第590話 完璧な解析を果たす天才

「仕方あるまい。今はこの魔法の完全な解明は諦めるとしよう」


 フルーフは沸々と沸き上がった感情を今の状況を把握し直した事でなんとか収めた。

 そして次にフルーフは『発動羅列』から『聖動捕縛セイント・キャプティビティ』効果が付与されている枷に視線を移す。

 次に今まで自分の生涯を費やしながら創り出してきた、多くの魔法を頭の中で思い浮かべる。


(魔法発動を発動してから遮断されるまでの猶予は0.7秒から1.2秒程くらいか……。その間に優先的に消さなければならぬ効果は『遮断』の方では無く『魔族』に対する特効)。


 フルーフは『聖動捕縛セイント・キャプティビティ』の全てを一度で解除する事は考えずに『二つ』の異なった『魔法』をそれぞれ編み出す事にするようだった。


 『一つ目』は『聖動捕縛セイント・キャプティビティ』の基となる『神聖魔法』の特効効果を消す魔法である。


 先にその効果を一つ目に選んだ理由は、単純に魔族に対して有利を働く全ての『神聖魔法』に対して干渉して和らげる魔法を作っておくべきだと判断したからである。


 『二つ目』に現在の目的である『聖動捕縛セイント・キャプティビティ』の解除の役目をする為の魔法であった。


 こうして並べて考えると簡単な事のように思えるが、そもそも大賢者と呼ばれるその道に優れた存在であっても今フルーフがやろうとしている事は出来ない。


 最高の大賢者が編み出した神聖魔法に対して、魔族でなくても対抗する手立てを作り上げる事が出来ないからである。


 理由としてはまず『新魔法』を創り出す為には、一から『発動羅列』を組み上げる必要があるのである。そしてこれが重要な事なのだが『神聖魔法』に対抗するための『』を創る事。これこそがとても複雑で難易度を跳ねあげている。


 何故なら先程フルーフがしてみせたように、魔法の発動羅列を読み解かなければ、その魔法の効力を明確にする事が出来ないからである。


 『魔』とは『魔法』を示す物であるが、極めようと思えば多くの知識が必要となってくる。

 魔法を発動する為には『ことわり』や『魔力』が必要になるが、そもそも魔法を使う為に『発動羅列』を覚えなくては『魔法』は使えない。


 そして多くの駆け出しの魔法使いは先達の『賢者』と呼ばれる者達や、魔法書といった書物で『発動羅列』を理解する。


 『発動羅列』を理解して『超越魔法』や『神域魔法』といった魔法を使える者であっても『発動羅列』を生み出す大賢者階級クラスに到達する者は稀有である。


 『発動羅列』を生み出すという事が、新魔法を創り出すという事と同義ではあるが、この創り上げた『発動羅列』の配列を再び変えるという事はより難しく、下手をすれば苦労して出来た『魔法』自体が無駄になってしまう。


 そして上手く組み替える事が出来たとしても、元々あった魔法より効力が弱くなる事もあるのである。


 だからこそ『魔法』を改変するというのは、大賢者クラスでも、デメリットを考えるならば、手を加えようとはならない。


 そもそも『発動羅列』を読み解いて『新構築』といった改変が出来る者など、大賢者クラスであっても一握りにしか出来ない。


(大賢者ミラでさえ、をかけてエルシスの神聖魔法を改変している)。


 それ程までに『発動羅列』というものは、『魔法』を最初に理解するものでありながら『魔』を極める上で一番重要なモノなのである。


 そしてそれ程の難度の高い『発動羅列』を目で読み解けない筈のフルーフが、過去の経験から配列のみでこの不自由な状況下で『聖動捕縛セイント・キャプティビティ』を解析し終えた上に、その『聖動捕縛セイント・キャプティビティ』という『神聖魔法』に対する『発動羅列』を組み上げようとしているのである。


 大魔王フルーフがどれ程までに『魔』に対するセンスを持っているかが窺い知れる事だろう。

 フルーフは過去に自らが創りあげた『呪縛の血カース・サングゥエ』の一部分の『羅列』を神聖魔法の特効効果を打ち消す為に補い始める。


 一度目は『発動』自体が失敗し、二度目は効力が弱すぎる事で失敗してしまう。

 三度目にして神聖魔法の魔族に対する『特効』に干渉するが、逆にフルーフの新魔法が『神聖魔法』に打ち負けてしまった。


 単に魔力の差というわけでは無く『魔法』そのものの『位』の差のようだった。


(成程。私の『呪縛の血カース・サングゥエ』よりも、魔法としての質は上か)。


 枷に施されている『聖動捕縛セイント・キャプティビティ』の『魔法』としての難度の高さにフルーフは、再び嬉しそうな笑みを浮かべるのだった。


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