第111話 覚醒した新たな魔王

 レルバノンの屋敷から遠く離れた山のいただきで『魔王』レアは新たな『魔王』の誕生の気配を感じた。


「へえ? から、真なる『魔王』が生まれるなんて驚いたわねぇ?」


 レアは感心したとばかりに、頷いて笑みを浮かべた。


「すごいわねぇ? 大化けしちゃったわぁ。これ程の潜在魔力はレイズ魔国王エリスちゃんより上かもねぇ?」


 魔王レアはあっさりと生まれた新魔王が、ただの『魔王』の領域を越えたのを看破して、愉快だと笑って見せたのだった。


(まぁ、潜在能力がいくらあろうと『感情』に身を委ねるだけでは、全く意味はないけどねぇ?)


 ――『魔王』の領域に立つという事が、決して『魔族』のゴールなのではない。


 持って生まれた素質が大したものだとしても、それはあくまで先天性に過ぎない。


 その素質や資質を活かして持って生まれた『力』を存分に発揮して、いつでも行使できるようになって、ようやく本当の『魔王』と呼べるモノなのである。


 ――しかし今回の出来事によって『』レアが、シスという『』に注目を始めるキッカケとなった事は事実であった。


 ……

 ……

 ……


 レルバノンは目を疑った。


 先程までのレイズ魔国の女王シスとはまるで別人である。


 シスの周りには淡い青色のオーラが纏われていて『最上位魔族』である彼でさえも、シスを見ると震えが止まらない。


 ――この震えは直近でも覚えがあった。


 スフィアと戦っていた時の意識を失ったソフィが『』を果たして『力の魔神』を使役したときに感じた震えであった。


 そして同じく『最上位魔族』のシチョウは、その卓越した魔力を感知する目でシス女王を見る。


 もはや『漏出サーチ』など何の役に立たない。


 それ程までに『魔王』に達した存在は大きく彼の魔力程度で推し量れる存在ではないのだ。


 シチョウは自分の直感のみを信じる他なかった。


(ば、化け物が二人になっちまった……)


 シチョウは今のシスを見てそう感想を漏らしたのだった。


 ――憎い! 憎い!


 シス女王……、いや『魔王』となったシスは怨嗟の念を込めながら、再び『金色の目ゴールド・アイ』になる。


「死にたくなければ、この場から離れよ! 余波で死ぬぞ!」


 ソフィは慌ててレルバノン達に声を掛けた。


 次の瞬間、魔王シスの目が眩く光って、何か魔瞳まどうで行おうとしたモノを瞬時にソフィが相殺する。


 バチバチバチと音を立てながら、効力は薄れていった。


 しかしようやくそこで事の重大さを理解したのか、レルバノンが即座に上空にオーラを放った。


 屋敷の天井を突き破って、彼の屋敷の『結界』を自身で一瞬で弾き飛ばして大穴を開ける。


「空を飛べるものは、すぐに屋敷から飛んで逃げて下さい! エルザ、あなたはリーネさんたちを!」


 主の言葉にすぐに頷いたエルザは、リーネ達に即座に自分に掴まるように指示する。


 リーネ、スイレン、ラルフは、慌ててエルザの手や肩にしがみつくように掴まる。


「よし! 全力で飛ぶから、しっかり掴まってろよ!」


 エルザの声に三人が頷いたのを確認して、エルザは猛スピードで天井の穴から脱出する。


 ビレッジは右往左往していたが、レルバノンがビレッジを抱え上げる様に掴んで飛んでいった。


 この場に残されたのは『魔王』シスとソフィ、そしてシチョウだった。


「お主はいかぬのか?」


 ソフィがシチョウに確認すると、彼は直ぐに頷いた。


「ああ、俺の事は気にしなくていいぞ。あのが、のは俺の言葉の所為だしな」


 ソフィは溜息を吐いたが、反論はしなかった。


「まあここにいてもよいが、死んでも文句は言わぬ事だ」


「……ククッ、死んだら文句は言えねぇよな?」


 ソフィはそのシチョウの言葉に鼻を鳴らした後、静かに視線をシチョウから切って眼前の『魔王』を見たかと思うと、ソフィは独自の詠唱を開始する。


「『無限の空間、無限の時間、無限の理に住みし魔神よ。悠久の時を経て、契約者たる大魔王の声に応じよ、我が名はソフィ』」。


 そしてレルバノンの屋敷にて、ソフィにとってこの世界で初めての『』を行い始めるのであった。

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