第202話 大魔王騒ぎ
ヴェルマー大陸で、かつて三大国に数えられたトウジン魔国。
ラルグ魔国との激しき戦争によって滅ぼされて現在はレイズ同様に廃墟となっていた。
そんなトウジンには、多くの死体がそのままにされていて、どれだけ戦争が凄惨で酷い物だったかを表しているようだった。
「成程、俺が居た大陸とは何もかもが違うな」
ミールガルド大陸には人間たちしか居らず、ケビン王国やルードリヒ王国は、長らく戦争もしていないが為に平和ボケをしていると言っても過言ではない。
この大陸のラルグ魔国との戦争では、ケビン王国の精鋭とは名ばかりで全く話にならなかった。
魔族と人間という種族の差もあるだろうが、それ以前にルールの中での戦いしか知らぬ者と、実際に命をかけてきた者達とでは比べ物になる筈もない。
そしてトウジンの王が居た拠点では、トウジン兵たちが並ぶように倒れていた。
死体から見ても分かる通り、この国を守ろうと必死に戦った者達の表情だった。
自分の刀が折れて尚、その手に敵の手や足を引き千切って掴んだまま死んでいる者もいた。
「ふん……。この国の王とやらは、余程慕われていたのだろうな」
どうやら生存者は全く居ないらしくトウジンの魔族達は、最後の一人に至るまで戦死したようである。
「む?」
生きている魔族が複数体『リディア』の視界に入った。仲間内で喋っていた魔族達が、こちらの方を見て足を止めた。どうやら向こうもまた、リディアの存在に気づいたようだった。
「なんだお前は? まだ生き残りがいたか」
魔族の一体が刀を腰に差しているリディアを見て、トウジン魔国の生き残りだと勘違いをしたようであった。
「殺す前に確認したいのだが、お前達はこの大陸の者達で間違い無いな?」
リディアが不適にもそう言うと、魔族達はへらへらと笑いながら頷いた。
「へっへ、そりゃそうだろ! 俺達は天下の『ラルグ』魔国所属の者達だ」
自慢気に魔族の一体がそう言った。
「そうか」
「たった一人で何が出来る? お前らトウジンの魔族達は思い上がりが過ぎるようだ。まぁ何でもいい、俺達に見つかった時点で終わりだ……! 死ねやぁ!」
そう言って巨体の一体目が、リディア目掛けて手をふり上げた。
――『居合』。
魔族達は『リディア』の動きを認識さえ出来ていなかった。三体とも忽然と姿を消した『リディア』を探そうとするが、次の瞬間には首がちぎれて胴体からはずれていく。
カチという刀の鞘に納める音だけが響き渡ったかと思うと、三体の魔族はあっさりと絶命した。
「これが魔族か。とんだ期待外れだな」
リディアはそう言うと、再びトウジン魔国の中を歩き始めるのであった。
……
……
……
ラルグ兵は陸地を偵察している者が多いが、空から偵察している者も居る。
リディアによって仲間が斬られた所を見ていた偵察兵は直ぐに『トウジン』魔国に生き残りが居ると判断した。
そして仲間三人があっさりとやられた事で、リディアを『最上位魔族』と認識した。自分ではどうにもならないと見るや直ぐに、自らの上官の元へ向かうのだった。
…………
ラルグ本国にある塔。その中央の会議室に『レヴトン』は居た。
会議室には先程まで、かつての
ゲバドンが持ち帰った情報を聞いた時、驚いたレヴトンは聞き返す程の衝撃を受けた。
曰く、四百を越える
曰く、ゴルガー様やネスツ様を凌ぐ程の化け物が五体程居る。曰く、その五体の化け物を従えるボスのような存在が居る。曰く、そのボスのような存在は『ラルグ』の王『シーマ』様よりも戦力値が高かった。
これだけでも何かの間違いだと思ったレヴトンだが、さらにその化け物が言うには、まだ彼らには『大魔王』とやらがシティアスにいて、その『大魔王』の命令でシティアスを守っているという。
いったい何を言っているのだと、小一時間部下を問い詰めたかった。
「レイズに一体何があったというのだ? 女王シスも『ヴェルトマー・フィクス』も、この世から去ったのではないのか?」
レヴトンは頭を抱えざるを得なかった。
そこへさらに会議室にノックの音が響いた。レヴトンは何か嫌な予感を感じたが、出ないわけにも行かない。
「入れ」
会議室へ入ってきたのは、トウジン魔国の方角へと偵察を行わせていた部下の魔族だった。
「失礼します! トウジン魔国を偵察していたところ、トウジンの生き残りと思われる魔族が、我が国の陸地偵察兵三体をあっさりと葬り去りました!」
レヴトンはその報告に再び嫌そうに眉を寄せた。
「トウジンへは、そこそこ戦力値の高い兵士を出していた筈だが?」
レヴトンがそう言うと、部下は首を横に振った。
「トウジンの生き残りと思われる者は『最上位魔族』だと思われます」
レヴトンは長い溜息を吐きながら腰深く椅子に倒した。
「最上位魔族だと? 確か戦争でシーマ様達がシチョウ以外の最上位魔族は、全滅させた筈だ」
(シチョウが帰ってきたというのか?)
「確認だがその魔族は『シチョウ・クーティア』ではないのか?」
部下に訊ねたところ、どうやら刀を使ってはいるようだが、トウジンの重鎮のシチョウではないようだった。
「レイズ魔国に大魔王の軍勢が出現して、トウジン魔国に新たな最上位魔族の出現? 何の冗談だと言うのだ全く!」
そもそも大魔王って何だよとばかりに、レヴトンは心の中で毒づく。
レヴトン達『最上位魔族』達でさえ『魔王』階級に思い当たるのは一体しかいない。
――この世界に突如現れたとされる、
自分達『魔族』がこの世界に台頭するきっかけとなった魔王で、それまでは、
力も知性も兼ね揃えており、数も多く神に近いと呼ばれる種族で『魔族』も『人間』も『精霊』や『妖精』それに『魔人』といった力のある種族でさえ、この世界の調停を行っていたとされる『龍族』には確実に勝てなかった。
例えば龍族と戦うためにその他の種族全員が力を合わせても、龍族を束ねる始祖龍が手を下すまでもなくやられていただろう。
だが、突然現れたとされる『魔王』レアは、たった数年で全魔族達を束ねてこの世界各地で戦争を起こして、更には敵であった『龍族』達を封印した挙句にこの世界を支配した。
――リラリオ原初の魔王、それが魔王レアであったとされる。
しかしそんな魔王も時代と共に消え去り、龍族や他の種族も居なくなったこの世界は、魔族と人間のみとなった。
魔族から見れば人間などいつでも支配できる為に、魔族の中で覇権を取る為に魔族同士の戦争が再び始まったのが、ここ『ヴェルマー』大陸である。
そしてようやく我々『ラルグ』魔国の魔族が『ヴェルマー』大陸を支配してこれからという時に、シーマ様たちが戻らなくなり、代わりに先程の大魔王とやらが現れたのである。
――『レヴトン』はどうしたものかと今後の事を悩み考えるのだった。
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