第162話 対決、ラルグ魔国の現フィクスと元フィクス

 唐突にソフィ達によって違う場所へと転移させられたゴルガーは、大きな鎌を構えるレルバノンと対峙することになった。


「久しぶりですね、ゴルガー」


「レルバノン……ッ!」


 ゴルガーはレルバノンの顔を見ると、急激に不機嫌そうな顔に変わっていく。


「おやおや、怒りたいのは私の筈なんですがね。私はそこまで恨まれるような事をしましたかね?」


 そう言いながらも大きな鎌を器用に手首を返しながら、威圧するかのようにまわし続ける。


 どうやらレルバノンも表情や言葉端には出さないが、相当に苛立っているようである。


「ふざけるなよ……っ! 人を足手纏いだと無能呼ばわりしよった癖に……っ!!」


「……?」


 レルバノンは遠い昔の事など覚えていないかのように、解せないといった顔を浮かべていた。


「ば、馬鹿にしおってぇっ!」


 ゴルガーはそういいながら『紅い目スカーレット・アイ』になり、その『紅い目スカーレット・アイ』の魔瞳の効果で自身を強化していく。


「まぁ、何にせよ今更ですね。私としてはこの国へと貴方がたに追いやられた事で、掛け替えのない新たな発見とを手に入れられました。それは私が『ラルグ』魔国に居た時であれば、決して手に入れられなかったものです。今となっては、貴方を許せるくらいには感謝していたのですが、その大事な出会いの場であったこの大陸を攻めるというのは、少しやりすぎましたね」


 最上位魔族の最上位に達している『ゴルガー』を一睨みながら、レルバノンは戦闘態勢に入りながら言葉を吐きだしていく。


「全ての決済をこの場で行うとしましょう」


 そう告げたレルバノンもまた『紅い目スカーレット・アイ』に変わる。


 『』が、戦闘形態に入ったのだった。


 ゴルガーはその長けた頭脳だけで『フィクス』になれたわけではない。


 彼もまた多くの魔族の上に立つ『最上位魔族』なのである。


 魔族として相当の強さを持っており『フィクス』となれるだけの器ではあった。


 しかし同じフィクスであってもレルバノンと比較するというのは少々酷というものである。


 同じフィクスであっても『ゴルガー』と『レルバノン』ではその差は歴然――。


 他者からレルバノンは『智謀』に長けた『フィクス』と呼ばれていた。


 ――だが本当の彼は違う。


 『ヴェルトマー』という更に次元が違う『魔族』の所為で、秀でた武の領域を諦めさせられた彼ではあったが、彼の本来の本性は暴威ぼういである。


 ――『』。


 ひとたび戦闘になれば、酷く暴力的な性格に変わる。


 敵と認めた者を殺し尽くすまで残虐性が消える事はない。


 ゴルガーはそのレルバノンの本性を知るである。


(あの姿になったレルバノンに敵う筈はない。しかしここまでくれば、もうやるしかない……!)


 ――そして遂にラルグの新旧、が始まったのであった。


「さぁ……臓物ぞうぶつを晒してやる」


 大きな鎌をその手にレルバノンは残虐な笑みを浮かべながら、真っすぐにゴルガーに向かっていく。


 戦力値3500万を越えるレルバノンの速度に『ゴルガー』が合わせられる筈がない。


 『ゴルガー』は身体を上手くいなしながら、レルバノンの射程から外れる為に斜めに斜めにと移動を開始する。


 この辺はゴルガーも流石であった。


 長年レルバノンを見てきたゴルガーの戦い方は、まさにレルバノン対策といって問題ないであろう。


 だが、対策の一つで止められる程、最上位魔族の最上位は甘くはない。


 レルバノンは大鎌を横に凪ぎながら衝撃波を放つ。


 ゴルガーは何とか衝撃波を躱す為に上空へとその身を飛ばす。


 そして攻撃をしようと『ゴルガー』が構えを取ろうとするが、衝撃波を飛ばしていた『レルバノン』の姿を一瞬見失う。


 その瞬間を『レルバノン』が見逃す筈もなく、いつの間にか上空へと逃げたゴルガーの更に上、まさに盲点と呼ぶ程の場所から笑みを浮かべたレルバノンが、袈裟切りをするように鎌を振り下ろしてくるのだった。


「く、くそ!」


 ゴルガーは恐ろしい程の威圧を放つレルバノンの攻撃をなんとか躱す事に成功はしたが、強引な避けの態勢をとったために、彼の態勢が崩れてしまうのだった。


 彼は地上へ降り立ちながら蹈鞴を踏んで何とか身体を支えるが、レルバノンは上空から衝撃波を放ち続ける。


 流石に全てを回避が出来る筈もなく、ゴルガーはレルバノンが放つその一矢というべき一発を肩口に掠ってしまう。


「し、しまった……!」


 ゴルガーは戦闘が始まってから、全く攻撃に転じる事が出来ない。


 速度で押されている以上、敵の隙をついての反撃を考えていたが、気が付けばどんどんと不利になっていく。


 そして肩口を裂かれてしまい、ゴルガーの速度は落ちてしまい更に不利になってしまう。


 ゴルガーの得物は『長柄』と呼ばれる棒状の武器であるが、右手がやられた事でかなりの不利をもたらされてしまった。


 そしてここにきてようやくレルバノンは接近戦へとシフトしてくる。


「その肩では本来の動きはできないだろう?」


 変わらず笑みを浮かべるレルバノンは、戦闘前とは全く違う風貌であった。


 長い髪を風に靡かせ目は細められて、残虐な笑みの所為で口角が吊り上がっていた。


 ――そして印象が変わる程の口調。


 かつて『ゴルガー』はこの戦闘スタイルのレルバノンに惚れて、苦労して彼の部下となったのだ。


(ああ……! これこそが……、!!)


 上がらない筈の肩を強引に振り上げて、長柄でレルバノンの鎌を防ぐ。


「ぐっ……!」


 ゴルガーは肩口から血飛沫が上がるが、気にせずに『レルバノン』の鎌を防ぎ続ける。


「やるじゃないか……、ゴルガー」


 鎌の柄の部分に持ち替えて、そのまま一瞬の隙をついて鳩尾に突き入れる。


「!」


 ゴルガーは僅かな間ではあったがその一撃で呼吸が出来なくなってしまう。


 そしてその僅かな隙を見逃すレルバノンではなく――。


「終わりだ。ゴルガー!」


 ゴルガーの体を首の真横から足の付け根まで、斜めに引き千切るように斬り伏せた。


「れ、レルバノンッ!」


 ゴルガーの身体から血が洪水のように噴出する。


「見事だったぞ、ゴルガーよ。そのままゆっくり眠れ」


(ああ……、レルバノン……様)


 介錯をしてやるかの如く『レルバノン』は返しの一撃で『ゴルガー』の首を刎ね飛ばした。


 その一撃で『ゴルガー・フィクス』は思考ごと、完全に遮断されて絶命したのだった。


「すまなかったな、ゴルガー……」


 レルバノンはかつて『レイズ』魔国を単独で攻めた『ゴルガー』を怒りはしたが、本当の気持ちでは二度と危ない目にあわせないようにと、彼を心配をするつもりで叱咤をしたのであった。


 だがその言葉だけでは『レルバノン』の気持ちを伝達しきれなかった為に、ゴルガーを狂わせてしまった。


 ――もちろんその時の事を口では覚えてはいないと言っていたが、本当のところは鮮明に覚えていたレルバノンだった。


 しかし残念ながら時は元には戻らない――。


 せめてもの彼の矜持プライドの為に忘れた振りをして、この数百年のゴルガーの気持ちをないがしろにさせないように振舞ったのである。


 ――そして絶命をしたゴルガーに向けて、ようやく謝罪の言葉を浮かべたのだった。


 眉を寄せたレルバノンは様々な感情が体中に流れていくのを感じていたが、やがて顔をあげると言葉を紡ぐ。


「……戻りましょうか」


 そう言ってレルバノンはミールガルド大陸の地で、雲一つない綺麗な青い空を見上げるのだった。

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