第167話 魔王レアの契約

 ユファはソフィを見て驚きそして涙を流す。


 見た事のないそのユファの姿に、シスはオロオロとしながらもユファに寄り添う。


「見違えたぞ? お主は本当に強くなったな……?」


「う……、ううっ……! ありがっ……とう、ございます、ソフィ様……」


 十歳程の姿に変わっているソフィだが、ユファにとってそんな事は些末な事であり、幾千年ぶりの再会にもう嗚咽おえつを我慢出来ない様子だった。


 シチョウやシスも魔族として長く生きてきた者達であり、何千年ぶりの再会というものが如何にとてつもない事かという事を理解している為に、温かく見守るのだった。


 やがてシチョウはゆっくりとシスを見て、と言う意味合いを持つ視線を送った。


 シスはコクリと頷いて、ユファに寄り添っていた手を放して部屋を出ていった。


 シチョウ達が出て行った後に、ユファは膝をついてソフィに抱き着く。


 ソフィはされるがままに受け止めて、そっとユファの頭を撫でる。


「お主がヴェルトマーとなって、シスを守っていたのだろう?」


 ユファはコクリと頷く。


「あやつは全幅の信頼をお主に寄せておった。中々出来る事ではない。お主は本当に立派になったな」


 シスがユファに信頼しているようにユファはソフィを信頼している。


 その信頼している主であるソフィに立派になったと褒めてくれたのだ。


 ――これ以上嬉しい事があるだろうか。


 ……

 ……

 ……


「それでわざわざ封印を解いてまで、俺に手伝って欲しいとはどういう事なんだ?」


 キーリは『魔王』レアに訊ねる。


 レアはそう問われて無表情に変えながら口を開いた。


「キーリちゃん、私と?」


「何……?」


 今度はキーリが真面目な表情を見せる。


「どうしてもねぇ『力』を確かめたい者がいるのだけど、駒が足りなくて困ってるのよ。私に協力してくれたら、この大陸を貴方の仲間ごと全て元通りにしてあげるわよぉ?」


 キーリはその言葉を受けて目を見開いて驚く。


 過去にこの『魔王』レアとの戦争の末に、大陸ごと自分含めた全ての龍族達は異空間に封じ込められたのだ。


 互いに種族の生き残りをかけて対立し争った種族の王同士、余程の事がない限りはこの魔王が戻すなどと言う筈がない。


 だが、明確にこの魔王は戻すと言ったのだ。


 なのだろう。


 彼女達『魔族』という種族の最大の敵であった『龍族』、その始祖を相手にの事なのだから。


「悪いがそう簡単には信用はできないな。何故なら貴様は『だからだ」


 だからこそキーリは駆け引きに出る。


「じゃあどうしたら信用してくれるのかしらぁ?」


 レアは溜息を吐きながら片目を閉じて、キーリに先の言葉を促す。


「先に俺の仲間たちの解放をしろ。大陸はその後でいい」


「……」


 レアは思案顔を浮かべる。


 やがて結論が出たのか、視線をキーリに合わせる。


「分かった。それで構わないわよ……。でもね?」


 先程と同じようにレアの目が金色になる。


 しかしそれはさっきまでの『金色の目ゴールド・アイ』ではなかった。


「もし契約に背いたら、


「!?」


 今までのレアの魔瞳『金色の目ゴールド・アイ』とは比べ物にならない。


 神に近い種族として君臨する龍族、その始祖であるキーリが全く動けない。


「わ、分かってるよ」


 キーリは何とかそれだけを口にできた。


 しかし先程のレアの殺意を受けたキーリは、威厳がまるでなくなり見た目通りの幼女に見えた。


 そしてその言葉でレアは、こちらも普段通りのケタケタと笑う幼女に戻るのだった。


(この俺が封印されている間、こいつの身に何があった? あの頃のこいつは……、こ、ここまでどうしようもない程の強さではなかった筈だ……!)


 魔族の王『レア』と龍族の王『キーリ』が争ったかつての戦争では、互いにオーラの技法や『魔力』を費やした状態で五分。


 いや、むしろ龍化した時のキーリの方が力自体は上であった。


 智謀や作戦を上手く活かした事でレアに分があったといえる程の差があった筈なのである。


 ――しかし、こうして再び相まみえた事で今のレアの力量を知り、龍族の王である始祖龍キーリは、と認めるに至った。


 キーリは内心でに違和感を覚えるのだった。

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