第522話 魔王からの呼び出し

 トウジン魔国で開かれている『闘技場』でのエキシビションマッチが終わり、観客達は大満足と言った様子で帰路についていった。


 久しぶりに開かれた闘技場ではあったが、娯楽施設として完全に復活を遂げたといってもいいだろう。


 しかし闘技場の成功ぶりとは裏腹に、キーリとラルフが担ぎ込まれた医務室ではどんよりとした空気が流れていた。


 リディアに敗れた後に気を失ったキーリは、担架で医務室へ運ばれた。

 ラルフの時と同じように『ユファ』が回復魔法で治療を行ったが、キーリは傷自体は深い訳ではなく、魔力枯渇によって意識を失った為に目を覚ますのは、もう少し後になるだろうと診断された。


「まさかキーリさんまでにやられるとは思いませんでしたよ」


 先に医務室へ運ばれたラルフは、神経を使わないようにとベッドで寝させられていた為、試合の結果を知ったのは、キーリが運ばれてきた時だった。


 自分がやられただけではなく、まさか龍族の王であるキーリまでもがリディアにやられたと知り、ラルフは最初耳を疑った。しかしこうして隣で意識を失った状態で寝ているキーリを見て、徐々にその実感がわいてくるのだった。


「我に成長ぶりを見て欲しいと告げてくるだけあって、リディアの奴は本当に強くなっておったな」


「遠くで微かに見えていた背中が、完全に見えなくなったように感じます」


 ラルフは正直に胸中に抱いていた物を、吐き出すようにソフィに告げた。


「あやつも成長しておったが、お主も相当に成長しておる。成長には自分のペースというものがあるのだ。決して比べて悲観する事はないぞ?」


「……はい。追いかけるのを諦めるつもりはありません。いつかは必ず倒して見せます!」


 心配ありませんとユファの顔を見ながら、ソフィに言葉を返すラルフであった。ラルフの決意で医務室中に流れる重苦しい空気が、少しずつではあるがマシになっていった。


「キーリが目を覚ますまでこの部屋は自由に使っていいとシチョウから許可を得ておる。我は少し出てくるがキーリを頼んだぞ」


 キーリの横でずっと心配そうに看病を続けるレアの顔を見ながら、ソフィがそう話すとレアはこくりと頷いた。


 ……

 ……

 ……


 ――少し時は遡る。


 エキシビションが終わった後に医務室へ向かうソフィに声を掛けてくる者が居た。それは試合を終えたばかりのリディアだった。


「ソフィ。悪いが少しばかりお前に話があるんだ。日が暮れた後にこの『闘技場』のリングのある場所へ来てくれないか?」


「む? 構わぬぞ。キーリの容態を確かめた後に向かうとしよう」


「ああ。ソフィ、すまないが、頼んだぞ」


 リディアはそう言うと一度も振り返らずに廊下を歩いていった。


「クックック、大したものだ。試合後だというのに余力を十分残しているな。そういえばキーリを抱き抱えて空から降りて来る時もあやつは『金色』を纏い直しておった。どうやらあやつは魔力を要所要所で使う戦い方を身につけおったか」


 ソフィは立ち去るリディアの背中を見ながらそう呟いて、満足気に頷くのであった。


 ……

 ……

 ……


 医務室を出たソフィは廊下を歩いてリングのある場所へと向かう。

 日が落ちて薄暗くなった外を歩いていき、やがてリングが見える場所へ着くと、そこには二人の影が見えた。


 一人目はこの場所にソフィを誘った張本人であるリディアだった。

 そして奥に居るのは、先程ソフィに対して強烈な挨拶をして見せた『レキ』のようだった。


「来たかソフィ。唐突に呼び出してすまなかった。こいつがお前を呼べとうるさくてな」


 ソフィがリングに近寄ると、リディアはそう口にしながら視線を奥に居るレキへと向ける。


「よくきてくれたな。さっきの挨拶は気に入ってくれたかい?」


 ソフィはこの前会った時とは、違う服を着ているレキを見て薄く笑みを浮かべる。


「少しばかり派手な挨拶だったな? この国はようやく復興作業を終えたばかりなのだ。あまり仕事を増やしてもらっては困るのだがな」


「クククク、そいつは悪かったな? からは気をつけよう」


 全く反省しているようには見えないレキの物言いに、ソフィは小さく溜息を吐くのだった。


「それで? 我をここに呼び出した理由は一体何なのだ?」


 挨拶はそこそこにソフィは、本題を二人に尋ねるのであった。


 どうやらソフィに用事があるのはリディアではなくレキのようで、リディアはさっさと済ませろとばかりにレキに視線を向ける。


「なぁ? 。よかったら、お前の身体を俺にくれないか?」


 ……

 ……

 ……

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