第112話 覚醒した新魔王シスVS大魔王ソフィ

 ソフィは『力の魔神』に預けている本来の力を受け取り『真なる魔王化』となる。


 圧倒的な戦力値を持つ姿を現したソフィにも拘らず『魔王』シスは不敵な笑みを浮かべる。


 ――憎い、私が憎い、ラルグが憎い、シュライダーが憎い、


 そして魔瞳まどう金色の目ゴールド・アイ』でソフィに恨みをぶつける。


「よかろう、憎ければ我を殺して見せよ」


 バチバチと音を立てて、互いの『金色の目ゴールド・アイ』が共鳴反応を見せる。


 ――超越魔法『終焉の炎エンドオブフレイム』。


 先程のシスの放った炎とは桁違いの魔力が込められた『超越魔法』が、ソフィに向けられて放たれる。


「クックック! これ程の『魔力』は久しい……」


 ――超越魔法、『終焉の雷エンドライトニング』。


 ソフィを焼き尽くそうとする業火をソフィの出す雷が、術者を守るように光を放ちながら業火に抗う。


 こちらも完全相殺であった――。


 そして驚く事にシスは今見たソフィの『終焉の雷エンドライトニング』を目に焼き付ける様に見た後、無詠唱で見よう見真似みまねで放ち始めた。


 ――超越魔法、『終焉の雷エンドライトニング』。


「まさか……?」


 ソフィは流石にそれは無理だろうという意味を孕んだ言葉を呟くが、次の瞬間には上空から先程のソフィの雷と同種の光を放ちながら、ソフィに向かって雷が降り注いだ。


 ソフィがシスの魔法を一睨みすると、音もなく掻き消された。


「驚いたぞ? 威力までが先程の我ととはな」


 先程のソフィの超越魔法は、魔王以上の領域でなければ放てない程の魔力を要する。


 しかしそれだけではなくソフィは、この世界とは違う世界『アレルバレル』の『ことわり』を用いて『終焉の雷エンドライトニング』を放った為に、別世界である『リラリオ』の世界の『ことわり』しか知らぬ筈のシスが、ソフィの世界の『ことわり』を用いて使ったという事の方がソフィの驚きは大きかった。


 だが、今のシスはソフィの世界の『ことわり』を理解して使ったわけではなく、あくまでソフィの魔法発動の羅列をそのまま読み解いてトレースするかの如く、発動羅列はつどうられつを真似て発動したのであった。


 しかしどちらにせよ、ソフィの魔法は甘くはないのだが、シスは目の前で実際にやってみせたのであった。


漏出サーチ」。


 大魔王ソフィの魔力から放たれる『漏出サーチ』は、普段の彼のものとは比べ物にならない。


 隠蔽や操作不可等々の技術を全て無に変えていく。


 そして大魔王ソフィの『漏出サーチ』は、魔王シスの魔力、戦力値をすべて表示する。


 【種族:覚醒した魔王 名前:シス 年齢:3221歳

 魔力値:1062万4862 戦力値:4722万 所属:レイズ魔国】。


「クックック、立派に『魔王』の領域に立っておるではないか」


 ――ヴェルトマーという『魔族』は、やはり天才だった。


 いち早くシスの潜在能力に気づき、自分の全ての知識をシスに託そうとしたのだから。


 天才は天才を引き寄せるとはまさにこの事だろう。


 才覚溢れるヴェルトマーは、自分を越える逸材をシスに見出したのだった。


 そしてソフィはそんな逸材のシスに『同類』としての価値を見出した。


「クックック、いかにお主が強くなろうとも、我がお主を退屈させはせぬ」


 『魔王』へと覚醒したシスの戦力を把握した上で、尚の事ソフィは笑みを浮かべる。


 そしてソフィはこの新たに産声をあげた魔王を大事に育てる親の如く、優しく丁寧に、そして成長させようという慈しみをもって対応していく。


 ――『お主はまだまだこんなものじゃないだろう? 憎しみでも何でもよい、それを利用してもっと強くなれ。どう暴走しても構わぬ、我がついておる』。


 ソフィの考えている事をするならば、こんなところだろうか。


 ヴェルトマーのシスを想う心が運んだ根源の転移魔法『ルート・ポイント』は、正しく効果を発揮して、ソフィの元へと届けられた。


 『ヴェルトマー・フィクス』から『ソフィ』という最高の師から、最強の師へとバトンは託されたのだ。


 『魔王』シスにとって、これを幸福と呼ばずに何と呼ぶだろうか? 今のシスは理解出来てはいないだろうが、


 ギリギリまで戦力値を落として、ソフィは『魔王』シスの相手をする。


 基本的に『魔王』となったばかりの魔族は、自身の力が上がっている事を完全には理解出来ていない為に、普段通りに力を行使して体がついていかず魔力を使い切って動けなくなるという、まさに『魔王酔い』という状態に陥る事が多い。


 ソフィはその辺も考慮して制御させる方法を彼女に身に着けさせるために、接近戦から、遠距離戦へと多くを学ばせるために攻撃手段をシフトしていく。


 それでも傍から見ているシチョウにとっては、この二人の模擬演習は魔族同士の殺し合いを遥かに凌駕しており、割って入れば即座に死ぬだろうと理解していた。


 そして怒りや憎しみを用いての魔王への覚醒を果たしたシスだったが、徐々に力をコントロール出来始めてきていた。


 真なる魔王化を果たしているソフィの動きを先読みして、自らを囮に使って遅延魔法を放ち、相手を誘導するという高等テクニックをソフィに見せる。


 勿論、数千年間戦いの場に身を置いてきた大魔王ソフィにとっては、使い古されたこの行動を即座に看破して、被弾するようなことはあり得ないが、それでも『魔王』になったばかりのシスが、考えて行動する事に感心する。


(うむ、戦闘センスも申し分はないな)


 シスと戦い始めてどれ程の時間が経っただろうか。


 やがてシスは体力が底をつき、力尽きようとしていた。


(ここまでだな……)


 ソフィがそう判断して戦闘形態を戻そうとした


 ……

 ……

 ……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る