第296話 三大魔国を支配する魔王

 ラルグ魔国の女王となったレアが、トウジン魔国に使者を送ってから数日。書簡を持たせた使者がレアの元に帰ってきた。届けられた書簡の中身を見てレアは笑う。


「トウジンとかいう国もやはり大したことはなかったわねぇ」


 使者から受け取った書簡には『トウジンはラルグの属国になる』と書かれていた。


 つまりそれはこの時を以て『ヴェルマー』の三大魔国は全てレアの物となったという事と同義である。


 ……

 ……

 ……


 ――その後はヴェルマー大陸中で多くの戦争が行われていった。


 トウジン魔国とレイズ魔国を属国としたラルグ魔国は、大陸全ての国々を支配する為に次々と他の諸国を力で制圧していく。


 三大魔国筆頭のラルグ魔国だけでも圧倒的な力を誇っていたというのに、その三大魔国と呼ばれた全ての魔国が一つとなって向かってくる以上は他の国が相手になるわけがなく――。


 レアに仕掛けられた国々は抵抗も空しく、あっさりと降伏宣言を出していくのだった。


 こうしてヴェルマー大陸は、唐突に姿を現したレアという一体の魔族によって、僅か数年という短さで『ヴェルマー』大陸に存在する全ての魔族の国を制圧。


 ラルグ魔国は三大魔国筆頭から『ヴェルマー』大陸の統一国となり、そのラルグ魔国を率いたレア魔国王は名実共に『魔族の王』となるのであった。


 そんなレアではあるが胡坐をかいて見ていただけではなく、実際に戦争を駆け回り自身の研鑽を怠ることなく自己勤勉に励んでいった。


 彼女の中にあるのは、フルーフの『世界を支配してきなさい』という言葉のみであった。その言葉の為ならばレアは何でもする覚悟である。


「フルーフ様、見ていてくださいねぇ! 貴方のレアは見事この世界を支配してフルーフ様に必ずやご報告しますから!」


 この時にはすでに『青』の練度は2.5を超えており、元となる戦力値も『真なる魔王』の領域からはみ出し始めていた。


 ――そして、それから更に数年が過ぎた。


 レアは自身の研鑽以外にもヴェルマー大陸の配下達の魔族の育成を始めていき、徐々にではあるが三大魔国と呼ばれた国々やそれ以外の諸国でも『最上位魔族』が増え始めていった。


 初めこそ渋々と従っていた魔族達だったが、暴君だと思っていたレアは意外とまともであった。育成には丁寧に指導を重ねており、日が経つ事にレアを慕う者も増えていった。


 彼女の目的はフルーフの言葉通りこの『世界』の支配者となる事。


 その為には仲間となった者たちを強くすることは、自身の目的の為にも必要なことである為、決して手を抜く筈がなかったのである。


 そしてそれはラルグ魔国だけではなく、レイズ魔国やトウジン魔国そして他の小さな国々にも同様に手を施していく。


 気が付けばレアに支配されることを苦にも思わぬようになっており、むしろ絶対的な強さを持つレアがいる事で、ヴェルマー大陸の戦争はなくなるのだった。


「いやはや、支配による安寧ですか……。これもまた一つの平和の形なのでしょうね」


 レイズ魔国の女王『エリス』は深く感心して、彼女の子であるセレス王女にそう漏らすのだった。まだ小さいセレスは優しく構ってくれるエリスによく懐いており、その言葉を聞いて意味も分からず笑うのであった。


 ――しかしこの歪な安寧を揺るがす事件が『ヴェルマー』大陸に起きる。


 『魔人』という種族が『魔族』達を支配しようと、ここ『ヴェルマー』大陸に侵攻をしてきたのである――。


 魔人達は今まで格下である魔族等に興味はなく、これまでは全く相手にすらしてこなかったが、長年同種族同士で争っていた魔族達が、突然現れた一体の魔族によって大陸が統一された事を聞き、当代の魔人の王『シュケイン』は、その魔族であるレアに興味を持ったのである。


 ――魔人の目的は一つ。


 有望な戦士となる者を一体でも多く配下につけて、この世界の調停者とも支配者とも呼ばれる『龍族』と戦争を起こすつもりなのであった。


 この『リラリオ』という世界では『龍族』が最強の種族であり、魔人は長年No.2の座に落ち着いていた。


 しかしヴェルマー大陸がそうであったように、魔人達の住む大陸『ディアミール』でも最近、魔人の王が入れ替わるという出来事があったのだった。


 当代の魔人の王は野心家で、前代の王より遥かに力を持っており、この世界を征服しようと目論んでいた。


 魔人はそこまで数は多くはない種族である。


 『ディアミール』大陸に住む魔人達全員を合わせても『ヴェルマー』大陸の大国の一国程も居ないだろう。


 だが、戦力値は魔族の比ではなく、魔人の一体一体の戦力値は当時の魔族達の遥か上をいっている。それもその筈、種族としての強さは龍族に次ぐといわれている程なのである。


 この世界には四元素を生み出す種族、魔族よりも遥かに魔力が高い『精霊族』もいるが、その精霊族を抑える程の力を魔人達は持っていた。


 魔人の王『シュケイン』はレア達魔族を支配下に収めた後は精霊族を支配して、そして人間達の居る『ミールガルド』大陸をを支配するつもりである。


 膨大な軍勢を従えた後は、最強の種族と呼ばれる龍族を打ち滅ぼして『シュケイン』率いる魔人がこの世界に覇を唱えようというのであった。


 その為にシュケインはまず圧倒的な力を魔族たちに見せつけて、世界に魔人という種族を知らしめようと、ヴェルマー大陸に侵攻を開始するのであった。

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