第466話 完璧な計画に綻び一つ

 ユーミルが『ディアトロス』の放とうとした『魔法』を止めようと『リーシャ』の拘束を解いたことで『ディアトロス』の魔法自体を防ぐ事には成功したが、今度はその目を離した『リーシャ』によって、ユーミルは攻撃をされて吹き飛ばされていった。


 遠距離からの攻撃や『魔』に関しては相当な強さを誇る『ユーミル』であったが、流石に近距離戦闘では『九大魔王』である『リーシャ』の攻撃を防ぎきる程の防御力は無かったようで、あっさりと意識を失うのだった。


 ――そしてこの『リーシャ』の反撃によって『九大魔王』達側は一転攻勢へと躍り出るのであった。


 もちろんそれはリーシャの活躍だけではなく、組織の司令官である『ルビリス』と、組織の大賢者である『リベイル』をシスが『神聖魔法』で動けなくしていることが大きい要因でもある。


 この場で自由に動けるのは組織側では『セルバス』だけだが、そのセルバスも同じく『九大魔王』である『イリーガル』を押さえるのに精一杯であった。


 まさか現代で組織の代表である『ミラ』と『ルビリス』。更にはそのミラとルビリスから『神聖魔法』を享受させられていた『リベイル』『ユーミル』の他にも『神聖魔法』の使という事実は『組織の者達』にとっては信じ難い事であった。


 『アレルバレル』の世界はすでに『精霊』も『人間』も大した存在はおらず『魔族』が大多数を占める世界である。


 そもそも大魔王『ダルダオス』の時代の戦争によって『魔人族』や『龍族』などは完全に『種』から消滅させられてしまい、今も残っている種族である『精霊』や『人間』達もソフィが止めなければ、残されてはいなかったであろう。


 つまり現存する世界で『神聖魔法』を使える組織の上層部達にとっては、魔族しか居ない『魔王軍』はそれこそ恰好の的であった。


 ミラの組織の者達は『魔族』に対して特別な効力を誇る『神聖魔法』を用いて尚、どうしようもない大魔王である『ソフィ』という『化け物』さえ別世界へ遠ざけてしまえば、あとはこの『神聖魔法』を使えば『九大魔王』達でさえ『魔族』である以上どうにでもなると判断したのである。


 そしてその組織の目論見通りに『ソフィ』を失った『魔王軍』は『ホーク』や『エイネ』といった名立たる九大魔王達であっても別世界へ跳ばす事が容易かった。


 ――そして残すはこの場に居る『ディアトロス』達だけが残ったのである。


 更にはルビリスの計画通りであれば、この『精霊の大陸』に居る残った九大魔王達を包囲した時点で作戦は全て完遂する筈だった。


 が、この世界に来ていた事は『ルビリス』達にとっては不測の事態はあったが『ディアトロス』『イリーガル』『リーシャ』の三体の『九大魔王』は『神聖魔法』で封じ込めることに成功していたのである。


 後はであった『魔王』レアを確保して、今度はそれを餌に残っている『対象指定』の者達を始末した上で大魔王『ソフィ』を永久に別世界へ閉じ込めて、今頃はもう完全にこの世界を掌握出来る筈だった。


 すでにリラリオの世界で戦闘を経験したヌー達から『リラリオ』の世界情勢はある程度聞いていたが、目の前に居るこの『シス』という『レイズ』魔国の女王がここまでの強さを持っているとは知らなかった。


 ヌーの報告にあったのはソフィが変わらず『化け物』であった事と、九大魔王『ブラスト』が『リラリオ』の世界に跳んでいた事。そして『対象指定』であった『概念跳躍』を使える『レア』が『代替身体だいたいしんたい』の身となっており、既に戦力としては数えなくていいという事くらいだった。


 それ以外は大した者は居ないと言っていた筈だが、蓋を開けてみれば『リラリオ』の魔族が、ここにきて立ち塞がる結果となった。


(ヌーはこの『シス』とかいう女性とは戦わなかったのだろうか? いやしかし、これ程の強さであれば戦場に立てば嫌でも目に付くと思うのですがね……)


 ルビリスは今もシスに捕縛されながら、心の内で考えを巡らしていく。

 しかし結局は答えが出る事はなく『ルビリス』は再び動く身体の上半身を動かしながら、視線を『ディアトロス』に向けるのだった。


(やれやれ。情けない話ですが、このままではやられてしまいますしね)


 再び魔法を放つために『魔力』を回路に供給し始めている様子の『ディアトロス』を眺めた『ルビリス』は溜息を吐きながら『』に、助けを求める『念話テレパシー』を送るのだった。


 ……

 ……

 ……


 そしてその『念話テレパシー』を飛ばされた『ある者』は現在『ダール』の世界から『アレルバレル』の世界へと戻ってきた直後であった。


 やるべき事や為すべき事が多く残されているその『ある者』とは、訝し気に眉を寄せる』であった。


(ミラ様! お戻りになられておりますか?)


「ん? この波長はルビリスか。奴らを捕まえたという知らせかもしれんな」


 急なルビリスからの『念話テレパシー』を受けて独り言ちた後に、ミラは直ぐに返事をする。


(ああ。今戻ってきたところだが、どうした? もうそっちは片付いたという話か?)


 ルビリスの『念話テレパシー』に大賢者『ミラ』は朗報を期待する。


 ――しかし。


(よかった。不幸中の幸いだったようですね)


(何?)


 いつも冷静なルビリスにしては、少々焦っているようにも聞こえたミラは、どうやら朗報とは程遠い話だろうなと思い始めるのだった。


 ――そしてそれは見事に当たりだった。


(申し訳ありません。ミラ様! セルバス、リベイル、ユーミルを連れて『精霊の大陸』で作戦通り残った『九大魔王』を仕留める手筈でしたが、少々不足の事態が起こり我々は『智謀』達に返り討ちにあってそのまま現在命を握られている状況です。このままでは全滅は必至かと思われます!)


「は? やられたのか? あれだけ用意周到にしておいて、袋の鼠であった爺共に返り討ちにあった? な、何だそれは……! ふっ、はははは!!」


 ミラは『念話テレパシー』で伝えずに独り言ちながら愉快だとばかりに笑い始めるのだった。


 相手は『ソフィ』の魔王軍の最高幹部達で『九大魔王』という事は分かっているが、それでも『魔族』相手に特効を及ぼす『神聖魔法』を使える者が複数人も居る状況で、今更負けるとは思っていなかったミラは『ルビリス』の報告に笑いが堪え切れない。


(クハハハッ! 冗談だろう? 『魔力吸収』を行う『女帝』や『反魔法』使いの『ホーク』以外の誰に苦戦させられたというのだ? まさか時代遅れのあの『ディアトロス』になすがままに、魔法を受け続けたとでもいうのか?)


 大魔王『ソフィ』を除き、単に魔力が高いだけの魔族であれば今更『神聖魔法』を扱える者達にとっては、そこまで苦戦をするような相手ではない。


 今のミラやルビリス達であれば、ディアトロスよりも『厄介な力』に目覚めている『ホーク』や『エイネ』の方が余程に面倒な相手といえるのであった。


 しかしその両者もミラ達の作戦によって、既にこの『アレルバレル』の世界から去っているために、すでにミラはルビリス達に残りの者達を任せて『ダール』の世界に単身向かっていたのである。


 ――だが、大笑いを続けていたミラは、に笑えなくなった。


(よくお聞き下さいミラ様。我らがこのような状況にされた理由の大きな要因は、とんでもなく『魔』に精通している『魔王軍』とは別のの存在が居たからなのです。その第とは、現在あの『化け物』が居る世界の魔族であり、名前は『シス』と言います。そしてそのシスはどうやら我らと同じ『使で間違いありません)


 ……

 ……

 ……

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