第365話 虚言の大魔王ヴァルテン
ヴァルテンはどうにかこの場を上手く切り抜ける為に、脳内で恐ろしい速度で計算を始めるのだった。
――証拠など一切あるわけがない。
こうしてレアに脅かされている状況にあってもヴァルテンは、持ち前の演技力で
すでに大魔王フルーフは数年前に、アレルバレルで『ヌー』によって回収されており、その場に居合わせた『大賢者』の組織や、アレルバレルのあの化け物に反旗を翻した『反乱分子』達の手引きによって、別世界であるダールへと連れ去られている筈である。
今更アレルバレルの世界に行ったところで、ヌーの痕跡すら見つけられないだろう。
しかしヴァルテンはどうにかこのレアを『アレルバレル』へと誘導したいと考え始めていた。
この時代のヴァルテンの最大戦力値は6億5000万。
『アレルバレル』の世界では威張れる程強くもない中途半端な戦力値だが、別世界であれば十分に世界の頂点に立てるほどの強さである。
ヌーに協力することを約束すれば、この『レパート』の世界をもらえると『大賢者』に言われたヴァルテンは、これまで忠実にその言葉を信じて従ってきた。
そしてようやく『フルーフ』の居なくなったこの世界を纏める算段がついて、私が世界の王となる時が来たと思えば『レア』とかいう魔族が現れた。
どうやらこのレアという魔族は、アレルバレルに居る猛者共と遜色のない力を所有している。
厳密に言えば大魔王ソフィの魔王軍の序列で言えば、百番以内には入る程の強さだろう。
――『二色の併用』を有しているのがその証拠だ。
このまま戦ったところで勝ち目がないと判断したヴァルテンは、どうにかこの女を騙くらかして、あの『化け物』達と争わせて二度とこの世界へ戻れなくしておきたいと考えていたのであった。
「証拠があるなら早く見せなさい」
レアは考え事をしていた『ヴァルテン』に詰め寄りそう告げる。
「わ、分かっています」
これ以上は引き延ばせないと考えたヴァルテンは、仕方なく自分の持っている魔法で保存している映像をレアに見せる事にしたのだった。
「私がこの世界へ来る前に最後に録った映像で、これがその時のフルーフ殿の姿です」
――そう言ってレアの前に映像が映し出された。
この魔法は確かにレアの親代わりである『フルーフ』が、編み出した『魔法』であり『
どうやらこの男が言っている事は、嘘ばかりではないらしい。
しかしそんな事は今はどうでも良くなった。フルーフがボロボロの姿で白目を剥いて、フラフラと歩いている映像が映し出されたからだ。
「ふ、フルーフ様!!」
レアは驚愕に目を丸くして映像を食い入るように見る。
映像の中のフルーフは戦場の跡地のような場所で、どこかに向かって歩いていた。
目は虚ろでフルーフの周りを『二色の併用』が纏われていたが徐々に効力が薄れていった。
どうやら何者かと戦いがあった後に『フルーフ』は、その場から離れようとしているようだった。
映像の中のフルーフの口元を見ると、何か呟いているのかブツブツと言っている。レアはその映像を見ていたが、ものすごい剣幕でヴァルテンに詰め寄り口を開く。
「今の部分をもう一度巻き戻しなさい!! 早く!!」
ぎょっとした顔を浮かべたヴァルテンだが、すぐに頷きレアの言葉に従い魔力を映像に放つ。
レアはフルーフが無意識に何かを喋っているのを映像で確認しようとする。フルーフの唇にレアは全ての神経を集中させるかの如く読唇術に集中し視線を注ぐ。
「れ……あ、わ……たしは、さ……いごに………、おま……えに、会い……、た、か……った」
必死にフルーフの言葉を読み取ろうと、口に出していき――。
レアはやがて意味を理解して絶句する。
――「『
――そこで映像は途切れた。
そしてそれと同時にレアはこの世のモノとは思えない程の恐ろしい表情を浮かべて、映像を見せたヴァルテンの首を掴み上げる。
「き、きさまぁ!! フルーフ様をこんな目に合わせた奴は誰だ! さっさと言え!! 殺すぞぉ!!」
無意識に『二色の併用』を使いながら、ヴァルテンの首を掴む手に力が込められていき、ヴァルテンは涎を垂らしながらグルンと眼球が回り始める。
「レア! ヴァルテンを離せ! このままだと本当に死んでしまうぞ!」
レインドリヒの決死の言葉にレアは、慌ててヴァルテンの首から手を離す。
――このままこの男を死なせてしまえば、何も分からないままである。
どさりと音を立てながら意識を失ったヴァルテンが、その場に崩れ落ちる。
どうやら死にはしてはいないが、今すぐに聞き出す事は難しそうだった。
「許さない! 許さない、許さない、許さない!!」
レアの目は『金色』に輝き、今見た映像を思い出して
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