第562話 魔神を出現させる方法

「お前が負ける確率がゼロだと?」


 まさかのミラの言葉にそれまで怒っていたヌーは、普段冷静さを取り戻すのだった。


「お前には前にも話をしたと思うが、私は不死に近い程の『』を持っているのだ。あの化け物は。魔族に強い神聖魔法を持つ私であっても一筋縄でいかないのは分かっている」


 本来神聖魔法とは『魔族』を葬る為に創られた魔法であり、他の種族に対してはそこまで強い効力を持たないのがこの『神聖魔法』である。


 だが、その魔族に特効を持つ『神聖魔法』を以てして『と『魔』に精通する大賢者『ミラ』が認めているのだから、あの化け物が『特別』であるのは見て取れるのだった。


「しかし『神聖魔法』と『不死の力』を持つ私が『魔神の力』をも超越する力を手にする事が出来たならばだ。いくら強かろうが単なる魔族に過ぎないソフィを超越する事が出来るとは思わないか?」


「魔神を超越する存在だと……?」


煌聖の教団こうせいきょうだん』の信徒達や幹部の連中が、饒舌に喋り続けるミラを崇める中でヌーだけが眉を寄せながら、言葉の真意を確かめるようにミラを睨むのだった。


「流石に私も今回は余裕はない。一つでも手順やミスをおかせば取り返しのつかない事が起きて、あの化け物ソフィと戦う以前に計画は破綻してしまうからな」


 普段は自信満々で行動をするミラが、最大級の懸念を前に額に汗を掻いていた。どうやら今喋っている事は嘘ではないのだろう。


「いいだろう。もう一度だけお前を信用してやろう」


 ヌーはミラが本気で計画を実行しようとしている事を把握して、博打を打つ決心をつけるのだった。


「助かるぞ大魔王『ヌー』よ。私は今度こそエルシスを越えて、そしてあのを越えてみせよう」


「だが約束しろよ? 決して


 ヌーのミラを見る目は真剣そのものだった。本当であれば『ソフィ』を自分の手で葬りたいと願うNo.2の男が自分の野望を他者に託すと決めたのだから『真剣』なのは当然といえた。


「ああ。ここまで来れば私とお前もまた一蓮托生だ。上手く行った後はお前にも望むものをいくらでも与えてやるさ」


「ふん。その言葉を忘れるなよ」


 ――大魔王『ヌー』と大賢者『ミラ』。


 互いにソフィという絶対者が居なければ『アレルバレル』という世界で『王』になれた器同士が、ここにを交わすのだった。


「さて。それでは早速計画に必要な魔神を生み出す為に、この世界を『』へ変えなければならないな」


「死の世界だと?」


「言っただろう? 魔神を現世に呼び起こすには多くの犠牲者を出す必要があるとな」


「それは……。まさか」


 ヌーは目を丸くして驚いた視線をミラに向ける。


「ふふ『概念跳躍アルム・ノーティア』か。フルーフこいつもまさか自分の編み出した『魔法』をこんな使い方をされるとは思いもしなかっただろうな」


『アレルバレル』という恐ろしい世界のNo.2であるヌーでさえ、ミラがフルーフに見せている残忍な笑みを前に、嫌悪感を覚えるのだった。


「重要なのは『魔神』を呼び出す過程だが、私が魔神にだと、認識されてはいけないのだ」


 先程までヌーやフルーフを見ていた時の正常な目とは違い、どこかここではない場所を見ているようないわゆる『トリップ』しているような目をミラは見せる。


 そしてブツブツと今も独り言を言っているミラだが、ヌーはこの姿に見覚えがあった。


 それは『エルシス』という存在が生み出した『神聖魔法』について語っている時の『目』をしているのであった。


 どうやら分かりにくいが、興奮や集中をしすぎて冷静さを欠いている時にこの『ミラ』は、この目をする傾向にあるようだとヌーは静かに『ミラ』を観察しながら思うのだった。


「『魔神』がどのタイミングで出現するかまでを研究する時間はなかったが、それでも一定の数の生物の命を奪ってを生物の外側へと表面化させてしまえば現れるだろう。


 では私が、用意した使に、自分が使ったと本心から思わせる事で、


 ヌーに話しかけているわけでも、信徒の者達に話をしているわけでもなく、ミラは自問自答をしながら確かめているようであった。


「恐らくは一定ラインを越えるまでは世界へ姿を見せる心配はないだろう。その間にどれ程私の『生命回路』に命のストックが出来るかが鍵となるか、余り少なすぎても『魔神』の余波に耐えられないだろうな」


 ヌーにはミラの掴んでいる『魔神』の出現の情報が無い為に、どういう手順を踏む事で実際に『魔神』が出てくるのかが分からない。


 ただミラがブツブツと呟いている内容を照らし合わせると、少しだけ手順の理解が出来た。ミラの独り言のようなモノを要約するとこういう事であった。


『ミラの魔法によって、このダールの世界の多くの生物の生命を奪い魂を出現させる』

『魔神にミラがと認識させないようにする』

『その為に途中から用意した。その者に自分がミラの魔法を使ったと思わせる』


 他者を利用して自分の背負うリスクを最小限に留めてそして利益だけを最大限奪う。まさに考え得る最大限の『外道』な行為であった。


 一体ここまで人間であった筈のミラの根性を捻じ曲げてしまった理由は、何だったのだろうか。今もブツブツと『魔神』さえも騙す算段を喋るミラを見ながらヌーは、今度は厭らしい笑みを浮かべるのだった。


 ヌーにとってミラがどうでもいい存在であったならば、嫌悪感を抱いて終わりだったが、今のミラは自分にとっても有益な存在である。そうであるならば作戦が一割でも上がる方法を示してくれた方がありがたいのである。


 つまりヌーの今の立ち位置的には、ミラは頼もしい存在だという事になる。


 ――しかし少しでもミラが期待外れだった場合。ヌーはあっさりとミラを裏切って見せるだろう。


 ここら辺が『アレルバレル』の世界でNo.1の『』とNo.2の『』との明確な違いであった。


 ……

 ……

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