第563話 洗脳

「ルビリス」


「はい。何でしょうか?」


を外へ運び出せ。そろそろ魔法の準備をする」


「仰せのままに」


 神殿の中央の部屋で先程まで独り言をつぶやいていたミラは、唐突に我に返ったかと思うと『煌聖の教団こうせいきょうだん』の司令官である『組織』のNo.2である『ルビリス』に指示を出すのだった。


「ヌーよ。悪いがお前に頼みがある」


「まだ何か俺にさせるつもりか。いい加減に……」


 反論を述べようとしていたヌーに向けてミラは、視線を向けて一瞥する。


「ちっ!」


 ヌーは舌打ちをしながら喉まで出かかっていた言葉を飲み込む。


「上手く『魔神』をこの場所へ出現させられた後の事なんだがな。少しだけお前には『使』をやって欲しいんだ」


「何だと? 俺にというのか?」


「いや『魔神』は役目を終えれば消える筈だ。少しの間だけ『使用者』の生存時間を延ばしてもらえればそれでいいだけだ」


 ヌーの言葉に間髪入れずに、ミラは答えるのだった。


「ならばお前がやればいいだろう?」


「出来ればいいんだがな。私は他にやる事があるし『ルビリス』達では『魔神』の一撃でさえ耐えられるとは限らんからな」


 どうやら『リラリオ』でソフィの使役した『魔神』と戦い、無事に生き延びて見せた『ヌー』を買ってのミラの言葉だったのだろう。


 その事を瞬時に悟ったヌーは、溜息をつきながらも了承して見せるのだった。


「いいか? 本来であればこんな危険性の高いやり方は選ばないんだ。しかしこれしかあの『化け物』に勝つ方法はないだろう。一つでも手順が狂えば作戦は破綻だ。私の立案した


 他者に頼んでおいてミラの発する言葉は、何という自分勝手な発言だろうか。ヌーはミラの言葉にキレそうになるのを必死に堪える。


「クソがッ! どいつが使か分からねぇんだよ! さっさと出しやがれ!」


 ヌーは怒号を発したが、どうやら遠回しにミラの作戦を受託した事を伝えるのだった。


 ミラはニヤリと笑うと背後からミラに付き従いながら、ついてくる信徒の一人の顔を見る。


「お前も簡単な神聖魔法は使えるだろう? 重大な役目を与えてやる。話は聞いていたな? 私の役に立て」


 ミラから直接役目を告げられた『使』は、感動に打ち震えながら何度も頷きを見せる。


「ありがとうございます! 総帥ミラ様からの重大なお役目、賜りました!」


 信徒の一人は目をキラキラとさせながら、喜んで『死』を受け入れるのだった。ミラは信徒に使う神聖魔法の種類を伝えた後は、もうその信徒の顔を一切見ずに歩いていった。信徒は操られているわけでもないのに、ミラに『お役目』を与えられて喜んでいた。


 ヌーはこれが洗脳というものかと顎に手を当てながら、感心するように頷いてみせるのだった。


 …………


 ミラ達はついに神殿の外に出て、魔法を使う準備を始めるのだった。これからミラの手によって、『魔神』を呼び出す為に、この世界でが行われるのだろう。


 ヌーの役目は目の前で、使となって数回程、魔神の攻撃から使用者を生かす事であるが、魔神の攻撃は恐らく生半可ではない為に、一つ間違えれば『使用者』どころか、自分さえもやられてしまうだろう。


 ――そうならないようにとヌーは『オーラ』を纏い気を引き締めるのだった。


「さぁ、それでは始めようか」


 そう言うとミラの周囲に『金色のオーラ』が纏われ始める。

 そして膨大な魔力が『魔力回路』から発せられた。


 次にミラは『仮初需生テンポラーヴォ』で作り出した後に必要な、大勢の魂を収納する『生命回路』の準備を始めるのだった。


 今回はあくまで魔神を呼び出す為の『魔法』の副産物ではあるが、大勢の魂を『復活生成リザレクト』によって自身の本来の『命』の代わりに消費させる事を可能と出来る。


 まさに目的となる『魔神』を呼び出しながらにして、自身の『仮初の命』を増やす事も出来る一石二鳥の作戦であった。


 ミラは山脈の崖の前に立つと世界を見下ろすように、ここから見える街並を見る。そして次の瞬間にミラは、一度だけ『使』を一瞥した後に、静かに両手をあげて『スタック』の準備を始めるのだった。


 ――神聖魔法、『仮初需生テンポラーヴォ』。


 ミラの両目が『金色』に輝いた後『スタック』させていた膨大な魔力が、魔法の詠唱によって引き起こされて魔法陣に乗り始めた。


 膨大な魔力を受け取った魔法陣は、広範囲を対象として高速回転を始める。

 そして大勢の命を一瞬で奪う『』を目的とする『』がついに展開されるのだった。


 ……

 ……

 ……

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