第313話 精霊族の懸念と新たな出会い
「し、信じられない……。あの魔族は普通じゃない!」
「ぞ、族長……。あの映像は本当に行われている事が、映し出されているのでしょうか……?」
精霊族が住む『トーリエ』大陸では、脅威的な強さを持っていた筈の魔人が、あっさりと一体の魔族に全滅させられたことで、余りに現実味がなかった為に、これは幻を見せる魔法が使われているのではないかと疑問視する声が大陸中からあがるのだった。
しかし彼らは四元素を操ることが出来る『精霊』であり『魔』にかけては他種族の追随を許さない程である。
当然に本音ではこの映像が幻ではなく『四元素以外』の未知なる『魔』が展開されているという事を確信していた。
だからこそ『精霊』達はこのレアという少女が、魔人達を軽々と滅ぼしたのを見て新たな脅威が生まれたのだと胸に刻んだのだった。
「魔族は確かに潜在的な強さはあると見ていたが、あまりに強くなる速度が早すぎるではないか……!」
精霊族の族長は額に汗を浮かばせて、嫌そうな表情を浮かべたまま他の精霊達の前でそう告げるのだった。
精霊族から見ても魔族はまだ種族としての強さは、自分達の方が上だと思っていた。
だが、いつかは魔族達が力をつけて、自分達精霊族を従えようとするかもしれないと、そういう懸念は抱いていた。
――しかしそれはまだまだ数百年、いや数千年は先であろうと踏んでいたのである。
そしてそんな魔族であってもまさか魔人を魔族のたった一体で、こんなにも圧倒的に滅ぼせる程に強くなるとは、長く生きる精霊の族長であっても全く予想はしていなかった。
現実にこうして見せられたのだから、予想しようがしまいがどうしようもないが、こうなった以上は何かを手を打たなければ、更に魔族が力をつけてしまうかもしれない。
そしてそれ以上に族長は、空に映し出されていた『魔族』の持つ『魔』の『
……
……
……
レアが魔人を滅ぼして『ラルグ』魔国に戻ると、国の民達はレアを称える声で大騒ぎとなった。
魔人の強さと脅威を知っている魔族達は、今回の戦争次第で魔人達に大陸を支配されてしまうのではないかと覚悟をしていた。
しかし魔族の王となったレア女王が、その脅威から国を守って敵をたった一人で滅ぼして見せた。
空に映し出された映像を見ていた魔族達は興奮が収まらず、ラルグ魔国の民だけではなく『ヴェルマー』大陸中の魔族がレアという一体の『魔王』に魅了されたのだった。
これ程の強さを持つ者が自分達の種族の王なのだと、魔族達は自分達の種族を誇りに思うのだった。
――そして自分達もレア女王のように強くなりたいと考えて、徐々に野心を募らせていく。
今回の魔族に対しての魔人族の襲撃は、種族というモノに対して自嘲的であった魔族達の心を塗り替えるきっかけとなったのである。
レアは城に戻りそんな様子の魔族達を見た後に、
結局のところは野心や野望、そして何かのためにという心を持たぬ者は、停滞するのだとレアは常日頃から思っている。そんな彼女は、今の魔族達を見て安心するに至ったのだった。
そして魔人達が滅びた事で『リラリオ』の
この世界は大きく分けて、五つの大陸で成り立っている。
魔族達の『ヴェルマー』大陸。人間達の『ミールガルド』大陸。そして魔人達の『ディアミール』大陸。精霊や妖精達の『トーリエ』大陸。
――更にはリラリオの世界の安寧をはかる種族『龍族』が居る『ターティス』大陸。
その魔人達が住んでいた『ディアミール』大陸は、魔人達に勝利したレア達魔族が占領する事となったのである。
そんなディアミール大陸に『ヴェルマー』大陸の主国の王達や重鎮達が、レアに連れられてディアミール大陸に降り立った。
ディアミール大陸には残っている魔人の数は少なかった。選りすぐりの魔人達は『下級兵』から『幹部級』まで集まって戦争に参加していたからである。
この場に残った魔人族達はレアの『魔法』によって空に映し出された映像で、魔族に戦争で負けた事を知っており、レアの姿を見た時に魔人達は震え上がっていた。
そんなレアはディアミール大陸を一通り見て周る。主国の重鎮達はこの大陸が魔族のモノになるという事に、嬉しさを顔に滲ませていた。
大陸を歩き回り観察を続けていると、レアはふいに視線を感じた。レアがそちらの方を見返すと、何やら一体の子供に見える魔人がレアを射殺すように睨みつけていた。
『魔王』レアはようやく探していたモノを見つけたとばかりに笑みを浮かべながら、その魔人に近づいていく。
レアの周りにいた重鎮達は魔人に近づくレアを止めようとするが、それを払いのけるように進んでいく。
「そこの貴方。私に何か
煽るようにニヤニヤと笑いながら一体の魔人の前まで出向き、そう口に出すレアであった。
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