第306話 魔王レアと二色の併用
魔人リオンと魔人リーベが、ヴェルマー大陸に攻め込んできた一件から早くも一か月が過ぎた。
この一か月でヴェルマー大陸では色々と変化が生じていた。それは魔人達が襲撃してきた頃に比べて、魔族達の意識が変わり強くなる為の努力が随所に見られるようになったのである。
その要因の一つは間違いなく『レイズ』魔国の『エリス女王』の影響であった。
レアに心構えを指摘されてエリスの類まれな魔力を見抜いたレアが告げた一言は、長く停滞していたレイズ魔国の魔族の成長を促進させたのである。
あの日以降、近接で戦う者がほとんどだった者が少しずつではあるが、魔法で戦う遠距離に特化した者が出てきたのである。これこそがエリスの考えていた可能性の一つである。
今までのように武器を強化しただけの戦い方ではなく、前衛に近接部隊を敷いた後、魔力の高い者たちが部隊を組み、後衛から補助・攻撃をする魔法部隊を編成し始めたのである。
(※この時の取り組みが『145話 ヴェルトマーとの出会い』に登場するセレス女王時代の軍体制が確立された)
単に前に出て戦う魔人と同じ戦い方をしていた魔族達は、魔法で戦うという新たな試みに一歩踏み出したのだった。
もちろんこのような事は『レパート』の世界では当たり前であり、すでにその先の『大魔王』
――だが、リラリオの世界はこれでいいのである。
ようやく一歩先へ進む事が出来て、魔族達の時代が進んだのだから。
まだまだレイズ魔国やラルグ魔国といった大国で行われ始めた戦闘編成だが、今後は徐々にヴェルマー大陸に魔法部隊という概念は広まっていくだろう。
レアは『リラリオ』の魔族が、ようやく前を向いて歩き出した事に喜々感を出していた。この世界の魔族ではないが、レアは徐々にこの世界の魔族達に情が湧き始めていた。
このヴェルマー大陸を支配しようという魔人を
そして自身もまたこの一か月、新たな力に着手するきっかけを手にしていた。まだまだ実戦では使えるようなものではないが、方向性を見つけるに値するものであった。
――それは『二色の併用』である。
この時代では『リラリオ』の世界どころか『レパート』の世界でさえ、発現している者はフルーフくらいであった。
しかしそのフルーフにさえまだ教わってはおらず、レアが自らこの境地を見つけ出したのである。
(なるほど、これは難しいわね。紅を最初に纏わせて、その後に青を混ぜる感覚かしらぁ?)
そう心の中で呟きながら独自にオーラの併用を試みる。
紅に少しだけ青が混ざると即座にオーラが暴走してしまう。レアは慌ててオーラを抑え込む為に『
(これじゃあ駄目ねぇ。少し紅の練度を下げる? いや、それだと基本の力が弱まるし、無駄に魔力を使うわねぇ? 格上との戦いではそんな妥協した力なんて絶対に使えないわぁ)
この方向性に気づいてから、あらゆる考察を自分一人で試し行う。すでに『混合』までは、扱えるようになってきているレアであった。
「こっちだけなら、もうかなりのモノになってるんだけどねぇ」
そういってレアは手のひらの上で魔力を具現化させる。そしてその具現化させた魔力を全体に纏わせる。
――それは高練度の青のオーラであった。
元々扱えていたオーラだがこの世界に来た時よりは、更にその練度を高めていた。そしてレアは立ち上がると、窓から遠く離れた場所を見る。
ここから見える景色を見ているのではなく、遠く離れているにも拘わらず、レアだけが感じ取っている膨大な魔力を持つ存在を視ているのだった。
それはこの世界にきてレアが最初に意識を持っていかれた存在がいる場所。
『龍族』が住む『
「魔人なんてこれっぽっちも感じる物なんてないんだけどねぇ? 龍族達のこの魔力の方だけは絶対に無視できないわよねぇ」
レアはふっと笑うと、その龍族が居る大陸の方から視線を外した。
そしてフルーフの言葉を遂行する為の最大の難関の『龍族』の事を考えながら、
……
……
……
「鬱陶しいな……。また見てやがるなぁ?」
レアに意識されている存在。その正体である始祖龍キーリは、宮殿のある玉座に深く身体を沈めながら、どこから見てるかわからない視線を鬱陶しそうに感じながら言葉を吐く。
「どうかされましたか?」
龍族の側近であるディラルクが、突然のキーリの言葉に反応して、心配そうに声を掛けてくる。
「ん? いや、なんでもねぇよ」
「そうですか?」
会話はそれで終わったがキーリはこの視線の持ち主が、いずれ自分たちに戦いを挑んでくるだろうという
神々に近いとされる種族である彼女達は、この時代では全種族の頂点に立つ『龍族』であった。
(この視線を向けている奴は、魔人かもしれねぇな)
リラリオの世界で『龍族』に次ぐ戦闘能力の高い種族である『魔人』が、彼女達『龍族』に戦争を仕掛ける準備を行っているのかもしれないと考えて、そう推測をするキーリであった。
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