支配の目編

第543話 支配の目

「どうしてそう思う?」


 闘技場の試合であっても使わずに温存していた力を見破られたリディアは、表面上は冷静を装っているが内心は相当に驚かされていた。


 リディアに問いかけられたエルシスは、右手に魔力を宿らせる。


「どうしてかと聞かれたら説明に困るのだけど。強いて言うならば、長年戦いに身を置き続けてきた者の勘かな?」


 大魔王の領域に居る者は、中位レベルであっても一癖も二癖もある者達である。そんな魔族達を十代の頃から相手にしてきた』は、相手が力を隠しているかどうか、対峙すればある程度は直ぐに見極められるようだった。


 ――そしてそれは見極められるようにならなければいけない、厳しい環境下で育ったせいともいえる。


「ボクからも質問なんだけど、どうしてその『力』を試合で見せなかったのかな? 始祖龍のキーリ君との戦いは相手の魔力切れを狙って勝利を収めたようだけど、その『力』を使えばもっと簡単に事を運べたんじゃないかなってボクは予想するのだけど?」


 すでにリディアには隠された力を確実に持っていると確信しているように、言葉を告げるエルシスだった。


「ふう……。貴様に隠し事をしていても、あまり意味は無さそうだな」


 溜息を吐きながらリディアは、自身の隠していた『力』の正体を打ち明け始めた。


「確かにお前の言う通り、俺には『金色』以外にもう一つ『』を持っている」


 そう言うとリディアは目を閉じながらを開放する。

 するとリディアの周囲に先程の『金色』ではなく『紅色』のオーラが纏われ始めた。


(魔族達の使う『』ではないな。いや彼は人間なのだから当然か)


 リディアが現在纏っているオーラは、確かに魔族の使うオーラでは無かった。

 その力はレアがかつて過去にこの『リラリオ』の世界で滅ぼした『ディアミール』大陸に生息していた種族『魔人』と呼ばれる者達が使っていた力で『』と呼ばれる自身の力を増幅させる力であった。


(※『スクアード』とは『魔人』の『幹部級』の者達が使っていた『』で、使用者の基本値の状態の戦力値を1.5倍まで引き上げる事の出来る力を有すると共に『紅い目スカーレット・アイ』と同様に、自分より戦力値が低い者に対して、身体の自由を奪う強制的な支配権を得る事が出来る技法であった)。


(※2 魔人の王シュケインは、この力に目覚めた10体の『幹部級』の魔人達と共に、神々に近いとされていた一部の『龍族』達と互角に戦う事が出来ていた。レアが過去のリラリオの世界に姿を見せなければ、リラリオの世界の魔族達は、この『力』を持つ『魔人』達に支配された挙句、龍族達との戦争に利用されて駒にされていただろう)。


「それが君の隠された力かい?」


「いや違う。この力は『スクアード』という力らしいが、この状態で『金色』の力を使うとだな……」


(単に力を増幅させるだけであれば、そこまで脅威とは思えないが。何か他にもあのオーラには、秘密が隠されているようだね)


 エルシスの勘が『リディア』の『スクアード』と呼ばれる『力』を決して侮っていいモノではないと告げていた。そしてリディアが実際に『』を使いながら『』を纏い始めると左右の目が変貌を遂げていく。


 『


「これは驚いたね。そんな目を持つ者をボクは今まで見たことが無いよ」


 そういうエルシスはこちらに目を向けているリディアを見て、と感じるのだった。


 戦闘状態に入っていないリディアが、単にエルシスを見ているだけに過ぎない今でさえ、この場を威圧するような『圧』がリディアから漏れ出ていた。


「俺にこの『』を教えたは、この目の事を『支配の目ドミネーション・アイ』と呼んでいた」


「『支配の目ドミネーション・アイ』か。何やら物々しい呼び名だけど、果たしてそれはどんな効力を持っているのかな?」


 エルシスがリディアに問いかけた瞬間。リディアの目が、キィイインという音と共に光り始める。

 そしてリディアの目がエルシスを捉えた瞬間。エルシスは身体の自由をリディアに奪われるのだった。


「成程……!」


 少しだけ慌てた様子をみせながら『エルシス』は『金色のオーラ』を用いてリディアの『支配の目ドミネーション・アイ』に抵抗しようとしたが、そのエルシスの『金色のオーラ』が発動出来ずに、ついにはリディアの支配から抜け出せなかった。


 ……

 ……

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