第124話 歴然の差

 王国軍を全く無視するようにシュライダー達は『漏出サーチ』によって大きな戦力値が集まっているレルバノンの屋敷に向かおうとするが、思い留まって笑みを浮かべながら口を開いた。


「ふむ。本当はあんな連中はどうでもよいのですが。せっかくこの場に沢山集まって頂いているようですしね」


 シュライダーはそう言うと、後ろにいる魔族達に向けて指示を出す。


「そうですね。お前たち半分は私についてきなさい。残った者達は奴らを皆殺しにして差し上げなさい」


 シュライダーが笑いながらそう命令を下すと、魔族達は素直に言葉に頷いて直ぐに行動を開始する。


「さて、それでは行きますよ!」


 半分程の戦力をこの場に残してシュライダーは『レルバノン』の屋敷に向かうのであった。


 ……

 ……

 ……


「く、来るぞ!」


「近寄らせるな! 魔法部隊!」


 ケビン王国軍の『デイラー』元帥の命令で再度『魔法部隊』達は迫りくる魔族達に攻撃する。


 だが『ラルグ』第三軍の平均戦力値は100万を越える。


 ミールガルド大陸では最強と言われる王国軍は冒険者ギルドの勲章ランクC以上に匹敵するが、それでも王国軍の一般兵の戦力値は10万にも届かない。


 数では『ラルグ』魔国軍を数倍程も上回っているのだが、この戦場では数など全く意味を為さなかった。


 ラルグ魔国軍の魔族達は王国軍の魔法部隊による集中砲火を受けているが、全く意に介さずに真っすぐに突っ込んでいく。


 彼らは膨大な戦力値を持った『魔族』しかいない『ヴェルマー』大陸で『レイズ』魔国や『トウジン』魔国といった大国を相手に戦争を繰り広げた豊富な経験を持ち、更には『ヴェルマー』大陸統一を果たしたという自負がある『ラルグ』魔国軍である。


 第三軍といっても毎日が戦争といった大陸で、統一を果たした国の一線級の戦士達と、人間の国であまり他国と戦争をせずに、の軍隊と呼ばれ続けた事でその自信から天狗となり日々の訓練も怠っている王国軍。


 ――決して、その差が覆る筈もない。


 魔法を放っている王国魔法部隊と、その魔法部隊の前に盾となって守ろうとする兵士達の元に遂にラルグ魔国軍が到達するのだった。


 魔族達が鋭利な爪を持った右腕を振り回すだけで、王国軍の兵士達の首が刎ね飛ばされていく。


 そして『ミールガルド』大陸において、が出るのだった。


「ヒッ、ヒィィィィ!」


 目の前で仲間の首が吹き飛んでいき、仲間の血を顔中に浴びた王国軍が冷静さを失って、無我夢中で魔族に向けて持っている剣を振り回す。


「お、落ち着け! 所詮は魔物の軍勢だ! 冷静に対処をすれ……ばっ」


 混乱して暴れている仲間の兵士に声を掛けようとしたが、その冷静な男も魔族達の手によって首を刎ね飛ばされてしまう。


 その光景を目の当たりにした周囲の兵士達は、目の前で首が無くなった胴体だけの男がまるで糸で操られているかの如く、フラフラと血をまき散らしながら蠢いているのを見て恐怖に駆られた兵士が絶叫をあげる。


「う、うわあああ!!」


 そしてその男の脅えが周りにも伝播していき、前線は次々とパニックに陥っていく。


 数千人と言った規模ではなく、数十万人が一気にパニック状況に陥ればどうなるか――。


 ――それはまさに地獄の状況を現しているかのようであった。


 隊列が崩れて右へ左へ逃げ惑う兵士達。


 それは戦おうとしている者の妨害に繋がり、足を引っ張り苛立ちを呼び起こして、更にはそれが連鎖の如く繋がっていく。


 そんな混乱を利用して『魔族』達が次々と、王国軍の命を刈り取ってしまう。


 ――困惑、混乱、恐怖、絶望、苛立ちとあらゆる感情が王国軍に連鎖していき、もはや天下を取った気でいた最強の王国軍の姿はどこにもなく、姿が映し出されていた。


 そしてそんな人間達に慈悲を与えるわけもなく『ラルグ』魔国軍の魔族達は、次々と彼らを屠っていった。


 そんな者達の断末魔は、戦争を目の当たりにしている国民達をに染め上げていくのであった。

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