第445話 悪と善と
ソフィが屋敷へ戻ろうと『
その気配のする方へとゆっくりとソフィが振り返ると、何やら
「お主は誰かな?」
「小生は主の膨大な魔力に吸い寄せられた山伏。少し話に付き合ってもらえぬかな?」
「話すのは別に構わぬが、長くなるようなら我の屋敷へ行かぬか?」
「……いやいや、それには及ばぬ。本当に少しの間話せればそれでよい」
「まぁよかろう。では歩きながらでよいかな?」
「うむ」
そうして二人は夜の『トータル山脈』を歩く。
「どうやら主がレアを救ってくれた件の人間のようだな」
唐突にソフィは口を開くと山伏にぽつりと告げる。
「レア? おお! あの幼き魔族の子か。しかしまだ何も言ってはいないというのに、どうしてそう思われたのかな?」
「まずお主の気配を感じた時、我が背後を振り返る時にはもうあの場に立っておった。あんな芸当が出来る者が単なる『人間』である筈が無いと感じた。それもこのタイミングで来る時には誰にも会わなかった『人間』が見計らったかのように話し掛けてきたのだから、レアを救った者が人間であると知っている以上はそう思うのは当然のことだ」
「なるほど。そういう事であったか」
「うむ。仲間を庇ってくれて感謝するぞ」
「気になさるな。あの甲冑を纏った騎士が気にくわなかっただけの事。小生は『
『
一人目は『
そして二人目は『
「……お主から見て我は
ソフィは人間だからとか魔族だからという理由ではなく、もっと根本の性格の部分での回答を求むのであった。
ちらりとソフィに視線を向けられた山伏は、表情を変えずに即答する。
「安心なされよ。小生から見てお主は『
「そうか」
「『
「ふむ、それで?」
「その蔓延る『
「善の行いをするため、悪に染めるか」
「例えばお主が
「だが、明確な『悪意』に対して自分や仲間を守るためには、その『
「そうだ。そしてそれこそが『
歩く速度が少しずつ緩めながら、二人は会話に火を灯していく。
「小生達はどこかで、
そこで山伏は目を細めて、今まで以上に熱のこもった言葉を吐く。
「『
シャンシャンと持っている金剛杖を振りながら山伏は『
「……我には『正』と『聖』の違いは分からぬのだが『
「先程生を受けた瞬間に皆、
「うむ、そう言っていたな」
「では、その
山伏の説法に論を挟まずにソフィは、聞き漏らさないようにと、しっかりと耳を傾ける。
「つまり邪と呼ばれる者は、その聖の行いをしてこなかった者が、次の生で邪として存在して、邪を持つ者は邪を持つ者に惹かれ合い『悪意』を宿して
山伏はどうやらそういった邪を持つ者に対して、
「……我はそういった意味では、
「だがそれはお主が『悪意』からくる行動を行ったわけではあるまい? 全ては『邪な心』を持つ者に、善から来る悪を以て接しただけに過ぎない。違うかな?」
「我の行いは『
「お主は罰せられたいと思っているのか? いや違うか、お主には確かに
それは一体何なのかとばかりに山伏は、ソフィの目を見ながら考える。
「……」
「お主は決して『邪なる者』ではない。
シャンシャンと、再び山伏は金剛杖を振る。
「お主のような正しい行いをする
「そうか。我の質問に回答を提示してくれて感謝するぞ」
そう言うとソフィは山伏に向き合う。
「力ある人間よ。我を邪ではないと否定してくれたことは嬉しい。嬉しいがしかし、我が報われるとお主は言ったが、その言葉を鵜呑みにして待つだけでは報われるとは思えぬ。仲間が脅威に晒されている今、その仲間達のために出来る事は何でもしようと思う。例えそれが
ソフィが山伏の目を見てそう言うと、山伏は静かに笑い始めた。
「ふははは! どう足掻いてもお主は邪にはなれぬよ『悪意』を持って行動を起こしたとしても、最終的にそれは
「……お主が抱えるモノの大きさは小生には分からぬが、無理をせずに一つ一つ可能性を試していくのがいいだろう。また何かあったならば小生は話くらいは聞いてやれる」
そう言うと山伏は懐から一枚の札を取り出した。
「これは?」
「小生の国に伝わる伝達の札だ。困ったときはまたこの札を持って魔力を灯すがよい。そうすれば小生と話す事が可能だ」
「すまぬな、その時は頼らせてもらおう」
そう言ってソフィは伝達の札を山伏から受け取った。
「お主と話せてかなり気が楽になった。礼を言うぞ山伏よ」
ソフィの言葉を聞いて頷く山伏。
「そう言えば名前を言ってなかったか。小生は『サイヨウ・サガラ』という名だ。今後は『サイヨウ』と呼んでくれ」
「うむ分かった。我はソフィだ。宜しく頼む」
「ソフィよ。お主は間違ったことはしておらぬ。そのまま思うが我が道を進まれるがよい」
「ああ。そうすることにしよう。それではな、サイヨウ」
「うむ。さらばだ。ソフィ」
そう言ってサイヨウ・サガラと名乗った山伏は、金剛杖のシャンシャンという音を辺りに響かせながら消えていった。
「変わった術を使う人間だったが、相当の力の持ち主だという事は伝わったぞ」
いつかはサイヨウとも、戦ってみたいと思うソフィだった。
……
……
……
サイヨウは『
「あれ程の『
サイヨウは表情を緩めながら、ソフィを尊敬するような目をする。
「あれ程の徳を積んでいれば、一生分困る事がない程の幸運を持てると思うたが、今世もまた誰かの為に生きているようだった。あやつはまさに『
「大魔王ソフィよ。お主が真に困った時は、この『サイヨウ・サガラ』が手を貸そうぞ」
ソフィを認めた山伏はそう告げると、宵闇の中を歩いていくのだった。
……
……
……
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