第78話 表面上の解決

 エルザと戦っていた部屋を出たソフィは、ミナトとルノガンを探すべく屋敷を歩き始めた。


 ソフィとエルザの戦闘で先程の部屋は天井に穴が開き、地面のあちらこちらが削れていたが、屋敷の廊下に出るとそこまで被害が及んでいないように見受けられる。


 これもレルバノンの『魔法』なのだろうと、判断するソフィであった。


「まずはレルバノンとやらを探すとするか」


 そして屋敷の中を歩いていると、数体の蜥蜴型の魔物がソフィを見つけると襲ってくるのであった。


「グオオオオッ!」


「ふん、流石はというわけか」


 人間の住む町で最近は生活をしていた為に、屋敷の中に魔物がいるという状況に違和感を感じ始めたソフィであった。


「まぁよい、


 ソフィの魔瞳の『紅い目スカーレット・アイ』が発動して、魔物達はソフィの言葉に従ってその場で傅いた。


「よいか? 我の姿が見えなくなるまで、ずっとそうやっておけ」


「グルルルル」


 蜥蜴型の魔物達はコクリと頷いて、そのまま床をずっと見続けていた。


 こうして屋敷中を歩き回るソフィを魔物が襲ってきては『紅い目スカーレット・アイ』で命令されて、あちらこちらで魔物達が傅いかしずているのであった。


 その光景は正に異様といえるものであり、まるでコントのような状況に、もしもこの場にリーネが居れば苦笑いを浮かべていたかもしれない。


「ええい、この屋敷はどうなっておるのだ!」


 まるで迷路のような作りと、部屋の数に辟易してきたソフィであった。


「いっその事、この屋敷ごと吹っ飛ばしてくれようか!」


 そんな冗談がソフィの口から漏れ始めた頃、通路の最奥にあったドアを開けると書斎がある部屋に辿り着いた。


 そこにはこの屋敷の主であるレルバノンが、呑気に本を読んでいた。


 そして読んでいた本から顔をあげてソフィを見た。


「おや? ここにソフィ君が来るという事はまさかエルザが?」


 信じられないといった顔でソフィを見る。


「クックック、残念だがお前の配下は倒させてもらった」


「これはこれは『上級悪魔グレーター・デーモン』どころか、まさかエルザ君までもが倒されるとは、思っていませんでしたよ」


 溜息を吐くレルバノンだが、焦った様子は見受けられない。


「大人しくミナトと町を襲わせている男に会わせよ」


「仕方ありませんね。これ以上暴れられても困りますしね、分かりました」


 椅子から立ち上がったレルバノンは、捕らえられているミナトの部屋へと案内を始めた。


「元々は薬を使って町を襲わせようとする計画は部下の案でね、私はあまり賛成はしていなかったのです」


 言い訳のような事を突然口に出すレルバノンだが、その表情からは命を助けて欲しくて言っているようには見えなかった。


「さあ、こちらですよ」


 書斎からあまり離れていない場所の部屋に、ミナトは囚われているようだった。


 部屋の中に入ると縛られているミナトと、その前に老人と数体の魔物が居た。


「レルバノン様? どうなされましたか」


 普段であれば彼の指示に従って部下が用件を伝えてくるところに、何の前触れも無くいきなり彼らの主が入ってきたのだから、その老人や魔物達が驚くのも無理はない様子であった。


「すまないが、君たちは外に出ていてくれ」


 レルバノンがそう告げると、すぐに老人の男『ビレッジ』は頷いた。


 ビレッジが素直に出て行く所を見た魔物達は黙って彼について行く。


 部屋を出る時にビレッジはちらりとソフィの方を見たが、疑問を口にする事などもせずに素直に部屋から出ていくのであった。


「ではソフィ君、約束通りミナト君を解放するので、好きにして頂いて構わないですよ」


「うむ。ではミナトはこのまま連れて帰らせてもらおう」


 特に言及する事もなく、レルバノンは頷いた。


「ルノガンというのが件の薬を扱う男の名前なのですが、現在は『ステンシア』の町の方に宿を取っていましてね。今はこの屋敷に居ませんので折り返し、そちらに向かわせるという事でどうでしょうか?」


 いやにレルバノンが協力的なのが気になったソフィだが、別にどう思っていようとこちらが損をするわけではない為にソフィも素直に頷いた。


「分かった。まずはルノガンとやらに話がついたら、町を襲わせるのをやめてもらおうか」


「……」


 少し考える素振りを見せたレルバノンだが、数秒後には直ぐに笑顔を浮かべた。


「ええ、分かりました。それで構いませんよ」


 交渉は成立したようだった。


 そしてその後はミナトを連れて部屋を出ていくソフィに対して、視線を向けるだけで何もしてくるような事もなく、あっさりとソフィ達が屋敷の外に出ていくのを見届けるレルバノンであった。


 ――しかし何はともあれ、この一件はこれで無事に解決となる筈だった。


 だが、ミナトを連れて『ステンシア』に帰る途中で、話はに転がっていく事になるのだった。

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