第348話 エリスの気持ちとセレスの気持ち

 龍族に滅ぼされた『レイズ』魔国の領内では、魔人ラクスがレイズで、唯一の生き残りであった少女を救出し、彼のレアの元へ向かっていた。


 龍の一体を倒した後にラクスがラルグ魔国へ戻ろうとすると、自分も連れて行って欲しいと少女に頼まれたからである。


 いつ他の龍達が戻ってくるか分からない以上、少女をこのまま放置しておくわけにもいかず、ラクスは仕方無く一緒に連れていく事にしたのである。


「それにしてもお前、よく無事だったな……」


 少女はラクスの背中におぶさりながら口を開く。


「お母さまの親衛隊が、城の隠し部屋に私を匿ってくれていたの」


 どうやら龍族達が攻めてきたときにエリス女王が指示したのだろう。

 エリス女王程の強さを持っていても、やはり龍族が本気で攻めてきた場合は、勝ち目はないと悟ったのだろうか。ラクスは先程戦った龍のことをを思い出す。


 多少なりともレアに鍛え抜かれて、今では間違いなく魔人族の中では『幹部級』の強さを持つに至ったラクスでさえ、数千匹はいた龍の一体とほぼ互角だったのだ。


 そんな龍達が一斉に攻めこんできたのであれば、今の魔族達ではどうしようもないだろう。


「お母さま……」


 ラクスの背中に顔を埋めながら、しくしくと少女は泣き始める。


「なぁ、お前の名前何て言うんだ?」


 そんな少女に走りながらラクスは名を尋ねる。


「せれす……」


 数秒の間、何かを考えるように俯いていたが、やがて自分の名前を口にするセレス王女だった。


「セレスか……。お前がさっき龍達が攻めてきたのは、レアの所為だと言ったな?」


 ラクスの言葉を背中で聞くセレスは、怒られると思ったのか小刻みに震える。


 ――だが。


「お前の言葉は間違ってねぇよ。俺達魔人族や精霊族を滅ぼしたレアは、龍族にと判断されて攻められたんだからな」


 その言葉にセレスは顔を上げる。


「確かにレアはあんな性格だし、無茶苦茶な事を地でやるような奴だけど。仲間の為に怒ったり、魔族っていう種族を今の地位から掬い上げようと、頑張ってる奴なんだよ」


 ラクスが何を言いたいのか分からないセレスだが、何かラクスの言葉には、強い意志のようなものが感じられた。


「そんなレアをお前のかあちゃんは必死に支えていたんだよ。少しでも強くなって、必死にレアの為にってな」


「俺もお前と同じようにここに連れてこられた時はレアを恨んでいたんだが、今はエリス女王と同じように俺もレアの手助けをしてやろうって、そう思えるようになったんだ」


 ラクスが喋る言葉を黙って聞くセレス。おぶさりながらラクスの言葉の意味を少しずつ理解しようと噛み砕いていくのだった。


「今はまだ俺の言ってる意味が分からないだろうし、レアを憎むのは仕方ないだろうが、レアもエリス女王も同じ志を持って動いていたんだ。魔族の為にってな」


 ラクスは空を仰ぎ見ながら、レアが決意を示していた時の表情を思い出す。


「だから、今だけはもう少しレアを信じてやってくれないか?」


 セレスはラクスの言葉を背中で聞きながら、どうして自分の種族の同胞がレアという魔族に滅ぼされたにも拘らず、ここまであの魔族の為にラクスというこの『魔人』が、そんな事を喋られるのか疑問に思いながら、しかしそれでもセレスは頷くのだった。


「……わかった」


 セレスはまだレアという魔族のせいで、母親やみんなが龍族に滅ぼされたという気持ちは持っているが、このラクスという人がいなければ、自分もまた殺されていたのだからこの男の言う事は一応聞いておこうとそう心に決めて、理解を示す言葉を発したのだった。


 そうしてラクスがセレスを背負いながら、ラルグへと向かっているのと同時刻――。


 ラルグの国境付近でついに龍族達に掴まり、トウジン魔国の王『クーディ』とその配下達は、数千と居る龍達に滅ぼされてしまうのだった。


 現在ヴェルマー大陸では、すでにラルグ魔国以外の魔国はほぼ龍族達に壊滅させられていた。


 レアが魔族の王となった事で、ヴェルマー大陸に存在する各地の魔国の国力や種族の力は高まってはいたが、この世界の調停者達『龍族』の前では、その力も霞んでしまうのであった。


 どの魔国も少人数だけが生かされてはいる。これは偶然ではなく、始祖龍キーリの策略であった。


 国として活動出来ない人数を諸国に残すことにより、龍族達の恐ろしさをその国々に生きる民達に理解させて、今後龍族達に反旗を翻させないという意味を持っているのである。


 そしてヴェルマー大陸に散らばり、各魔国を滅ぼし終えた龍族達は『ブリューセン』のいる本隊に合流をするために『ラルグ』魔国へと向かうのだった。


 そこにまさか始祖龍の側近である『ブリューセン』を滅ぼす程のが待っているとも知らずに。


 ……

 ……

 ……

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