第161話 胎動

 ミールガルドのとある山の頂に、魔王『レア』は小屋を建てて山の暮らしを満喫している。


 そしていつものように、山菜を採りに出かけていたがそこで足を止めた。


「どうやらが、ソフィちゃんにやられたわねぇ?」


 魔王レアに紛い物の魔王と呼ばれていた『シーマ』だが、限りなく『魔王』に近い戦力値を持っていた。


 魔王レアは大きな野望を抱えているがその野望を叶える為には、ソフィの本当の力を測る必要性があった。


 今回レアは完全に傍観者に徹していたが、その甲斐あってある程度のソフィの力を分析が出来た様子であった。


 しかしそれでも最低限と呼べる程度であり、本当に欲している情報はまだまだ足りない。


「『名付けネームド』させた魔物を即座に『魔王』階級クラスに昇華させたり、ソフィちゃん自身の魔力のコントロールの仕方も完璧だけどぉ、伝説通りの戦力を持っているかどうかはまだ分からないわねぇ。もう少し強い存在と戦ってもらわないといけないわぁ」


 ヴェルマー大陸の魔族に関しては全く関与をしていなかったレアだが、ここから先は目的の為に一歩踏み出す事に決めたのだった。


「フルーフ様を壊したのがもし、ソフィちゃんだったその時は……。報いを受けてもらわないとねぇ?」


 『魔王』レアの目は金色に光輝いていた。


 ……

 ……

 ……


「な、なんて事だ……っ! シーマ様!」


 ネスツは驚愕の目を浮かべながらソフィを見る。


 今頃になってネスツもまた、この大陸ミールガルドに手を出す事がどういう事かを身をもって知らされた。


「あーあ、あんな化け物がいるなんてな。世界は分からねぇもんだ」


 そう言って呆然自失状態の『ネスツ』に話しかける者が居た。


 ――『トウジン』魔国の最後の火として、ディアス魔国王に託された『シチョウ』である。


「だがそんな事は、今はどうでもいいんだよな」


 シチョウはネスツの首元に鋭利な刃を突き付ける。


「どういうつもりだ、貴様?」


 ネスツは殺意を込めながらこちらを見ている『シチョウ』に問いかける。


「あんたらは『トウジン』を滅ぼしたんだろう? だったら俺達『トウジン』の魔族達の習性は理解している筈だよな?」


 トウジンの魔族は同胞を殺められた場合に『返し』と呼ばれる律し方をする。


 つまり相手の死をもって償わせる一族である。


 ――


 『シーマ』というラルグ魔国の王がすでにソフィによって存在を消された今となっては、その部下である『ネスツ』がその報復対象となっている。


 シチョウにとっては『ラルグ』魔国全体が復讐の対象であるからだ。


「シーマ様がやられた事で、我々に勝利はなくなったかもしれないが……。むざむざと貴様如きにやられるわけには行かぬ!」


 そう言ってネスツは魔瞳の『紅い目スカーレット・アイ』を発動させてシチョウを睨む。


「ちぃっ!」


 シチョウはネスツの首を狩り取ろうと刀をそのまま差し入れるが、首を捻って躱されてしまう。


 そしてそのまま肘でシチョウの脇腹を打つ。


「ぐっ……!」


 一秒にも満たぬ間だったが、呼吸が乱れた事でネスツは、シチョウの間合いから抜け出す事に成功する。


「確かにお前達『トウジン』魔国出身の魔族達は非常に厄介な者達だったが、それはだからという事を忘れるなよ? 貴様一匹が生き残ったところで、所詮は何もできはしないのだ!」


 そう言ってネスツが笑みを浮かべようとしたが、視界から突然シチョウの姿が見えなくなった。


 流石に目の前で忽然と姿を消された事で、余裕を見せていた『ネスツ』は慌てて周りを見渡す。


 そして突然、という音と共に『ネスツ』の胸から刀が生えた。


「だが、事は出来たみたいだな?」


「なっ……!? ば、馬鹿な!」


 ネスツは絶命する寸前に後ろを振り返ろうとしたが、シチョウの顔を見る事は叶わずそのまま倒れ伏した。


 今の二人のやりとりをソフィは、遠く離れた所から見ていた。


(あの技はどこかで見た事がある。確かあれは『リーネ』が自らの姿を消す技に似ているのではないか?)


 『影忍』と呼ばれるリーネやスイレン達『忍者』が使うという『忍術』とやらに今のシチョウの技は酷似していたのだった。


(しかし完全に一緒かと言われてみれば、一概にそうとも言えぬ。まぁ一度確かめて見るのもいいかもしれぬな)


 そう考えたソフィはそのままゆっくりと、空から地上へと向かうのであった。


 ――こうして僅かな時の中で『ヴェルマー』大陸を完全に掌握した『ラルグ』魔国の魔族達は『ゴルガー』を残して全滅したのだった。

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