第467話 偶発的な跡切

 『ダール』の世界から戻ってきていたミラは、ダイス王国にある自身の部屋に居る。

 そして今ルビリスからの『念話テレパシー』を受けながら、自室の結界が破られている事を確認すると、直ぐに何が起きたかの原因把握に努め始めて、そこで彼は『根源の玉』が、


「成程。爺を助けにきた『ブラスト』がこの部屋に忍び込んで『マジックアイテム』を奪った後に『化け物』の居る『リラリオ』とかいう世界へ向かい、向こうの魔族をこの場に向かわせたという事か……」


 ミラはそこまで理解すると再び『念話テレパシー』に波長を合わせると言葉を送る。


(聴こえるか? 向こうへ行った『ブラスト』がそこに居るシスに『根源の玉』を渡して、こちらにこさせたのだろう。何故あの『化け物』ではなくその魔族をこちらの世界に寄こしたのかは理解出来ない上にこちらに保管していた『根源の玉』は『対象指定』の抹消用に念のために残していたものであるが故に、こちらから向こうの世界へは向かえるが、こちらの世界へ戻る事は出来なかった筈なのだがな。それに『概念跳躍アルム・ノーティア』は確かに件の『』か『』しか出来ない筈だったと思うが)


(ええ。私も今の今までそう思っていたのですがね)


 『念話テレパシー』をしながらも『ミラ』は、ルビリスが無事かどうかを逐一確認するように魔力感知をしながら、自室で準備を整えて行く。


 司令官である『ルビリス』や、最高幹部の『リベイル』達が爺達に捕まった以上は、どうしても自身が出向かわなければ事を解決することは出来ないだろう。


(最高幹部全員で『精霊の大陸』へ向かう手筈だったのだろう? さっきのお前の口振りでは『ハワード』は連れて行っていないということか?)


 先程の通達では一度も『ハワード』の名前が出なかった事にようやく気付いたミラは『念話テレパシー』でまだ無事な様子のルビリスに尋ねるのだった。


(ええ。彼はどうやら貴方の命令以外には従うつもりはないようで、私が来るように命令したのですが、結局はこれまで音沙汰ありませんでしたね)


 大魔王『ハワード』を最高幹部に推したミラは、ルビリスの言葉に苦笑いを浮かべるのだった。


(全く……。アイツは自分の立場を自覚していないのだろうな。仕方がないな。今から私がそちらに出向かせる。どうだ? そろそろ危ないのだろう? 直ぐに向かうからお前達は何とかして生き延びろ。以上だ)


(……御意)


 ルビリスは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながらも、ミラの言葉に従うのであった。


 ミラの組織の指揮官である『ルビリス』が総帥である『ミラ』の命令には絶対服従でなければならない。

 出来る出来ないが問題ではなく、生き延びろと言われた以上はそれに従わなければならないのであった。

 泣き言をいうのはもとより『どうやって生き延びればいいのか』などの疑問を呈するのは愚の骨頂であり、そんな事を実際にミラに対して口にしようものなら、ルビリスは数千年前の時点で『組織』から切り捨てられていただろう。


 そしてそこで『念話テレパシー』は終了するのだった。


「一体『シス』とやらがどんな魔族かは分からないが『神聖魔法』を扱えるとなれば面倒な事だな」


 自室でミラは溜息を吐くと、直ぐに彼は『ハワード』へ『念話テレパシー』を送り始める。


(私だ。どうやら『ルビリス』が危ないらしい。お前も直ぐに『精霊の大陸』へ向かえ)


 ミラがハワードに対して『念話テレパシー』を送ると、ルビリスからの通達の時とは違い、彼から直ぐに反応があった。


(それはまさか司令官殿達が残党共にやられたとでも?)


 ルビリスたちが戦闘になっていたのを感知していただろう『ハワード』だったが、それでも今までは全く救出に行く気がなかったようだった。


 ミラに言われて渋々と言った様子で返事をしてくるくらいなのだから、彼は組織の中でも異質な立ち位置なのだろう。


(ああ、私も向かうつもりだ。お前も必ず来いよ?)


(……了解した。司令官殿を助ければいいのだろう?)


(ああ。それで構わん)


(分かったよ)


 そこで『ハワード』との『念話テレパシー』が切れる。


 『組織』の総帥である『ミラ』に対し、全く敬う様子のない言葉遣いをするハワードだったが、これはいつもの事であった。

 普通であれば他の者達が注意等をするべき事であろうが、大魔王『ハワード』に表立って口を出す者はこの組織には居ない。


 ――何故なら大魔王『ハワード』は特別な存在であり、逆らえば命が無いという事はこの組織に所属している者であれば誰でも、それこそ『ルビリス』ですら理解しているからだった。


「さて。後はシスとやらが『ハワード』にどれくらい持つか見物をさせてもらおうか」


 そう言うとミラは自室の椅子に深く座り、何も焦る様子が無いままに、煙草に火をつけるのだった。


 ……

 ……

 ……



 『念話テレパシー』を終えたルビリスは、静かに目を開ける。


 ひとまず組織の総帥である『ミラ』に対しての連絡を終えたため、慌てる事が無くなった今は静かに状況を考える。


 自身とリベイルは変わらずにシスに拘束されている状態であり、その横ではセルバスがまだイリーガルの背後を取っている。セルバスはイリーガルと、ほぼ互角であることは承知しているルビリスはそちらの方は無視して、上空に居るディアトロスに視線を向けるのだった。


(ふむ。どうやら相当に魔力を消費していたのか、直ぐに追い打ちはしてこないようですね。先程のユーミルさんに止められた魔法は、余程の極大魔法だったようです)


 それでも『九大魔王』筆頭の『智謀』の『ディアトロス』であれば他の魔族よりも早く、魔力を回復させてすぐに戦闘に復帰するであろう。


 ディアトロスという大魔王は、魔力回復にも定評があるために、あまり悠長に構えてもいられない。ミラに連絡が取れなければ、彼はもう少し焦る状況だったであろう。


(そういえばもう一人の大魔王が見当たりませんね?)


 首から上は普通に動かせるルビリスは『リーシャ』が消えた事を確認して、どこに行ったのかを探り始める。


(……居た。どうやらあのとかいう『』の確保に向かっていたようですね)


 リーシャの魔力を感知したルビリスは、直ぐ傍にレアの魔力も同時に感知して、どうやら彼女はこちらに向かいかけていたレアの足を止めて下に居る精霊の長の元へ戻しに行ったのだろうと判断するのだった。


(……さて、どうやら『ハワード』さんか、ミラ様がここに来るまでは持ちそうですね。後はこのままゆっくりと待つとしましょう)


 相手も油断や余裕からこの状況になっているのではなく、偶然出来た自然な小休止の時間だとルビリスは理解して、その偶然の時間に感謝しながら余計な事はせずに、時が来るのを静かに待つのであった。


 ……

 ……

 ……

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