更なる成長を果たした魔王編

第479話 帰還と再会

 大賢者『ミラ』が『ルビリス』と共に『ユーミル』達を連れて『ダール』の世界にある『組織』の拠点へと戻った時、彼らと足並みを揃えずに一人別行動をとるものが居た。


 ――それは大魔王『ハワード』であった。


 彼は別世界を支配する大魔王であり『矜持プライド』が人一倍高い魔族であった。

 ようやく長年のライバルと呼べる『九大魔王』の『イリーガル』との決着がつけられると思った矢先に『シス』に邪魔をされた事で、彼はヌー以上に苛立ちを募らせていた。

 そしてその苛立ちが絶対に選んではいけない行動を『ハワード』に選ばせてしまった。


 ――神域『時』魔法、『概念跳躍アルム・ノーティア』。


 なんとハワードはミラ達の撤収を無視して、そのままシス達を追って『リラリオ』の世界へ跳んだのである。

 ハワードは世界を支配する程の力を持ち、ミラが率いる組織の最高幹部達の中でも別格の強さを誇っていた。そんな彼が自分との勝負を棚上げして別世界へ移動する事を選んだイリーガルや、邪魔をしたシスに対して、人一倍プライドが高いハワードが苛立ちを募らせるのは、理解が出来ることでもあった。


 だが、今このタイミングでシス達を追う事はしてはいけなかった。


 ――あの大魔王『ヌー』ですら苛立ちのピーク中であっても、追うことを諦めてこの場を去ったのには理由わけがある。


 その理由とはシス達が跳んだ先の『リラリオ』という世界には、


 ミラの『組織』の全軍。それに『ルビリス』達最高幹部全員。更にはミラやヌーそして、同盟を結んでいる他世界の者達が全員集結して、全てをかけて戦争を仕掛けるつもりで向かうならまだわかる。


 だが、今回の『ハワード』が取ったような単独行動で『あの世界リラリオ』へ向かう事は、決してしてはならぬ行動だったのである。


 いくらライバルとの決着を妨害されて苛立ちが限界を迎えていたのだとしても、それを踏まえた上で一度頭を切り替えて冷静に立ち直り、次の機会を待つことが最善と呼べる行為であった。それを理解しているからこそ、同じく苛立ちを見せたヌーもまた引いたのである。


 こうして大魔王ハワードは『処刑』イリーガルや、シスを葬るために私情を優先して『死地』へと自ら向かってしまうのであった――。


 ……

 ……

 ……


 その頃シスの『概念跳躍アルム・ノーティア』によって『リラリオ』の世界の空に亀裂が入り、ディアトロス達やレア達は無事に『リラリオ』の世界へと戻る事が出来たのであった。


「……」


 シスは『リラリオ』の世界へ戻ってきた瞬間、頭を抱えながら地べたに手をついて呼吸を荒げる。


「だ、大丈夫!?」


 レアとリーシャは目の前で意識を失いそうになっている『シス』に声を掛ける。


「まぁ無理もないわい。この者がいくら膨大な魔力を秘めているとはいっても、あんな連戦に次ぐ連戦にワシらを助けるためにあれほどの『魔法』を際限なく乱発したのじゃからな……」


 大魔王『ヌー』が来る前から信じられない程に『魔力』を費やしていたシスだが、その後の『ヌー』が参戦した後にも『毒』が蔓延するのを防ぐ『大結界』を常時張り続けながら、シスはヌーの出した『神格』持ちの死神とその『ヌー』から仲間達を守るために行動を取り続けた。


 本当に大したものだと『ディアトロス』は何度もシスを見て頷く。


「しかしディアトロス殿。一体ここはどこなのでしょうか?」


 イリーガルは大刀を背負いなおすと『アレルバレル』の『魔界』とはである綺麗な青空が見える『リラリオ』の世界を見渡しながらそう告げるのだった。


 そこにレアが笑みを浮かべながら口を開いた。


「ここは『リラリオ』という世界よ。貴方達は別世界へ転移したことがないから、まだ『世界間』を移動したという実感は湧かないでしょうけどねぇ?」


 やっと帰ってこられたとばかりに、溜息を吐きながらレアはそう言った。


「ひとまず、ソフィ様に会いに行きましょう?」


 レアがそう言うと『ディアトロス』に『イリーガル』。そして『リーシャ』は驚いた表情を浮かべるのであった。


「ソフィの親分はここにいるのか!」


 イリーガルが嬉しそうな表情を浮かべながら、レアに問いかける。


 レアがこくりと頷くと感激と言った様子で、それまで以上に『イリーガル』と『リーシャ』が喜びの顔を見せるのだった。


 しかしディアトロスだけは見当違いの方向を見ながら、何やら思案顔を浮かべ始める。


「……待て。ここに何者かが近づいてくるぞ!」


 ディアトロスがそう言った直後。空間に亀裂が入り『アレルバレル』の世界に居た筈の大魔王『ハワード』がその姿を見せるのだった。


「追いついたぞ、貴様ら! 今度こそ俺の手で皆殺しにしてやる」


 金色のオーラに包まれた大魔王『ハワード』は、怒りに打ち震えながらそう口を開くのだった。


「全くお前は本当にしつこい奴だな……」


 イリーガルとリーシャが仕方がないとばかりに戦闘態勢を取り始めると、レアが唐突に空を見上げた。


「あ、あれは……! ソフィ様!!」


 レアが驚きながら主の名前を呼ぶと、その場にいる者達がソフィの姿を見上げるのだった。


 レアの声に多くの者達が一斉に空を見上げると、そこには10歳程の姿をした少年がこちらを見下ろしながら嬉しそうな表情を浮かべて立っていた。


「お主達……! よくぞ無事だった」


 この場にレアやシス。そして懐かしい仲間達の魔力を感知したソフィは、即座に『ラルグ』魔国城からこの場所まで転移してやってきたのだった。


 皆が喜びの表情を浮かべる中。ハワードは『ソフィ』と呼ばれた少年を見ながら口を開いた。


「何だお前は? をしやがって。殺されたくなければ、さっさと去れ」


 大魔王『ハワード』は、目の前の少年が『アレルバレル』の世界の大魔王『ソフィ』だという事に気付かずにそう口にしてしまうのだった。


 しかしハワードがそう言うのも無理はなかった。


 今のソフィは『アレルバレル』に居た頃の面影はなく、背が小さい少年のような姿をしており『魔力』もまた抑えられている状態でこの姿を見ただけで『ソフィ』だと気づくのは相当に難しい。

 そしてそれは長年一緒に過ごしてきた『ディアトロス』達も同じであった。


 ――だが、そんな事はお構いなしにソフィは空から降りてくると『ディアトロス』に話しかけ始める。


「本当に久しぶりだ。一度はミラに捕まったと聞いたが、よくぞ無事で居てくれたぞ!」


 そう言うソフィの目を見た『ディアトロス』は直ぐにこの少年が本当に『ソフィ』だという事を悟るのだった。


「当然じゃろう? お主の右腕であるワシがそう簡単にやられるわけがあるまい」


「ソフィの親分、ご無事でよかった」


「ソフィ様! お久しぶりです!」


 ソフィの目を見た『九大魔王』達もまた、ディアトロスと同様に直ぐにソフィと気づいて嬉しそうに声を出すのだった。


「うむ! お主らの顔が見れて我はとても嬉しいぞ! 本当によかった!」


 ここ最近はずっと暗い表情を浮かべていたソフィだったが、本当に心の底から嬉しそうに笑って仲間達の帰還を喜ぶのであった。


 ――しかしそこで自分を無視して好き勝手に話し始めた者達に、ついに大魔王ハワードの堪忍袋の緒が切れた様子であった。


「いい加減にしろよ貴様ら! この俺を無視して勝手に話を進めやがってぇっ……! 皆殺しにしてやる!」


 怒りに打ち震える大魔王ハワードは『金色のオーラ』を纏いながら『力』を一気に開放するのであった。


「……それで、お主は何なのだ?」


 そこでようやくソフィは『金色のオーラ』を纏いながら、殺意をばらまく大魔王『ハワード』を見るのだった。


「こやつはミラ達の組織の幹部だ。どうやらワシらを葬ろうと、単独で『アレルバレル』の世界から追ってきたらしいな」


 そっと『ディアトロス』が『ソフィ』に事情を説明すると、その瞬間にソフィの目が変わるのであった。


「ほう……! そうかそうか、こやつはあの『組織』の大魔王なのか……!」


 明確な殺意が噴出するかの如く『ソフィ』から漏れ出るのだった。


 ……

 ……

 ……

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