第295話 レイズ魔国王エリスとレパートの魔王

 このまま抵抗をせずにレアの言う通りにすれば、大事なレイズがレアの言う通り属国とされてしまう。まさかここまで野心に溢れた者だとは気づかなかった。


 エリス女王は配下の親衛隊達に直ぐにこの場を離れるように指示を出す。強引に捕縛してくる奴がいれば、攻撃を許可するエリスだった。


 すでにラルグ魔国からこういった態度を取られている以上、正当防衛に出ることは当然の権利である。


 当時のレイズの国力はそこまで大きいものではなく、エリス女王の孫にあたる『シス』の時代とは違い、そこまで配下たちの魔力も高くはなかった。


 しかしそれでも王女を守る親衛隊は一体も違わずが『最上位魔族』である。ラルグ魔国の魔族と渡り合う程の力は持っている筈だった。


 敵が攻撃に出る前に来た道を引き返そうとエリス達は行動に出る。


 エリスは『淡く紅い』オーラを発動させて女王自らが戦いの意を示す。レイズ魔国の女王『エリス』はお飾りの王ではない。


 当時の『リラリオ』の世界の魔族ではまず間違いなく、とも呼べる程の魔法を放って退路を築き上げる。


 エリスの魔法によって、取り囲んでいたラルグ魔国の魔族数体が道をあけるように避ける。


「よし……! 今のうちに国へ戻るのです!」


 エリスがそう告げて一気に駆けて行くと、親衛隊達はエリスの後を追い始める。


「く、くそっ……!」


 ラルグ魔国の兵士達は慌てて逃げるエリス女王達を追いかけようとするが、その様子を後方で見ていたレアが上機嫌で手を挙げて止めるのだった。


「うふふ。王に相応しい決断力だわねぇ。気に入ったわよぉ? エリスちゃん」


 そう言うとレアは恐ろしい速さでこの場から離れていく、エリス女王の前方に向けて手を翳した。


 ――超越魔法『終焉の雷エンドライトニング』。


 かなりの距離を取ったことで逃げ切れたと判断したエリス達の前方に、恐ろしい威力を持った雷が落ちた。


「と、とまりなさい!」


 慌ててエリス女王は親衛隊達を呼び止める。


 レアの落とした雷は地面に大穴を開けて空洞を作るに至る。


「な、なんて威力なの!?」


 この時代の魔族の誰もが見た事のないレアの魔法に、エリスは驚愕の目で雷の落ちた場所を見つめる。


 そしてラルグの新魔国王となったレアは、そんな驚いた様子を見せるエリスの前方の空に突然現れる。


「エリスちゃん? 次に逃げたらお前の国を潰すわよぉ?」


 そしてエリス達にを理解させるように、レアは『青のオーラ』を纏い始めるのだった。


 当時の『リラリオ』の魔族の最高峰の戦力値をレアの力の前に、エリス達は従う他ないのであった。


 こうしてあっさりとレアは『ヴェルマー』大陸の三大魔国の内『ラルグ』と『レイズ』を手中に収めるのだった。


「貴方はとても優秀だと思うのねぇ。だから今後は私の元で働いてもらうわよぉ?」


 そしてエリスは一国の女王の身でありながら、レア直属の配下として側近に選ばれてしまうのだった。


 この出来事はヴェルマー大陸中にあっさりと知れ渡ってしまう。それもその筈『ラルグ』魔国も『レイズ』魔国も三大魔国と呼ばれる程の大国なのだ。


 その二つの大国を今まで見た事もない魔族が支配するという、誰もが信じられない出来事が起きたのである。瞬く間に広まるのも仕方のない事であった。


 だがこの出来事に一番驚かされたのはやはり、トウジン魔国の王であろう。


 そしてそんなトウジン魔国の元にも、ラルグ魔国の女王であるレアから属国になれという書簡が使者によって届けられるのだった。


 この数日の間に情勢が一気に変わってしまった事に、トウジンの王『クーディ』は直ぐに側近達を集めて緊急会議を開くのであった。


 …………


「どうやらラルグ魔国の新しい女王は、余程力を持っているようだな」


 『トウジン』の魔国王『クーディ』は会議が始まって開口一番にそう口を開いた。


 会議に参加している『トウジン』魔国の重鎮達はこの件を重く受け止めており、ラルグと全面戦争を行うか、それとも抗争を避けて『レイズ』魔国のように属国となるかの判断が迫られていた。


 全面戦争となればもちろん『トウジン』魔国は大きく被害を被る事になる。


 それで勝てる事が出来るのであればまだいいが『ラルグ』と『レイズ』という大国を同時に相手にして勝つ事は現実的に考えてまず不可能だろう。


「クーディ王。悔しいがここは戦争を避けるべきでしょう……」


 そう進言するのはこの国のNo.3である『イオール・ビデス』。


 そして会議に参加している者達の多くがこの『イオール』と同じ考えであった。


 トウジンの者達はひとたび戦いとなれば、どちらかが滅びるまで続けてしまう性質であり、更に同胞が殺されてしまえば、新たな悔恨が生まれて終わりなき戦いが始まってしまう。


 ようやく冷戦状態になった今、再び蒸し返して国自体が亡びる事はあってはならないのだ。その事を踏まえて会議の参加者達はイオールの言葉に賛同したのである。


 配下達の言葉を聞いたクーディ王は渋々と頷く。そして会議は戦争を避けるという事で一致した。


 クーディ王は会議を終えた後、自室に戻り先ほどの会議の内容を思い返していた。


 クーディとて無駄な血を流さずに済むのであれば、それが一番いいとは考えている。


 しかし本当にこれでいいのか? という疑問も同時に湧き上がってくるのだった。


「戦わずして負けを選ぶか。先代の王が生きていればどう思うだろうか……?」


 『トウジン』魔国は過去に『ラルグ』や『レイズ』と話し合いの場など設けた事もなく、常に三国間で争いあってきた。


 それが此度で『トウジン』魔国は話し合うどころか、戦わずして属国となることを選ぼうというのだ。

 この前代未聞の出来事にクーディの胸中は複雑な気持ちでいっぱいになるのだった。


 ――しかしこの時に出した結論が、のちにトウジン魔国にとっては救いとなるのであった。

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