第468話 恐るべき九大魔王、神速のリーシャ

 ディアトロスは上空から『ルビリス』達の動きを見ながらも、シスにしっかりと意識を向ける。


 今も組織の者達を縛っているあの光を放つ魔法は、大賢者『エルシス』が過去に使っていた魔法である。


 現代の『組織』の者達が『神聖魔法』を使えているのにはわけがあった。

 それは『ミラ』という彼ら組織の総帥にして『元人間』が、エルシスの『神聖魔法』に改造を行い現代に復活させたモノを使っているのである。


 しかしエルシスが使っていた本物の『神聖魔法』に比べると『紛い物の根源魔法』が主流であるため、本来の『神聖魔法』とは効力も地味に薄く、要所要所では必要な効果に足り得てはいるモノの、かつてのエルシスが用いていた『神聖魔法』と比べるとやはり見劣りするものであった。


 だが、今『シス』が使っている『神聖魔法』は『ミラ』が改造を加えた代物とは違い、効力も威力も何もかもが間違いなく、あの『エルシス』が使っていた『であると『ディアトロス』は考える。


 ディアトロスは自身の魔力を回復させながら物思いに耽る。

 ルビリス達が考えていた通り、ディアトロスは先程の極大魔法によって、多くの魔力を消費させられており、今すぐに奴らを殲滅出来る程の魔力は残されてはいなかった。


 しかしそれでもディアトロスは他者よりも、はるかに魔力の回復速度を高める事が出来るため、直ぐにでも最大値近くまで回復させることが出来るだろう。厳密にはこの『組織』の者達との戦闘中には再び先程の『神域魔法』を二発分は打てるほどは回復するだろう。


 ――この回復速度の早さもまた『ディアトロス』の強みであった。


(イリーガルの奴は、動くつもりだな。先程からこちらを逐一確認しておる)


 ディアトロスは上空で冷静に、周囲の状況を確認しながら機を伺うのだった。


 ……

 ……

 ……


 その頃別の大陸では、総帥である『ミラ』との『念話テレパシー』を終えた大魔王『ハワード』が、ゆっくりと自分の根城のベッドから身体を起こし始めるところであった。


「あー仕方ねぇな。司令官殿達の所へ向かうとするか」


 そう言うと『ハワード』は一緒に寝ていた『使い魔の夢魔』達をベッドから追い出して服を着始めるのだった。


 組織の中で唯一自由に行動することが許されている、大魔王『ハワード』。


 組織の中では間違いなく最強クラスの強さを持つ『ハワード』だが、その強さ故に自分勝手で気分が良い時以外は基本的に作戦を無視するのであった。


 この『アレルバレル』の世界でもトップクラスの強さを持つハワードではあるのだが、魔族としての年齢は若く人間の年で言えば、まだまだ二十歳を少し越えたあたりである。


「行くか」


 ハワードは司令官である『ルビリス』の魔力を感知して、その場所へ『転移』して向かうのであった。


 ……

 ……

 ……


「また何かが近づいてきよるな……」


 ディアトロスは大きな魔力を持った存在が、この地に来るのを感じてそちらの方角を見る。


 ディアトロスは『組織』の者がこれ以上加勢されるのを嫌がり、現在は自身の全体の七割程まで回復した『魔力』を使って、再び『極大魔法』を放つ決意をするのだった。


 その『ディアトロス』の『魔力』を感知した、この場に居る各々の者達が行動を開始する。


 最初に動いたのは味方である『イリーガル』であった。


 牽制し合っていた両者だったが、イリーガルが大刀にオーラを込め始めた瞬間にセルバスは、イリーガルの間合いを一瞬で詰めながら攻撃を開始する。


 一気に『セルバス』の接近を許したイリーガルだったが、セルバスの右拳を大刀の柄の部分で受け流してそのまま身体が泳いだ『セルバス』の胴体を切断するつもりで、大きく身体を回転させながら持っている大刀で横一文字に振り切った。


 セルバスは今の態勢ではイリーガルの一撃を躱せないと判断して『高速転移』を使って、前のめりになった状態から一気に前進してイリーガルの攻撃を避ける。


 高速転移は途中で向きを変えるような真似は出来ず、最初に目測でここまで行くと決めた場所までは方向転換をすることは出来ない。


 セルバスはようやく『高速転移』の勢いが衰え始めて、そこから直ぐに態勢を戻そうと一度前方を確認するが、そこには『リーシャ』が『金色のオーラ』を纏って左足を前に出して、右手に持つ短剣で攻撃を行おうと、一直線に向かってくる『セルバス』を待ち受けていた。


「……ちぃっ!」


 『高速転移』状態のままでは『リーシャ』の攻撃を避ける事は、出来ないと判断した『セルバス』は両手をクロスして亀のようにガードしながら、止まるのではなく更にそこから『高速転移』を使って加速していく。


 そのままガードしながら小柄な体格の『リーシャ』に向かって、タックルをしたその勢いで吹き飛ばそうという魂胆のようであった。


「あたしを侮るなぁっ!」


 左手の肘を向かってくるセルバスに向く程に、右足に全体重を乗せて身体を思いっきり捻るリーシャであった。


 そして猛突進してくるセルバスが、自分の間合いに入るギリギリまで引き付ける。


「ここだあっ!!」


 僅かコンマ数秒で一気にリーシャの間合いまで入ってきたセルバスに向けて、リーシャは捻っていた身体を正面、そして今度は左へと一気に捻り返して、右手に持つ短剣をぐっと握りしめて突き出したカウンターで、セルバスのタックルに合わせて右手を振り切るのだった。


 ――まるで二人の間で、爆弾が破裂したかのような衝撃音が辺りに響き渡った。


 リーシャは激突の瞬間に後ろに身体を吹き飛ばされる――。


 しかしそのリーシャの渾身の一撃によって、セルバスは胴体が二つに離れるのであった。


「なっ……にぃっ!?」


 セルバスは金色で全身を覆った上で障壁で守っていたというのに、小柄な少女と言えるリーシャによって、あっさりと真っ二つにされてしまい、驚愕に目が揺れた。


 そしてタックルをまともに受けたリーシャは、鼻血を出しながら宙返りをして態勢を戻した後に、更にセルバスの二つに離れた身体を目掛けて更に突っ込んでいく。


「くっ……! くっそがぁっ!!」


 『』の異名を持つ『リーシャ』は、興奮冷め止まぬと言った様子で目を『金色』に変えながら対象の身体を正しく神速といった速度で突っ込んでいき、自身の身体が幾重にもブレる程の超加速で左、右、上下と恐ろしい速さで左右に持つ短剣で『セルバス』の身体を切り刻んでいく。


 最早自分でも止められないとばかりに、切り進み続ける毎に『リーシャ』は更に加速していき、アドレナリンを分泌させながら、何分割にもセルバスの身体を切断し続けていく。


 捻り返して右手を振り切り、捻り返して左手を振り切り、更に捻るたびに彼女の速度は、更に更に上昇していく。


「うあああっっ!!」


 ――止まらない。止まらない。それでもまだ止まらない――!


「り、リーシャ……!?」


 精霊女王ミューテリアの横で、すでにレアの目でも何が起きているか分からない程に『リーシャ』は速く動き続けて『セルバス』の身体を切り刻み続けていく。


 ――変わり果てたリーシャの形相を驚いた目で見続ける。


「止まれ!! もういい! 止まれリーシャ! この野郎はもう死んでる!」


 イリーガルが『高速転移』で『リーシャ』の元にまで一気に近寄った後に、両手で強引にリーシャを掴んで止めようとする。


「くっ……! を繰り返してやがるっ!! オラァッ!!」


 大男と呼べるほどの体格の『イリーガル』が全体重を使って『オーラ』を更に纏いながら、強引に『リーシャ』の腕を引っ張って、ようやく小柄なリーシャの動きが止められるのだった。


 目を見開きながらまるで野獣のような声をあげていた『リーシャ』は、ようやくそこで正気を取り戻すのだった。


 組織の最高幹部の一人『セルバス』は、すでに原型が残らない程細かく切り刻まれて絶命していた。


 セルバスは魔族であるために、すでに『代替身体だいたいしんたい』を用意していて、魂はすでに移っているだろうが、数百から数千年はもう『九大魔王』を相手にすることは出来ないであろう。


 そして今度は『ディアトロス』の『魔力』が戦場を覆いつくす。


 ――神域魔法、『崩壊ス、摺リ砕ク虚構ノ世界』。


 ディアトロスの大いなる魔力がつぎ込まれた『極大魔法』が、ルビリス達を中心点に放たれたかと思うと――。


 ――次の瞬間、大爆発を起こすのだった。


 ……

 ……

 ……

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