出来るミラを相手に、ただの『転移』で移動を続けるフルーフは、あっさりとミラに追いつかれる。


 そしてミラから『魔法』が放たれる事になるならば、一瞬で消し飛ばされるであろう。フルーフはミラにその『高密度エネルギー波』を向けられるのだった。


「強すぎる力を持ち過ぎた事で、簡単な事を失念してしまったか?」


 しかしそれでもフルーフは笑みを崩さずそう告げた。


「な、何だとっ!?」


「哀れな人間よ、老獪な魔族を相手にする時は決して油断をしてはならぬぞ」


 フルーフはそう言うと無詠唱で『万物の爆発ビッグバン』を目の前で発動した。

 今更『万物の爆発ビッグバン』程度の『超越魔法』を直撃させられたとしても、ミラは何のダメージを負う事はないがそれでも放とうとしていた『魔法』の照準を一時的に狂わされる。


「時間稼ぎのつもりか、フルーフ! だが、お前は私から逃れる事は出来ない!」


 『万物の爆発ビッグバン』で目晦まし効果を味わった『ミラ』の視界が晴れていき、フルーフの姿を捉えた事で魔法を再度放とうとする。


 ――しかしその瞬間。ミラの背後から消えた筈の『死神皇』の『魔力』を感知するのだった。


「!?」


 慌ててミラが背後を振り返るが、その瞬間大地に低い声が響き渡った。


「――」(我ら死神を侮るなよ。小賢しい人間)


 なんとミラの一撃によって消し飛ばされて、幽世へと還された筈の『死神皇』が、攻撃の手筈を整えてミラの背後から迸る程の魔力を放出していた。


 『死神皇』がミラを捕捉して突き出した右手が『』に包まれたかと思うと、ミラの心臓部分にのようなモノが出現する。


 そして『死神皇』が突き出した右手を握ると『転移』で移動するミラは白目を剥いて絶命する。

 『死神皇』の『死神の力』によって、ミラの命は握り潰されたようであった。


 ――流石は死を司る『』である。

 更にその全ての『死神』を束ねる王『死神皇』は、あっさりと耐魔を誇ったミラの命を奪うのであった。


 ……

 ……

 ……


 そしてイザベラ城では『ヌー』と『小柄な身体の死神貴族』が、激しい戦いを繰り広げていた。

 自分の背丈よりも遥かに長く大きい鎌を、両手で器用に振りながら『大魔王最上位』領域クラスの『ヌー』と互角に渡り合っている。


 この場合は『神位』がそこまで高くない『死神』を褒めるべきなのか、それとも『神』である『死神』を相手に『魔族』の身である『ヌー』を褒めるべきか――。


 まさに『死神貴族』と『ヌー』の戦いは拮抗し互角と呼べる程であった。


 すでにもう一柱の『死神貴族』の方は早々に『ヌー』の魔法で退場させられており、ヌーは先程より強い『』を相手にする。


 小柄な体のどこにそんな力があるのかと問いたくなる程に、大きな鎌を振り回し続ける死神貴族。

 その鎌には『』が纏われており、どうやら少しでもこの鎌にダメージを負わされてしまえば、何らかの効果が及ぼされるのだろうと戦闘経験の長いヌーはアタリをつけるのだった。それ程までに嫌な気持ちを抱かせる悍ましい『』であった。


 ヌーは『死神貴族』の鎌を華麗に躱し続けて、ヌーからも攻撃を繰り出す。

 これまでにヌーが発動した魔法は、相手の動きを誘導する為の小規模攻撃魔法であった。


 しかしあからさまな誘いには乗ってはこずに『死神貴族』もまた華麗にヌーの攻撃を捌き切る。

 大魔王中位領域程度の存在であれば、今頃はこの『死神貴族』に首を吹っ飛ばされている事だろう。


 ――しかしここで長期に渡る戦いに変化が訪れた。


 大鎌を振り切った直後を狙ったヌーが、速射砲のように『超越魔法』を連続で撃ち出した事で『死神貴族』は今までのように避けずに被弾しながらも真っすぐに、ヌーの間合いに強引に入ってきたのである。


 どうやらヌーの超越魔法程度であれば、多少食らわされたとしても問題はないと『死神貴族』が判断したのだろうか、若しくは同じ展開に痺れを切らしたか。


 しかし『死神貴族』がこれまでと変わった行動をとった事で確かな変化は生じた。


 今まで躱されていた『死神貴族』の攻撃は、ヌーの首を直接刈れる間合いに入った事で、僅かではあるがヌーの肩口を掠める事に成功した。


「ちっ!」


 ただ掠っただけの『死神』の攻撃だが、ヌーは傷口からじくりと痛みを感じる。そしてその痛みは徐々に熱を増していく。そしてその熱は更に熱くなると、小さな痛みが皮膚を切り開かれたかのような大きな痛みに変わる。


「グ……ッ! な、なんだ……。ど、どうなってやがる!?」


 『桃色の髪の小柄な身体』の『死神貴族』は、ヌーの魔法によって被弾した胸元を手でおさえるが、勝ちを確信したかのように笑みをヌーに向けると、大鎌を担ぎ直して再びヌーに襲い掛かるのであった。

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