第64話 襲撃されたステンシア

「駄目ですね。完全にミナトさんの気配が消えました」


 ゴスロリ服の女によって仮死状態にされた事を知らないソフィ達は、ミナトの『魔力』も『気配』も感じられなくなり完全に見失ってしまうのであった。


「ふーむ、仕方あるまい。このまま闇雲にミナトを探すよりは、一度街に戻った方がよかろう」


 ソフィの言葉にラルフとリーネも頷く。


 そして三人が街道を伝って街の付近まで来ると、いつもより町が騒がしい事に気づいた。


 なんと町の入り口に狂暴化している魔物達が、次々とステンシアの町に雪崩なだれ込んでいくように入っていくのが見える。


 それを簡易な木の板で塞ぎながらマーク達警備兵が先導して、周りの冒険者達も協力して対応しているのが見える。


 だが、警備に対して狂暴化している魔物の数は三倍以上はいるだろうか。


 このままでは数で押されて町の中が魔物達で溢れかえるのも時間の問題であろう。


「ソフィ! 私たちも加勢しよう!」


 リーネがこの様子を見て慌ててソフィに声を掛けてくる。


「うむ、ひとまずお主達は怪我人たちを頼むぞ」


「分かった!」


「分かりました」


 警備隊とマークが突然割り込んできたリーネ達に驚いていたが、事情を説明すると素直に頷いていた。


「ソフィ―! こっちの準備はオッケーよ!」


 警備隊達を街の中に移動させたリーネが声を掛けてきた。


「うむ、それでは少しばかりお主達にはまともになってもらおうか」


 マーク達が作ったバリケードを突き破って次々と乗り込んでくる魔物の前に、ソフィが立ちはだかりながらそう告げる。


 魔物の中の大半はE級やD級といったそこまで強くはない魔物達であり、通常時であれば倒す事に苦労もしない魔物達なのだが、この魔物達は何やら様子がおかしかった。


 どうやら『薬』で自我を失う代わりに力が増しているようで、本来より一つ上の階級に上がっていると見ていいだろう。


 そんな魔物達が数十匹と群れを成しながら突っ込んで来ていた。


「グオオオオッ!」


「クックック、誰に向かって吠えておる?」


 次の瞬間、ソフィと魔物の間の地面に小さく真横一線の亀裂が入った。


「一度だけ猶予を与えてやろう。この世界の魔物達よ、死にたくなければ死ぬ気で我の声に耳を傾けるがよい」


 そしてそのまま声を切って、数多く居る魔物達を見渡しながら再度口を開く。


「その線を越えれば容赦はせぬぞ? 我の声が届くのならば、死ぬ気で踏み止まるがよい」


 魔物達はどうやらソフィを魔族と察したようでそのまま止まろうとしていたのだが、今は薬の影響のせいか立ち止まろうとした魔物達は唐突に苦しそうな表情を浮かべたかと思うと、ソフィの示した線を越えていくのだった。


 出来るだけ魔物達を傷つけたくないと考えていたソフィは、悔しそうな表情を浮かべた。


「お主ら! その程度の薬を抑えられぬようでどうする!」


 別世界の魔物達を叱咤するように『アレルバレル』世界の大魔王は『魔法』を放つ。


 ――超越魔法、『終焉の炎エンドオブフレイム』。


 一瞬で数十匹の魔物を、ソフィの業火が燃えあげる。


「す、凄い……っ!」


「あれだけ数多く居た魔物達が全員一瞬で!?」


 マークたちや警備兵は今目の前で行われている想像を絶する光景に自分達の目を疑う。


 そしてあれだけいた魔物達はソフィのたった一つの『魔法』で全滅であった。


 しかし凄惨な光景が広がる中、どの魔物達も死んではおらず、気を失っているだけである。


 真に恐ろしいところはこの大陸の天才魔導士であった『ルビア』よりも、遥かに上の位階の魔法を使っているにも拘らず、洗練された彼の魔力コントロールによって、一体も魔物達が死んではいないところであった。


「ふん……」


 数十匹の街に攻めてきた魔物達に背を向けてソフィは、リーネ達のいる街の門の方に戻っていく。


 ――ソフィは少しばかり悲しい目を浮かべていた。

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