第259話 ヴァルテンの狙いと、レインドリヒの狙い

 レインドリヒの部隊達がヴェルマー大陸に辿り着いた頃、ヴァルテン達の部隊も後を追っていた。


 ヴァルテン達の役目はヴェルマーの中でここから一番近い国である『トウジン』魔国の者達の足止めである。


 レアの作戦ではヴァルテン達がトウジンを攻め滅ぼした後、レインドリヒ達の部隊と合流することであるが、ヴァルテン達の裏の作戦では『トウジン』魔国の侵攻が終わる頃には、新たな援軍が来ることになっている。


 ――その援軍の正体は、大魔王『ヌー』である。


 ヌーがこの世界に来た時点で『魔王』レアの発した号令や、此度の全ての作戦は破棄されて、ヴァルテンとレインドリヒは即座にリラリオの世界から脱出して、当初の予定通りに『レパート』の世界へ転移する。


 あとはどうなろうが『ヴァルテン』には知ったことではない。


 ヴァルテンとしてはソフィをリラリオの世界へ留めておく事が出来れば、後の事はどうでもいいとさえ考えているからである。


 レインドリヒがユファを殺す事が出来れば一番だが、そこまで望まなくとも『ヌー』がリラリオの世界に降り立った瞬間に、この作戦は成功といっても過言ではない。


 大魔王ヌーは数千年前の時点で、アレルバレルの世界でだった。


 更に今では『実験体』となったフルーフから数多の新魔法を奪い取り、実験は現在も進んでいる。


 あの化け物ソフィと戦ったとしても、今であればヌーが勝ってもおかしくはないだろうと、ヴァルテンは密かに考えもしているようであった。


 そんなヌーが作戦に参加する以上、彼が話し合いで解決させる事はない。


 ヴァルテンはソフィとヌーが戦闘になれば尚良しと考えてはいるが、流石にそこまでは上手くはいかないだろう。


 ひとまずは『概念跳躍アルム・ノーティア』を使うユファやレアを仕留めてもらえれば、それでいいと考えているヴァルテンであった。


「ヌーの魔力を少しでも感じ取ればどういう状況であろうと、即座に転移せねばなるまい」


 彼には仲間意識など無く、大賢者の組織の魔族だろうとそうでなかろうとも、彼の攻撃範囲に入れば躊躇なく攻撃してくるだろう。彼はそういう魔王なのである。


「レアの奴め……! 私をコケにしなければ配下の末席には加えてやったものを……っ! 忌々しい……! 死んで償え!」


 彼が天下を取る為の一番大事な時にあの小娘さえ、レパートの世界に戻って来なければ、あの世界はヴァルテンのモノになっていた事だろう。


 それを妨害してあまつさえ塵芥を見るような視線で、ヴァルテンを見下したレアを未だにヴァルテンは恨んでいたのであった。


 いくら魔王レアがヴァルテンより強くても、大魔王ヌーには足元にも及ばないだろう。


 粉々に吹き飛ばされるレアを想像して、笑みを浮かべるヴァルテンであった。


「そろそろレインドリヒ達が、レイズの国境辺りに辿り着く頃合いだろう。お前達、魔力を一気に開放して派手にトウジンを攻めよ」


 ヴァルテンは自分の部隊の者達にそう言うと、自らも力を開放するのであった。


 …………


 トウジン魔国に居る始祖龍キーリは、レインドリヒ達がユファ達の元へ行くのを感じ取っていたが、あまりに魔力が小さい為に放置して、それよりも本命と思わしきヴァルテン達の方へ意識を向けていたのだった。


「なかなか大きな魔力を持っている魔族だな、お前達遠慮はいらんぞ? 同盟であるトウジン魔国に攻めてくる馬鹿な魔族達を皆殺しにしろ」


 キーリが笑いながらそう言うと、側近の龍族達は力を増幅させるのであった。


 戦力値が三億に近いレキオンを筆頭に、ミルフェンやディラルク達も二億近い戦力値を誇る。


 前回のソフィとの戦闘ではいいところが無かったディラルクは、今回の戦争で汚名返上をして憂さ晴らしをする予定であった。


「しかしキーリ様、先程上空を飛んでいった魔族達は、見逃しても良かったのですか?」


 ミルフェンの言葉にキーリは鼻をならす。


「ああ、あんなチンケな魔族など我ら龍族がわざわざ相手にするまでもない。それにあのであれば問題無いだろうよ」


 直接ユファと戦った事があるキーリは、相手がそれこそ魔王レア本人という事でもなければ、戦力値七億近くまで上昇させる事が可能であるユファであれば何も問題はないだろうと告げるのだった。


 魔術師レインドリヒの思惑は、見事に嵌ったと言っていいだろう。


 …………


「よし、レイズ魔国の国境辺りだな。お前達『隠幕ハイド・カーテン』を解いてもいいぞ」


 レインドリヒがそう言うと、彼の部隊達は一斉に『隠幕ハイド・カーテン』をといて大人数がその姿をレイズ魔国領に見せる。


「さて、後は上手くユファに接触出来ればいいが、いきなり『念話テレパシー』を飛ばしても波長が合わないだろうし、何より無効化される恐れがあるからな。さてどうするかな」


 下手にここから攻撃をしたところで、ユファは出てこないだろう。


 敵を刺激する事は逆効果であると考えるレインドリヒは、どうにかしてこの場にユファが出てくるようにと仕向ける方法を考え、模索を始めるのであった。

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