第254話 根源の玉
ダイス城へと転移して戻ってきたルビリスは、地下牢に幽閉している『九大魔王』である『ディアトロス』の魔力を感知すると顔を歪めた。
「まさか……!」
慌ててルビリスはダイス城の隠し通路のある場所へ向かうと、粉々にされている壁付近に実験体達が倒れているのを確認する。
直接倒されたわけではなく、余波に巻き込まれて絶命したのだろう。実験体と呼ばれた存在達の身体には傷がついていなかった。
しかしこの惨状を見るからに、すでに幽閉していた『ディアトロス』は抜け出されているだろう。
ダイス城を守るように『大賢者』から命令されていた『ルビリス』は深く溜息を吐いた。
(まさか神聖魔法の結界が施されていた牢から抜け出されるとは……。やはり我々はまだ、この『
「それにしてもうまく誘い込まれた挙句に、面倒な奴を逃してしまった。更にイザベラ殿もやられたとなると、大賢者様に何と詫びればいいか」
ルビリスは傀儡のダイス王の居る玉座へ、とぼとぼと歩いていくのだった。
……
……
……
その頃、魔族の大陸に居るイリーガルの元に『ダイス』王国から無事逃げ遂せた『ブラスト』と『ディアトロス』は合流を果たしていた。
「ディアトロス殿にブラストか、どうやら無事でよかった」
背に大刀を背負うイリーガルは、ほっとした表情を浮かべながらそう言った。
「いやはやすまぬな。ワシともあろうものが、不意を突かれて捕縛されてしもうたわ」
地下牢から出た時の八つ当たりでだいぶ冷静さを取り戻したのか、ディアトロスは笑みを浮かべてそう言った。
「おかげで私の配下は殺されてしまったようだ。なんとも傍迷惑な御仁よ」
溜息を吐くブラストに『ディアトロス』は頭を下げた。
「いやそれは申し訳ない事をしたと思っておるよ。お主の配下はルードだったか?
そう言ってブラストの肩に手を置くディアトロスだった。
ルードは『魔王』階級を越えている魔族の為に当然『
当分は元の身体に戻る事は出来ないが、消滅させられて死んでいるわけではない為に再び別の身体で姿を見せる事が出来るだろう。
「まぁそれはいいとして、これからどうする? ソフィ様はどうやら本当にこの世界に居ないようだが」
イリーガルがそう言うと、ブラストは再び怒りを滲ませ始める。
「まぁ落ち着けブラストよ。ソフィの奴はどうやら『大賢者』という若造の組織の陰謀に巻き込まれて別の世界へ転移させられたらしいのじゃ。ワシに化けていたモノが言うには、大賢者とやらが仕組んだ計画の全貌は、ソフィの奴を別の世界へ転移させてその間に、残った我々九大魔王をまとめて処理してこの世界を牛耳ろうと考えているようじゃ」
「他の魔王達の魔力が感じられないのは、我々以外は皆やられたか転移させられたという事ですかい?」
イリーガルがそう言うと、ディアトロスは頷く。
『多分そういう事じゃろうな。他の者達は知らぬが大賢者という者は決して侮っていい相手ではない。油断を突かれたとはいってもワシを奇怪な魔法で押さえ込んだかと思うと、一気に封印までして見せたのだからな」
――『九大魔王』とはいっても、力はそれぞれの魔王で異なる。
これからの大魔王というべきユファのような九大魔王と、この場にいる古参の『魔力』が成熟しきった大魔王とでは明らかに力の差がある。
しかしこのディアトロスという大魔王は間違いなく、九大魔王の中でも
イリーガルとブラストは『ディアトロス』の話す言葉を聞いて、この計画を立てた組織を軽視することをやめるのであった。
「全く、面倒な魔法もあったもんだ」
ブラストは仲間を別世界へ追いやった要因である魔法『
「ダイス大陸の者達の大半は、もう奴らの組織に乗っ取られている。王自身が傀儡にされているか、既に別の魔物に成り代わられているだろう。もはや存続させる理由がないように思える」
ブラストの言葉にイリーガルも頷く。ディアトロスだけが、人間の大陸を攻撃する事に反対であった。
ソフィが居ない間に勝手な事をしたくないと考えるディアトロスだが、確かにこのままであれば、中立の大陸にも組織の者達が手を出しかねない。
ソフィが居ない間に大賢者とやら達にこの世界を支配される事が、一番避けておかなければならない事なのである。
どうしたものかとディアトロスが考えていると、ブラストが急に口を開いた。
「そう言えばディアトロス殿? 貴方を助けに向かった時にこんな玉を城で見つけたんですがね、何か知っておられるか?」
そういってブラストは仕舞い込んでいた
ディアトロスはその玉を見て、何かを考え始める。
「それは『ダイス』王国が代々、自分達が指名した
ダイス王国で長年大臣を務めてきたディアトロスは、何度か見た事があるのであった。
「一体、どういうマジックアイテムなんです?」
「そこまでは分からぬな。魔力を込める事で発動するマジックアイテムのようだが、ワシらでさえ使うのを躊躇う程の禍々しさを感じておるし、不明瞭なモノは触らぬ方が良いだろうよ」
効力までは知らないディアトロスだが、貴重なアイテムだという事だけは知っているようであった。
「ディアトロス殿でも分からないとなると、誰も分からないだろうな」
イリーガルがそう言うとブラストも頷いた。
「厳重な結界で張られた部屋にあったものだ。何か重要なものだと踏んで持ってきたのだが」
ブラストが持ってきた根源の玉は三つ。
「実際に魔力込めてみないと分からぬ物だが、あの大賢者が持っていたものだ。気をつけろよブラスト? 本当に何が起こるか分からぬぞ」
「いやいや、もうこれ以上何が起きても驚かんでしょうディアトロス殿。おいブラスト、手元に三つあるんだから俺達で一個ずつ試してみないか?」
そう言って横からイリーガルが、ブラストから玉を奪って魔力を込め始めるのだった。
「こ、こら! ちょっと待て! お主ら軽率にそのマジックアイテムを使ってはならんと言っているだろう!」
ディアトロスが制止するが、すでに魔力を込められた『根源の玉』は効力を発揮し始める。イリーガルの手にある根源の玉が砕け散り、辺りを眩い光が包む。
「う、うおおお!?」
慌ててイリーガル達は目を瞑り手で視界を覆い隠す。
そして光がおさまった後、ゆっくりとイリーガル達は辺りを見回す。
「ブラストが……、消えた?」
ディアトロスとイリーガルは同時に言葉を発するのだった。
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