第611話 死神の恐ろしさ

 フルーフが『時魔法タイム・マジック』を使おうとしている事に気づいているのは、ミラ達だけではなく『死神皇』や『死神貴族』達も同様に気づいているようだった。


 『ダール』の世界に現れた『魔神』もそうだが、一定以上の『神位』がある神達は『魔』に対する知識も相当に豊富のようだった。


 そもそも死神や魔神は現世の存在では無い。

 本来、こういった存在には現世の魔法は通用しない事が多いのだが、世界そのものに干渉し得る『時魔法タイム・マジック』は別である。


 『時魔法タイム・マジック』は現世にいようがいまいが、世界自体に干渉する魔法の為に『神』と呼ばれる存在に対しても『時魔法タイム・マジック』の規模にもよるが影響を与える事があるのである。


 最高の『神位』を持つ存在である『魔神』はその事をよく熟知している為、この『時魔法タイム・マジック』に対しては自身に影響を及ぼさないよう『時魔法無効化タイムマギア・キャンセル』という対策が古くから取られるようになった。


 現在では当たり前のように『無効化』する事が出来る『魔神』達だが、最初から無効化出来ていたわけではなく『時魔法タイム・マジック』の脅威に晒された過去から学び、対策に着手してようやく現在のように至っているのであった。


 つまり『魔神』に対しても有効的であった『時魔法タイム・マジック』は、に居る存在に対しても侮る事の出来ない魔法なのである。


 そしてそれは同じく『神』の『神位』を持つ『死神』にもいえる事なのだろう。だからこそ、今フルーフがこの『時魔法タイム・マジック』を使う為に、魔力を『スタック』させた事は『死神皇』だけではなく『死神貴族』達もフルーフが。それをよく理解しているのである。


 そしてそんな脅威ともいえる力を持つ『時魔法タイム・マジック』を使うフルーフを『


 彼ら『死神貴族』にとって『死神皇』の言葉は絶対であり、当然逆らう事など許されない。

 フルーフを守れと言われた以上は、先程のヌー達が使役した『死神』達のように契約で縛られでもしない限り逆らう事などはあり得ない。


 死神貴族の二柱は『フルーフ』が何時でも魔法を使えるように、完全に盾になるつもりで周囲でフルーフを守っていた。そして遂にフルーフが『スタック』させた魔法を発動させようとした瞬間に、あらゆる者達が行動を開始する。


 フルーフの周りに『レパート』の『ことわり』で刻まれた羅列が浮かび上がると、ミラは瞬時に手をフルーフに翳して目を『金色』に変えた。


 その瞬間にフルーフの『時魔法タイム・マジック』である『概念跳躍アルム・ノーティア』の『スタック』が消え去り『発動羅列』そのものまでもが停止させられた。


 フルーフはやはり直接の発動は不可能だと今の一瞬で悟ると『高速転移』を用いて一気にミラ達から距離を取り始めた。そのフルーフを追いかけようとミラ達は『フルーフ』を追いかける。そこに『死神皇』と『死神貴族』が割って入る。


「どきやがれぇっ!」


 ヌーは二柱の『死神貴族』を相手に『極大魔法』を放つ。


 ――神域魔法、『闇の閃日ダーク・アナラービ・フォス』。


 ミイラ化している馬に乗っている方の『死神貴族』は、大魔王最上位領域に居る『ヌー』の極大魔法をその身に直撃して左半身が吹き飛んだ後、馬ごとひっくり返った。


 その様子を見たヌーは倒れている『死神』の方を無視して、そのまま『高速転移』で後を追いかけようとするが、そこに恐ろしく大きい鎌を持ったもう一柱の『死神貴族』が、ヌーに向けて得物を振り切る。


 ヌーはその大鎌を回避して『万物の爆発ビッグバン』を無詠唱で『死神貴族』に放ってみせるのであった。


 『小柄な死神』の方の『死神貴族』は舌打ちをしながら後方へと距離をとるために跳んだかと思うと、次々ヌーの魔法を躱し続けていくが、その間にミラは『金色のオーラ』を纏いながら一気に駆け抜けていった。


 恐るべき『高速転移』の速度は、既に人間の領域を越えている。それは大魔王最上位領域のヌーより早かった。


 どうやら『金色のオーラ』を纏いながら、更に『神聖魔法』である『妖精の施翼フェイサー』を使っているようであった。


 余りの速度にミラを見た『』は舌打ちをして、すぐに後を追おうとするが諦めた。どう足掻いても自分の速度では、追いつけないと判断したのだろう。


 この場に残された『』は、先程自分に向けて攻撃をしてきた『ヌー』に襲い掛かっていった。


 恐ろしい加速を果たした大賢者ミラは、他の者達を置き去りにしてフルーフを追いかける。かなり引き離していたにも拘らず、みるみる内にフルーフに追いついていき、やがてはその背中が見えた。


 フルーフは『高速転移』を使いながらも『概念跳躍アルム・ノーティア』の発動を再び試みようとするが、詠唱無しで追われている状況での発動は『位置情報』に正確性を保てない。


 このままでは失敗してレアの居る『アレルバレル』の世界に座標を合わせられないと判断して、フルーフは『高速転移』では自由自在に動けない為に、追いつかれるギリギリを見極めながら『通常』の『転移』に切り替えて向きを転換する。


「クククッ……! このミラから逃れる事はできんぞ! フルーフ!!」


 しかしどれだけフルーフが離れようとしてもそのフルーフの『転移』の速度の何倍も速い速度で一気に追い迫ってくるのだった。


 フルーフの目の前まで迫ったミラに、フルーフは顔を歪ませながら『金色の目ゴールド・アイ』をミラに向ける。

 『転移』で追い縋るミラは器用にフルーフの『魔瞳まどう』を空中で身体を回転させながら躱してみせた。更に大賢者ミラは、フルーフを見ながら笑みすら浮かべる余裕があるようであった。


「……な、何て奴じゃ! 死神皇! 何とかしてくれぃっ!」


 フルーフを追いかけるミラの更に後方。そのフルーフの言葉に応じるかの如く、漆黒のマントを靡かせながらミラを背後から追尾する『死神皇』だった。


 『死神皇』の目が紅く光ったかと思うと、ミラの身体が空気圧に弾かれるように跳ねたかと思うと、地面に叩きつけられる。


 ――どうやら『死神皇』の『技』の影響のようであった。


「……ほう。今の私に影響を及ぼすとは、流石は『』だな」


 フルーフにもう一息で追いつく所まで来ていたミラは、一時的にフルーフを視界から外して、背後から追ってきている『死神皇』の方へ向く。


「クククッ……! 貴様ら『では受けきれぬ『』の持つ至高の『技』を拝ませてやろう!」


 ミラはそう告げて一定の速度を『高速転移』で出しながら器用に背後を振り向いたかと思うと『死神皇』に向けて『魔神』の『高エネルギー波』の恐ろしい密度を持ったあの『技』を、自らの魔法に変えた『発動羅列』を用いて『無詠唱』で発動するのだった。


 『死神皇』はミラの恐ろしい程の殺傷能力を持った『エネルギー波』をまともに浴びて、一瞬で現世から消し飛ばされた。


 『』に存在して『大魔王最上位』領域クラスの『ヌー』を赤子のように扱った『死神皇』だが、それでも今の『魔神』の『技』を放った大賢者ミラに、一撃で葬られてしまうのだった。


 ミラは消し飛んだ『死神皇』を一瞥してニヤリと笑みを浮かべると、再びフルーフの方に視線を向けるのだった。


 ――しかし先程まで苦い表情を浮かべていたフルーフの表情もまた、ミラのように勝ち誇った笑みを浮かべていた。


 ……

 ……

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