第96話 死なば諸共

 シティアスにあるレイズ城はもう原型を留めておらず、レイズ魔国の魔法軍副長官『ピナ』と、魔法軍長官『ラネア』、そしてその直属の魔部隊が何とか奮闘して最後の砦を守り続ける。


 しかし最早陥落も時間の問題で、ラルグ第一軍、第二軍、第三軍。


 そして南から侵入してきた『トウジン』魔国の斥候部隊が入り込み、次々とレイズの同胞達は殺されていった。


「ラネア様! あれを見て下さい!」


「!?」


 ガネーサの街がある方角から『シス』女王が東の空へ向かって、恐ろしい速度で移動していくのが見えた。


「あれは……シス様! ああ……! 成功したのですね!」


 ラネアは自分達の国の女王が『魔法』によって空を飛ばされていくのを見て、その意味を理解しながらも笑みを浮かべるのだった。


 シスとヴェルトマー両者が上手く『ガネーサ』の街へと無事に逃げ切る事が出来たのであれば、そのまま二人で避難をする算段で、もし今のように『シス』女王が単身で『ヴェルトマー』の転移魔法で飛ばされた場合は、『シス』女王だけを安全な場所へ飛ばすという意味があった。


 これはレイズ魔国の『フィクス』であったヴェルトマーの発案で、知らされていたのは国の重鎮である『ピナ』や『ラネア』達だけで『シス』女王自身にも伝えられていない事であった。


 ――『シス』女王の命を最優先に考えての決死の大作戦だったのである。


 つまりこの場に居る『ピナ』と『ラネア』は、自分達の国の愛する『女王』が空を飛ばされていく姿を見て、


(ヴェルトマー様……!)


「……ピナ! 私達の最後の仕事よ! 一体でも多く道づれにするわよ!」


 彼女もまた顔を挙げて『空』を見上げながら両手を組んで祈っていたが、その背後からの『ラネア』の言葉に表情を引き締め直して力強く頷いた。


「はい! ラネア様! 『レイズ』魔国、魔法軍副長官『ピナ・クーティア』はこれより命を賭して玉砕致します」


 その言葉が引き金となって残された『レイズ』魔国全軍の心は今ここに一つとなる。


 『ラネア』『ピナ』、そしてこの国に所属する魔国兵達は、一斉に自らを含んだ広範囲の領域に特大の『』魔法を放つ準備を始めるように『魔力』を高め始める。


「レイズ魔国に栄光あれ! シス様に栄光あれ! レイズ魔国万歳! ヴェルトマー様万歳!」


「「「レイズ魔国に栄光あれ! シス様に栄光あれ! レイズ魔国万歳! ヴェルトマー様万歳!」」」


 ――もはやこの戦場に居る彼女達全員が、その一兵卒に至るまで生き残ろうとは考えてはいない。


 そして数百を越える魔法陣が次々と『シティアス』全域に余す事無く浮かび上がる。


 後先を考えずにを詰め込んだ自爆の玉砕攻撃である。


 ――超越魔法、『万物の爆発ビッグバン』。


 ――超越魔法、『万物の爆発ビッグバン』。


 ――超越魔法、『万物の爆発ビッグバン』。


 ――超越魔法、『万物の爆発ビッグバン』。



 次の瞬間、多くの『ラルグ』魔国兵を巻き込んだ『レイズ』魔国のから万物の爆発ビッグバンが放たれた。


 恐ろしい程の爆音が響き渡り『ラルグ』魔国の二軍以下の『魔族』達は一体も残らず全てが消し飛んでいった。


「……くっそ、まじかよ!」


 トウジン斥候部隊長の『マーティ・トールス』の目の前で、いきなり『レイズ』魔国兵に恐ろしい程の『魔力』の高まりが感じられたかと思えば、次の瞬間にはその『レイズ』魔国兵はマーティが目を奪われる程のを浮かべながら自爆を果たした。


「お、おいおい……!!」


 マーティは必死に目の前で自爆を行った『レイズ』魔国兵の飛び散った肉片を眺めていたが、そこに更に『シティアス』のあちらこちらから、次々と魔法陣が浮かび上がっていくのを目の当たりにして、全身に震えが走った。


「「「レイズ魔国に栄光あれ! シス様に栄光あれ! レイズ魔国万歳! ヴェルトマー様万歳!」」」


「「「レイズ魔国に栄光あれ! シス様に栄光あれ! レイズ魔国万歳! ヴェルトマー様万歳!」」」


「「「レイズ魔国に栄光あれ! シス様に栄光あれ! レイズ魔国万歳! ヴェルトマー様万歳!」」」


 仲間が倒れていく中で一切動じず、大声を張り上げるレイズ魔国兵の声や、憎き敵を屠る為に杖を振る音、敵を必ず見つけ出して屠るという強い意思を持って前進して軍靴を鳴らす音。


 戦場の至る所から『レイズ』魔国兵達の祖国を想う言葉が木霊をしたかと思うと、一つ一つの声が重なり合って大合唱のようになっていく。


 当然『魔法』を放つ前に『ラルグ』魔国兵の攻撃によって倒れていく『レイズ』魔国兵も数多く居たが、誰も声を止めずに倒れていく同胞達の思いを引き継ぐように、更に声は大きくなりながらその攻撃を出した『ラルグ』魔国兵に憎悪を込められた視線で睨みつけていく。


「「「レイズ魔国に栄光あれ! シス様に栄光あれ! レイズ魔国万歳! ヴェルトマー様万歳!」」」


 『マーティ・トールス』はこの後に何が起こるかを直ぐに理解したかと思えば、慌てて空に向かって全速力で飛んで逃げる。


 そしてそのマーティのその様子を見た『トウジン』魔国の者達も追従するように指揮官である『マーティ』の後を追いかけた。


 ――間一髪、マーティ達『トウジン』魔国の斥候部隊は無事に逃げ遂せたが、振り返る事も出来ない程の爆発が、爆音が、そして背後から死の匂いを引き連れて迫ってくる程で恐怖感を煽った。


 マーティはレイズ魔国が憎くて仕方がなかったが、最後の最後で自分達『トウジン』魔国の『同胞の為に命をかける』という攻撃に似た『レイズ』魔国兵の覚悟をみて感服するかのような表情を浮かべて『敵ながら天晴れ』と右手を顔の前に挙げて敬礼をするのであった。

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