第260話 大魔王ヴァルテンVS始祖龍キーリ

 レイズ魔国の国境付近から感じる魔力に、ユファは懐かしさを感じ取っていた。


「やっぱり来たわね、レインドリヒ……!」


 国境付近に来るまでレインドリヒの魔力を感知できなかった事を疑問に思いながらも、別段そこまで驚く事はしなかった。


 ――魔術師『レインドリヒ』。


 奴がやる事に対して、いちいち驚いているとキリがないからである。


 直ぐにシティアスの守りについている、魔法部隊の指揮官であるリーゼに言葉を送る。


「奴らの相手は私が引き受けるから、貴方は魔法部隊の者達をシティアスからレイズ城の間まで下がらせて頂戴」


 ユファがそう言うと、リーゼは素直に従い部隊を下げる伝令を下す。


「ヴェル、まさか一人で行く気なの?」


 リーゼとの会話を終えた後を見計らって、シスが問いかけてくる。


「大丈夫よ。すぐに終わらせて帰ってくるから、貴方は王女様らしくドシッと構えてなさい?」


 シスの頭に手を置いて優しく撫でる。


「もうっ……! 死なないでよ?」


 子供の時のように頭を撫でられて照れていたシスだが、やがて上目遣いで懇願するようにそう言った。


「あいつとは何度も戦ってるからね。手の内は知り尽くしているから大丈夫!」


 そういって空高く飛び上がり、ユファはレインドリヒの元へ向かうのだった。



 少しずつ遠ざかっていくユファの後ろ姿を見ながら、シスは両手を握りしめて目を『金色』に輝かせるのだった。


 ……

 ……

 ……


 トウジン魔国上空で遂に『大魔王』ヴァルテンが部隊を引き連れて、キーリ達の前に姿を現した。


 トウジン魔国を守るように龍達が長い体をうねらせながら、少しずつヴァルテン達を囲んでいく。


 このリラリオの世界で最強の種族であった龍族達が、トウジン魔国に侵攻してきた魔族の敵対者達を睨みつける。


「おやおや、がこの世界には残っているのだな? 。楽しませてもらおうか」


 ヴァルテンがそう言うと、配下の魔族達は一斉に周りを飛んでいる龍達に攻撃を仕掛ける。


 『終焉の炎エンドオブフレイム』や『終焉の雷エンドライトニング』など、魔王の代名詞と読んでもいい魔法が、次々とヴァルテンの配下から発動される。


 龍族達もそんな魔族達の攻撃を難なく避けては反撃に転じる。互いに攻防を続けながら、空だけではなく地上へ降りる者達も現れて、トウジン魔国周辺は一気に戦場の場へと変貌していく。


 流石は『大魔王』ヴァルテンの配下の魔族なだけはあって、龍族達相手でも全く引けを取らない魔族達。


 そこへ遂に始祖龍キーリが、力を開放して動きを見せる。


「さて、何体残るかな?」


 人型であった少女は大きな白い龍へと変貌していく。そしてキーリの口から炎が吐き出される。


 ――『龍ノ息吹ドラゴン・アニマ』。


「ぎぃやぁああ!!」


 今まで龍達の炎を華麗に避けていたヴァルテンの配下達は、一斉にキーリの『龍ノ息吹ドラゴン・アニマ』に焼かれていく。


 速度も威力も段違いの戦力値が7億近い始祖龍キーリの炎である。配下の龍達の炎とは比べ物にならなかった。


 キーリの攻撃で一気にヴァルテンの配下達の動きが悪くなり、そこへ他の龍達も一斉に炎を吐く。


 数でも上回る龍達が縦横無尽に飛び回りながら、ヴァルテンの配下達に攻撃を加えていく。少しずつではあるが、ヴァルテンの配下の魔王達もその数を減らしていく。


「成程、有象無象の龍というわけではないか。やるじゃないか」


 ――神域魔法『天空の雷フードル・シエル』。


 雨雲がトウジン魔国上空に集まり始めて、神域に到達している天候系魔法が放たれる。


「!」


 キーリの側近の龍のディラルクとレキオンは、その魔法を見て身体を硬直させる。


 ユファとの一戦の所為せいでこの魔法にトラウマを植え付けられているようだった。そしてそんな僅かな隙が致命的な時間となる。


 天空から一筋の雷光が『ディラルク』達を襲う。バチバチバチという音を立てながら、ヴァルテンの大魔法が直撃してディラルクは空から堕とされた。


「ディラルク!」


 キーリが配下の名前を呼ぶが、すでにディラルクは意識を切断されたようだった。


「ちぃ……っ、おいレキオン、ミルフェン!」


「はい、始祖様!」


 キーリがただそれだけを口にしただけでレキオン達は、戦闘から離脱して落ちていったディラルクを回収に向かう。


 どうやら全てを語らずとも、彼らは自分達の束ねる始祖キーリの考えを理解しているようであった。


 しかしヴァルテンはその様子を見て不敵に笑う。


「よし、分散した! 残っている奴らをやれ!」


 周りを飛び回り炎を吐いていた龍達に向けて、ヴァルテンの側近達の『真なる魔王』達が次々と魔法を放つ。


 数でヴァルテン達の配下に勝っていた龍達が、徐々にその数を減らされていく。


 キーリが大勢を立て直そうと移動したところを再度ヴァルテンが超越魔法を放つ。


「! こんな程度の低い魔法、躱すまでもない!」


 そう言ってキーリが『龍ノ息吹ドラゴン・アニマ』で、魔法そのものを弾き返そうとするが、それはヴァルテンの誘いであった。


 ヴァルテンの超越魔法『終焉の炎エンドオブ・フレイム』ごと、キーリの炎がヴァルテンを飲み込もうとするが、その先に居た筈のヴァルテンの姿はなくキーリは驚きで目を丸くする。


「火力の強さだけで、戦闘の善し悪しは決まらないのだよ白龍」


 いつの間に転移していたのか、炎を吐いていたキーリの白く長い体に跨る。


「くっ! 勝手に俺の身体に乗るな!」


 まるでイヤイヤと身体を振っているようにしてキーリは身体をうねらせて、ヴァルテンを払い落とそうとするが、ヴァルテンは楽しそうにバランスを取りながら上手く乗り回す。


「クックック、貴重な体験をさせてもらったお礼だ」


 そう言ってヴァルテンは再びキーリの身体から姿を消す。


 その後、再び雷光がキーリに向けて放たれていた。


 バチバチと音を立てながら、今度はキーリの身体に『天空の雷フードル・シエル』が直撃する。


「うぐぐぐっ!!」


「キーリ様!」


「始祖様!」


 苦しそうに表情を歪めるキーリを救うため、他の龍たちが集まってくる。


 ――しかしそれもまたヴァルテンの謀り通りだった。


「やってしまえ!」


 再び『真なる魔王』達の元に集まってきた龍達に向けて、次々と魔法を放っていく。


 力や数では龍族達の方がヴァルテンの魔族を上回っていただろう。しかしヴァルテンの巧みな策略によって、始祖龍キーリを含めた龍族達は徐々にその数を減らしていく。


 気が付いてみれば、龍達の半数以上が地に伏して動かなくなっていた。対するヴァルテンの配下達はまだほとんどがそのまま残っている。


「所詮、図体だけの龍族ではこんなものか」


 その言葉に雷で焼かれたキーリが、ピクリと反応を見せるのだった。


 ……

 ……

 ……

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