第421話 驚愕するリーゼ

 シティアスから歩いてきた二人はようやくレイズ城へ到着する。


「レパートの『ことわり』の結界が張ってあるけど、これは貴方の結界ね?」


 レアはこの魔法の『ことわり』を一目で看破して見せる。


「ええ。流石に分かるわよね」


 レアもレパートの世界の同胞である事に加えて、フルーフから直接魔法を習っていたレアであれば、直ぐに気づくのも当然の事だろう。


 外側に情報を漏れださないようにする『結界』や、結界内に居る者達を守るような外側からの攻撃を防ぐ『結界』と、結界にも色々と種類はあるが『レパート』の世界で使われる『結界』の多くは結界内に居る者達を守るような外側からの攻撃を防ぐ『結界』。


 ――つまりは『』のタイプの『結界』が使われる。


「ある程度の魔族の攻撃を防ぐ事に加えて、中に居る者達にも侵入者が来た事を伝えるよう『魔力感知』の効果も付随させているわね。これ程の規模の『結界』の維持をずっと続けているの?」


「そうよ? ここは私の最後の砦。何かあってからでは遅いからね」


 どうやらユファの真剣な表情を見るに嘘は言っていない。


 昔のユファは『魔』の探求以外には一切興味を示さずに、他者に力を貸す事など考えられなかった。それが今は仲間のために自分の大事な魔力を消費しながら守ろうとしている。


 ユファの過去を知るレアが、驚くのも無理はなかった。


「貴方があの子を守る為に戦闘に介入してきた時は驚いたけど。どうやら本気だからこそってわけねぇ」


 ユファの素性を調べる為にシスを襲った事があるレアは、その時の事を思い出しながらそう言った。


「レア? 分かっていると思うけど、あの子に手を出したら貴方でも容赦しないわよ?」


「もう分かってるってばぁ! しつっこいねぇ」


「は? 何ですって……?」


 レルバノンに年齢を聞かれた時のユファの態度が余程レアを刺激したのだろう。ケタケタ笑いながらレアは、追いかけてくるユファから煽るように走って逃げるのだった。


 レイズ城を守る兵士達は、目の前で追いかけっこをしている二人組を見て不審に見ていたが、追いかけている側の女性が『ユファ・フィクス』だと気づき、慌てて背筋を伸ばして始めるのだった。


 結局掴まったレアは頭を叩かれた後に、ユファのわきに抱えられるのだった。


「お、おろしなさいよぉ! 履いている下着が見えちゃうでしょぉ!?」


「うるさい! お子ちゃまパンツを城のみんなに見せびらかしなさい!」


「ちょ、ちょっとぉ!?」


 やいのやいのいいながら『レア』を抱えてユファは、レイズ城の門まで歩いてくる。


「お、おかえりなさい!」


「ユファ・フィクス様に敬礼!」


 その言葉に一斉に敬礼をする兵士達。


「ええご苦労様、中に入らせてもらうわね」


 ユファが笑いかけながらそういうと、門兵は道を開けながら両脇に立ち敬礼をするのだった。


「お、下ろせぇ! 下ろしなさいユファ!」


 敬礼をしたままの門兵たちの横をレアは、パンツ丸出しでユファに抱えられたまま、城の中へと入っていくのだった。


「もう年齢の事は言わないから、おろしなさいユファ!」


 城の中を歩いていくユファはその言葉を聞いて溜息を吐きながら、仕方なくレアを床に下ろす。


「次に言ったら服を全部脱がして『金色の目ゴールド・アイ』を使って、!」


「な、な、何て恐ろしい事を貴方は言うのよぉ!」


 レアはもう二度とユファの前で、年齢の事は言うまいと心に誓うのだった。


「何を騒いでいるのです! ここはレイズ城ですよ!」


 そして城の中でも騒いでいる二人の声に、眼鏡をかけた女性が近づいてきて大声で窘める。


「え? 何だユファ様ではないですか。一体どうなされましたか?」


 騒いでいる者達に叱咤しようと近づいた女性の名は『リーゼ・ビデス』。現在はレイズ魔国のNo.3の立場である『軍事参謀長』を務めていた。


「リーゼ、久しぶりね? シスに紹介したい子がいるから連れてきたのだけど、あの子は自室にいるかしら?」


「紹介したい子とは、その小さな子供の事ですか?」


 そこでリーゼは騒いでいたもう一方の幼女を眼鏡を上げながらしてみる。


「貴方。いつもそうやって初対面の者に対してそんなモノを使うのかしらぁ? 気分悪いからやめてもらえない?」


「なっ!?」


 リーゼは眼鏡を上げたと同時に僅かな魔力を込めて『レア』を探ろうとしたのだが、次の瞬間には『レア』の目が『金色』に光り、リーゼの『紅い目スカーレット・アイ』の効力を強引に打ち消すのだった。


「リーゼ。この子はつい先日。ラルグ魔国王であるソフィ様の配下となった子でね、シスに紹介するようにと『ソフィ』様に頼まれてここに連れてきたのよ」


「そ、ソフィ様にですか! こ、これは失礼を致しました」


 そう言って深々とレアに頭を下げるリーゼであった。


 現在ソフィは『ラルグ』の魔国王なだけではなく、この『レイズ』魔国王であるシスの相談役でもある。


 そして復活を遂げた龍族との戦争で、あの始祖龍であるキーリさえをも配下にしたという、まさにとんでもない『大魔王』である。


 そのソフィが新たに配下にしたというのだから、リーゼの魔瞳『紅い目スカーレット・アイ』を打ち消せたのも理解出来るというモノであった。


「分かってもらえたらいいのよぉ?」


 もう気にしていないとばかりに、ケタケタと笑うレアであった。


「シス女王は自室に居ると思われ……あ、いや、今は執務室の方かもしれませんが……」


 この時間であればまだ、職務を全うしている最中だろうと思いなおすリーゼであった。


「そう。ありがとねリーゼ。このまま執務室の方へ行ってみるわ」


 ユファがそう言うとリーゼは道を開けて二人を奥へと通すのだった。しかしそこでふとリーゼは、背後からレアに声を掛ける。


「お、お待ちください! 貴方の名前を教えていただいても宜しいでしょうか?」


 背中を向けて歩いていたレアはそこで足を止めて振り返った後に『リーゼ』に口を開いた。


「私? 私はレア『魔王』レアよぉ? よろしくねぇ」


 そう言って再び前を向いてユファと共に歩いていくのだった。


 一人残されたリーゼはレアの名を聞いてから数秒程、その場から動くことが出来なかった。


 何故なら彼女もまたレルバノンと同じくこの『リラリオ』で永く生きる者であり、前時代のこの国の女王『』に直接仕えたこの国の『フィクス』であったのだから。


 彼女が仕えた前女王『セレス』は『魔王』に『魔』の『ことわり』を学び、その『ことわり』を使って、ヴェルマー大陸の『三大魔国』の魔国王となった。


 ――そんな彼女が『魔族』をこの世界の頂点に押し上げて、リラリオの世界を支配した『魔王』レアの名を知らぬ筈がなかった。


あの龍族キーリを破ったといわれる、げ、原初の魔王様!?」

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