第593話 中立の者達の集う場所

 謀らずとも背後から迫ってきていた『リザート』達に迷いを生じさせて、追尾を遅らせる事に成功したリーシャ達。そして遂に『アレルバレル』の魔界で最西端の大陸が見えてくるのだった。


 『リラリオ』の世界のように平和な世界では無い為に、至る所に町があるといった事も無く、リーシャ達の場所から見える空からの眺めは至る所に廃墟というのが、相応しい瓦礫に埋もれた建物の残骸がそこらかしこに見えるのだった。


「到着しました。ここからあと数分程これまでと同等の速度で空を飛べば、私たちの拠点とするアジトがありますので、そちらの方へご足労願います」


 リーシャ達は廃墟の様子を見渡しながらも、全く驚きを見せずにステアの言葉に頷いた。


 別世界では珍しいような光景であっても、この世界ではこの状態が普通な為であった。


「それでは行きましょう」


 立ち止まっていたステアが再びオーラを纏い『高速転移』の準備を始めて飛び立とうとする。イリーガルは一度だけ背後の空を見やり、次にリーシャと顔を見合わせたが、無言でそのままステアの後を追いかけるのだった。


 ……

 ……

 ……


 ステア達を追尾していた組織の者達は、ひとつ前の大陸の空で足を止めていた。理由は『本隊』の隊長であるリザートが、総隊長のネイキッドと『念話テレパシー』で、連絡を取っていたからであった。


(どうやら、奴らの目的地は、最西端の大陸で間違いないようですね)


(成程。我ら教団に入る事を拒んだ奴らを中央大陸に集めるつもりかもしれんな)


(中立と言っておきながら『化け物』が帰還を果たした瞬間に配下になり下がりますか。奴らのリーダーとやらは中々に骨があると言われていましたが、結局はその程度の者達でしたね)


 中立のリーダーであるステアは、一騎当千の強さを持つ大魔王と、過去にいわれていた人物だった。今まで魔王軍にも教団にも属さず、同盟関係すら築かずに小規模組織のリーダーとして君臨していた。


 教団の分隊長を務めている『リザート』もそんなステアを気に入り、この教団へ何度も誘ったがいつも答えは決まって拒否であった。


 だが、こうして魔王軍のソフィが帰ってきた途端に『ステア』はあっさりと、化け物に尻尾を振った。


 ――結局はその程度の男だったかと『リザート』は『ステア』に興味を失くすのだった。


(目的が分かっただけで十分だ。もう奴らは放っておいて構わぬ。お前はその近隣の大陸に散らばっている教団の者達を集めて戻ってこい)


(何処で合流をしましょうか?)


(もうそろそろ此方から出した遣いが『ダール』の世界に居るミラ様の元へ辿り着く頃だ。明朝までに『ダイス』の方へ集められるだけ集めてこさせろ)


(御意!)


 そこで『念話テレパシー』は途切れた。ひとまず奴らの追尾は、終わりだという事に決まった。後は事情を聞いたミラ様が戻ってくれば、新たな作戦を与えて下さるだろう。


 中立の立場の者達もそれなりに数は多く、出来れば教団側へと引き入れておきたかったが仕方が無い。それでも魔界に居る魔王軍以外の魔族の七割から八割は既にもう教団側である。これだけ数を集める事が出来ればもう充分だろう。


 リザートは振り返って配下達にのジェスチャーを出す。それを見た配下の『本隊』の大魔王達は、一斉に近隣の大陸へと、向かって飛び立っていく。


 最後に中立の者達が集まる大陸を見つめるリザートだったが、やがてその大陸に背を向けて『人間界』の方角へと向かって飛んで行くのだった。


 ……

 ……

 ……


 ネイキッドとリザート達の『念話テレパシー』が行われている頃。イリーガル達は中立の者達が集まっている大陸の中心の場の空へと辿り着いていた。


「この先に結界が張ってありますが、このまま何もせずに侵入してください。我々が結界を通る事で、彼らに知らせる手間が省けますので」


「ああ、分かった」


 ステアの言葉にイリーガルは了承の返事をする。


 やがてステアの話の通り、前方に結界が張ってある場所がみえた。

 どうやら『結界』の規模は『大魔王下限領域』までの攻撃を無効化と侵入者の感知といったところだろう。


 この『アレルバレル』の世界では、そこまで大規模な結界でも無い。

 単純に侵入者が来た事を、知らせるのが目的なのだろう。


 この程度の規模の結界であっても、長期に渡って持続させるには、そこそこに魔力を消費する為に、よっぽど戦争の真っ最中というワケでもなければ、この結界程度で十分なのである。


(※それでもソフィ達が現れる前の『リラリオ』の世界であれば『ミールガルド』の人間や『ヴェルマー』大陸の魔族達の攻撃を無効化するには、十分過ぎる程の結界であった)。

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