第286話 戦争の後で

 破壊されたラルグの塔の修復を行うまでの間、トウジンで防衛を果たしたキーリや、ラルグの重鎮たちと合流した後にソフィ達は、レイズ魔国へと場所を移して会議を開く事にした。


 ひとまずソフィは今回の戦争で尽力した主だった者達に労いの言葉をかけて周り、今はトウジン国の王『シチョウ』から今回の報告を聞いていた。


「以上の事からラルグの王ソフィ殿から派遣された龍族の方々によって、我々トウジン魔国は救われました。ソフィ殿にキーリ殿。我々トウジン魔国は貴方達同盟の大陸の方々に深く感謝します」


 レアの軍勢というよりもヴァルテンを主とする部隊と戦った、キーリ達の活躍を会議で報告するシチョウだった。


 始祖龍キーリは傷を負った側近達の看病を済ませた後にこの会議に参加していたが、シチョウの感謝の言葉に照れながら、はにかんだ笑顔を見せつつ何故かキーリもシチョウに頭を下げていた。


 そして報告はレイズ魔国に移り、ユファはレインドリヒと戦った後の顛末を話し始める。


 今回の戦争の首謀者であるレアは、配下のヴァルテンと『アレルバレル』の世界で結成された組織の一味。そして大魔王ヌーの思惑によって、騙されて引き起こされた悲しき戦争であったと伝えてレインドリヒという魔族は、そんなレアを助けようと動き『レイズ』魔国で面識あるユファと一対一の戦闘を提案して、レインドリヒからこの戦争を止める為に協力要請があったと伝えた。


 ――しかし結果は魔王『レア』と、大魔王『レインドリヒ』両名は戦死。


 レインドリヒはレアを庇ってこの世を去り、レアは『代替身体だいたいしんたい』で蘇生を果たしたとみられるが、現在の居場所は不明と報告されたのだった。


 レインドリヒやレアの話をするたびに、いつも凜とした力強い言葉を発するユファがどもり、悲しそうな表情を浮かべながら話すので、三大国やその他の主だった『ヴェルマー』大陸中にある国の重鎮達は驚きで場をざわつかせているのだった。


「静かに」


 ユファが話し終えた後もざわついていた場が、ソフィの一括で押し黙った。


「そうか……。あやつが騙されていた事は知ってはいたが、原因はヌーと我の居た世界の者達が原因だったのか」


 そして神妙な顔で考えていたソフィは、その場で立ちあがって頭を下げるのだった。


「今回の引き起こされた戦争の発端は全て我を狙った物だったという事だな。ここに居る皆の者に改めて聞いてもらいたい言葉がある。


 突然のソフィの謝罪に各国の王やこの場に居る者達は慌てて立ち上がり、これまで以上に驚いた様子を見せながらソフィの頭を上げさせようとする。


「な、何を仰いますか! 頭をお上げください、ソフィ様!! わ、悪いのはこの企みを考えた『大賢者』とその組織。そして大魔王『ヌー』ではありませんか!」


 ソフィの横で立っていたブラストが、声を荒げながらそう告げる。


「会議中にすみませんが、貴方は誰なのです? 我が主とどのようなご関係が?」


 今までは会議の最中という事もあり、他の者もブラストの存在は知っていたが、口にすることはなかった。


 しかしソフィの直属の配下であるラルフが口を開く事で、ラルグの王で実質この大陸の王でもあるソフィの頭を上げさせる事が出来て、場の雰囲気が少しだけ和らいでいく。


「ああ? 俺か? 俺はソフィ様の直属の配下にして名誉ある『九大魔王』ブラストだ」


 その言葉にラルフを含めた多くの者達が驚く。


 ユファとソフィだけが、淡々とその言葉を聞いていた。


 場の視線が再びソフィの元へ行く。


「うむ。何故この世界にこやつが居るのか等、詳しい話はまだ聞いてはいないが、決してこやつは敵ではないぞ。である」


 その言葉に場の者達は納得したが、当人であるブラストと事情を聞いたラルフが互いに眉を寄せる。


(こんな弱そうな人間が、ソフィ様の側近だと……?)


(こんな危なそうな男が、ユファさんと同じ『九大魔王』!?)


 互いに心の中では、あまりいいとは言えない印象を持つのだった。

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