第307話 三十万を越える魔人族の軍勢

 ディアミール大陸から出撃した『中級兵』と、その中級兵を束ねる指揮官として『幹部級』の魔人『ギルガ』は、ちょうどディアミール大陸とヴェルマー大陸の間を飛行中、本国にいる『シュケイン』王から『念話テレパシー』が入り、詳しい事情を聞かされる。


 そしてリオン達が苦戦をしているという話を聞き、一度この周辺で留まり本隊と合流しろと伝えられた。しかしその後直ぐに再び状況は一変してしまい、本国へ戻るようにと告げられたのであった。


 ――理由は一つ『幹部級』リオンとリーベの両名が、と判断が下されたからであった。


 この通達には流石に普段から冷静だった『ギルガ』も慌てさせられる事となった。


 『魔人族』とは戦闘を好み戦闘に特化した種族であり、魔族とは比べ物にならない力を持っている。更にその魔人の中でも最上位に位置する『幹部級』は、多く居る魔人の中でも選びに選び抜かれたエリートであり一つの時代にしか居ない。


 その十体の内の二体の『幹部級』が、に殺されたとあれば流石にギルガも慌てざるを得なかった。


 仕方なくギルガはやる気満々の『中級兵』の配下達に事情を説明して、一度本国へ戻る事となった。


 不満そうな表情を浮かべた『中級兵』達だったが『幹部級』のギルガに逆らえる者はおらず、素直に従った。


 そして本国へ戻ってみると驚いたことに、その場には『下級兵』から『幹部級』までの魔人が本国に勢揃いしていた。


 普段は区分分けして一箇所に集まることは戦争時以外ほとんどなく、この三十万からなる魔人の数は壮観だったが、逆に少しだけ不安に思うギルガであった。


 ――これ程の規模の軍を動かす必要が、果たしてあるのだろうか?


 確かに『幹部級』二体がやられたという、由々しき事態を懸念に思うのは分かる。


 しかし流石にこの世界で『龍族』に次ぐ我ら『魔人族』の全軍が結集して、の大陸を攻めるというのは、いささか臆病すぎやしないだろうか。


 これ程の規模の戦争となれば『龍族』や『精霊族』といった種族が、直ぐに察知するだろう。そしてその時に彼らがこの光景を見てどう思うだろうか?


 我ら魔人の目的は、龍族を倒してこの世界を手中に治める事にあった筈なのである。


 それが魔族を攻める為だけに全軍出撃をするようであれば、逆に他の種族から侮られないだろうか? 魔人族は自他共に認めるこの世界No.2を誇る戦闘種族である。


 属国を増やして他の種族を支配下にする為の一歩として魔族を攻める筈が、これでは他種族に舐められるのではないだろうか?


 ――ギルガはそのプライドの高さ故に、いらない事を考えてしまうのだった。


 しかしそれでも魔人の王が考えた事には逆らうつもりは毛頭なく、シュケイン様の決めた事であればとばかりに渋々ではあったが頷く他なかった。


(仕方あるまい……)


 …………


 そして一か月後――。


 遂に『魔人族』の戦争の準備が整った。


 三十万の魔人の軍勢が軍列を組み『シュケイン』の出撃命令を待つ。この場にいる魔人達は一体一体が魔族を上回る程の戦力値を持っている。


 『下級兵』でさえ戦力値4000万を越えており『幹部級』の中には『スクアード』を伴えばその数値が億を越える魔人もいる。


 ――どう考えても余剰すぎる戦力である。


 これでは魔族どころか同時に精霊族を相手にできる程だろう。ギルガは溜息を吐きながらもここまで来てしまった以上は、従う事に抵抗はなかった。


 そしてシュケイン王の号令の下、魔人の三十万を超える全軍が一斉に飛び立つ。魔族の住む大陸『ヴェルマー大陸』へと戦争を仕掛けに向かうのであった。


 …………


 ――しかし一か月という魔人達の準備期間はあまりに長すぎた。


 まだ一か月前であれば、魔人達に一握りの勝機はあったかもしれない。


 だがこの一か月という期間の猶予のせいで、レアが名実共に『を手にしてしまうのであった。


「なるほどねぇ?」


 ラルグ魔国のある一画。そう呟いた幼女の身体を纏うは、の『紅』と程の『青』。


 ――『』であった。

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