第132話 失墜

 ラルグ魔国の第三軍との交戦後、『ケビン』王国は凄惨な状況であった。


  最強の軍隊として知られていたケビン王国は崩れ去り、数十万という規模を従える精鋭達の大半が怪我で動けなくなっていた。


 この世界には『魔法』で直ぐ様情報が開示される時代であり、あれだけの騒ぎを起こした以上『ミールガルド』大陸中の者達は、『ラルグ』魔国軍と『ケビン』王国軍の実力差を思い知らされた。


 最早今回の一件で『ケビン王国』の権威は地に落ちたと言っても過言ではないだろう。


  そして代わりに『破壊神』や『最強の剣士』達のおかげで冒険者ギルドの評価が爆発的に上昇した。


 とくにニビシアの魔法使いの街では『ケビン』王国が襲われていた状況を『魔法』で映し出していた為に『破壊神』の使っていた魔法や、その魔力値の高さに恐れ慄いていた。


 更にはギルド対抗戦で大将を務めていた『ニビシア』のギルドの冒険者『ソリュウ』は身をもってその恐ろしさを知っており、粉々に破壊された天才魔導士と言われていた『ルビア』を思い出させられていた。


 今回の事で『破壊神』の噂は、冒険者の間だけではなく今やこの大陸の救世主として冒険者から商人、そして一般の民に至るまで広まっていった。


 ……

 ……

 ……


「どいつもこいつもソフィ、ソフィと……!! 馬鹿にしやがって!!」


 ケビン王国の『ルオー家』、ステイラ公爵はかつてない程に激怒していた。


 ルオー家は、王国の軍事力の40%を占める程の武力を誇る家系である。


  そんなルオー家であるが、今や名声も地に落ち何もかもが上手くいかなくなってしまった。


 今までステイラ公爵に媚びを売っていた貴族達も態度を変えて、冷笑的な目で見るようになり、子飼いのように扱っていた商人最大ギルド『ウェルザード』も、


 しかし『ステイラ』公爵が一番頭にきているのは、


  元々は戦争を仕掛けてきたラルグ魔国軍のせいなのだが、世間のソフィの評価がステイラ公爵の耳に入ると激昂し、王室での舐めた態度をとられた時のことを思い出して『ステイラ』公爵はソフィを逆恨みするようになっていた。


「今までこの国を守るために必死に兵を出してきたのは、誰だと思っているのだ! 少しばかり力があるからといって、あんな年端もいかぬガキがこのルオー家の俺に舐めた口を利きやがって!!」


 ステイラは浴びるように酒を呷ったかと思うと、空になったグラスを壁に叩きつける。


  壁の近くにいたメイドが慌ててグラスを避けるのだった。


 苛立ちを隠し切れないステイラは、そのメイドの姿が目に付いたかと思うと直ぐに割れたグラスの代わりを用意しろと声を荒げて命令したかと思えば、きつい酒に直接口をつけて一気に飲み干しながら罵詈雑言を吐き捨てて、聞く者が耳を塞ぎたくなる程に怒鳴り散らすのであった。


 ……

 ……

 ……


 ケビン王国から戻ったソフィ達は、レルバノン達の屋敷に戻った。


 レルバノンの屋敷の前に多くの魔族達が倒れており、ソフィ達はシスの仇討が成就された事を悟った。


「ソフィ。お前の周りは本当に規格外の連中ばかりだ」


 ソフィについてきたリディアが、ぽつりと漏らした。


「クックック、それはお主も含まれておるようだがな?」


 ソフィがそう言うと、少し嬉しそうにしながらも照れを隠すように舌打ちをしてみせるのだった。


「さて、それではひとまず『レルバノン』達と合流をしようか」


 ソフィがそう言って屋敷に入ろうとすると『レルバノン』の配下の門番が恭しく頭を下げてきた。


「お帰りなさいソフィさん! どうぞこちらへ」


「うむ」


 門番を務めている『レルバノン』の配下の『レヴ』という魔族が、主の元へと案内をしてくれるようであった。

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