第349話 魔王レアを世界の敵と認めた始祖龍キーリ

 ラルグ魔国へと襲撃を仕掛けてきた龍族達の本隊は、ブリューセンを含めて全滅した。ラルグ魔国の上空でレアは地面に絶命して、倒れ伏している龍達を眺めていた。


「ベイドちゃん達は無事に抜けられたかしらぁ?」


 そう無意識に口をしていた事にレアは微かに自分を笑った。


(やっぱり私はこの世界に来てから、変わってしまったのかもしれないわねぇ。今度エリスちゃんに私が変わったか聞いてみようかしらぁ)


 まだレアは、その時の事を想像してにこにこと笑うのだった。


 ……

 ……

 ……


 ターティス大陸ではキーリの命令で龍族達が戦闘の準備を整えていた。


 神々に近い種族として、この『リラリオ』という世界の安寧を守る為に存在するとされる龍族。


 まだ龍族と精霊族以外この『リラリオ』に存在しなかった、最古の時代から精霊を従えてこの世界の頂点に、君臨していた始祖龍『キーリ』。


 彼女は幾万という時代を生きてきたが、今回の新たな魔族の王の出現に懸念を抱いていた。


 すでにレアをと判断した彼女は、魔族の大陸に側近の者を部隊ごと送り込んだが、レアという魔族だけは倒せるとは思ってはいなかった。


 あくまで今回は龍族が本気で魔族に対して、戦争をするという意思表示を見せただけである。


「アイツがブリューセンを倒すことが出来たなら、俺が戦う必要性が出てくるかもしれねぇな」


 龍族達を束ねる王にして始祖龍『キーリ』は、そうなったらいいなと玉座で呟く。


 数十万という同胞を持ち、その一体一体が1億の戦力値を下回ることがない。恐るべき戦力を持つ龍族だが、本当に怖いのはその龍達ではない。


 ――『十体の守護龍』。


 キーリに選ばれた一つの時代に、十体しか許されていない最側近達である。


 この世界ではキーリが手を出さずとも『十体の守護龍』だけで、この世界を支配出来る程の強さを持つ。


 規格外の強さを持つレアはその守護龍の一体である『ブリューセン』をあっさりと倒したが、そのブリューセン一体で、魔人族の『幹部級』の大半を相手に出来る程の強さを持っていた。


「始祖様が戦う事はないでしょう……」


 キーリの傍に控えていたディラルクはキーリに言葉を返す。


 このディラルクはその『十体の守護龍』の中でも最古参の側近であった。


「前にも言ったが、あのレアとかいう魔族は侮るなよ? 今までこの世界では見たことがねぇ魔法を使い、あっさりとあの魔人共を倒せて見せた。あの魔法はハッタリでも何でもなく、相当な魔力が込められていたと判断が出来る」


 普段であれば他種族に全く興味を示さない始祖龍キーリが、ここまで饒舌に魔族を褒めるので、ディラルクは驚きながらも頷いてみせた。


「確かに魔人シュケインや、精霊王ヴィヌ程の強さを持つ者を倒したのが魔族というのは驚きましたが、そんな彼奴であってもは出来ないでしょう」


「ふん……」


 キーリは内心レアと戦ってみたいという気持ちを内包しているが、確かに数十万という龍族とこのディラルクを含めた守護龍達を同時に相手にして、流石にレアが勝てるとは思えなかった。


「まぁそれならそれでいいさ。この世界を守る為に精々油断だけはするなよ?」


「御意」


 ……

 ……

 ……


 ラクス達がレイズ魔国からラルグ魔国へと向かう途中。彼らの近くに多くの強い力を持つ者が集まってくるのを感じたラクスは、セレスを背中から降ろして慌てて近くの茂みへ身を隠す。


 やがてラクス達が隠れた数分後、ラルグへと向かう龍の群れが空を通り過ぎていった。


「レアが危ねぇ……! くそっ! いったい奴ら何体いやがるんだよ!!」


 今のラクスであっても精々が数体を相手に出来るかどうかというところだが、今飛んで行った龍達だけでも数百から、数千という規模の数が通り過ぎていった。


 しかし今通り過ぎていった龍達だけではなく、他の都市や魔国を襲っている龍族達もいる事だろう。それに対してラルグ魔国に居るのはレアだけなのである。


 魔人や精霊達を倒せるだけの力を持つレアとはいっても、多勢に無勢だとラクスは考える。そして自分がそんなところに向かい助力をしたとしても、何も変わらないかもしれない。


「それでも、行くしかねぇよな……!!」 


 ラクスは拳を握りしめながら、決意を口にするのだった。


 その様子をとなりで見ていたセレスもまた口をきゅっと真一文字に結びながら、母や自分によくしてくれた魔族達の事を考えるのだった。


(あの女が強いのは分かる……。龍族達を滅ぼしてくれるなら精々利用させてもらう!!)


 レアが原因で戦争が始まったのだとしても、直接母や同胞の魔族達に手をかけたのは龍族達である。


 それを考えたセレス王女は、最優先は龍族を何とかする事だと結論を出すのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る