第63話 拉致されたミナト
ミナトはギルドでソフィ達と別れた後、早速仕入れた薬草を捌く為に彼の元に依頼のあった顧客の元へと向かうのであった。
ミナト程の行商人であれば需要のある場所を移動前に調べ上げて、ある程度売れると判断してから動く。
そしてこの『ステンシア』での薬草売りは、既に何回か経験していた。
――その後はその客たちがどうなっても、ミナトはもう関係がないと割り切っている。
ソフィ達に説明した通りに怪我の麻酔代わりに使う冒険者も中に入るだろうが、客の全てがそういう使い方をしているとは、ミナトも思ってはいない。
中には『人』が『人』を襲うという事案も耳にしている。
だが、ミナトは行商人として生きて生活を行うためには、多少そんな話を聞いたところで商売を替えるつもりは毛頭なかった。
そして今回の依頼人は大手の客で、
「さて、今回も生活のために働きますか」
ミナトは積荷を積んだ荷馬車で移動を開始した。
その顔は商売人の笑顔が張り付いていた。
そしてミナトが指定された場所へ行くと、三人の若者を引き連れた依頼人がいた。
若者を含めた全員が身なりのいい恰好をしており、ミナトはこの商売も上手くいくだろうと考えて安心する。
そして若者を引き連れていた白髪混じりの男が、近寄って来るミナトに気づき口を開いた。
「貴方が効能がいいと評判の『
――この男の確認の仕方も上手かった。
もし傍から聞かれていたとしても、単に薬草を売って欲しいと言っているだけに聞こえる。
「近日手に入れたばかりで、白色部分が残る新鮮な薬草でね。一束で十分に役立つでしょうし、使われるのでしたら、周囲の方々にも勧めていただけると嬉しいですな」
ミナトの言葉を聞いてニヤリと白髪混じりの男は笑った。
今の表面的な会話で例の危険な薬草を一束十枚括りで白金貨(金貨五十枚)で、大量に売買が出来るとミナトは提示したのである。
「分かりました、では
――商売成立であった。この間僅か2分程の出来事である。
そして渡された鞄の中を確認し終えたミナトは笑みを浮かべた。僅か二分間で『
仕入れの苦労もあるにはあるが、それを補って余りある利益であった。
(そろそろ撤退時期か? あと1回か2回で身を引いた方が賢明だな)
しかし――。
大金を手にしてほくそ笑んでいたミナトが、荷馬車に乗り込もうと足をかけた時、頭部に鈍い痛みを感じた後にそのまま意識が途切れた。
「ビレッジさん、やりましたよ!」
ビレッジと呼ばれた白髪混じりの男が笑みを浮かべた。
「よし! よくやったぞ。鞄とついでにその男も連れてこい。仕入先を聞き出しておくのだ」
ビレッジと呼ばれた男の言葉にコクリと頷くと、ミナトを襲った若者達は怪しまれないように上手く運び始めた。
……
……
……
その頃、ソフィたちはミナトを追うべく走っていた。
「む、ミナトが動き始めたようだな」
『
常人では今のソフィの速度についていくことは出来ないが、
グングンとビレッジたちに追いつくソフィ達だったが、そこで唐突にミナトの魔力が消えて追えなくなる。
「む……?」
「どうしたの?」
「どうかなされましたか、ソフィ様」
急に停止したソフィに気づいた二人も直ぐに立ち止まる。
「? もうすぐ追いつくというところで唐突にミナトの『魔力』が
ラルフは即座に目を瞑り『微笑』状態となって周りの気配を探り始めた。
……
……
……
時は少し遡りソフィ達がミナトの『魔力』を追いかけ始めた少し後の事だった。
『ビレッジ』達を乗せた馬車の前に何者かが突如空から降りてきたのである。
慌ててビレッジ達を乗せている馬車の御者が、自分の馬車を停止させる。
「何事だ!」
ビレッジは急停止させられて壁に頭を打ち付けられてしまい、苛立ち混じりに怒鳴り声をあげる。
「わ、分かりませんが、何者かが空から降りてきて……!」
御者が半ばパニックになりながら声をあげる。
「何? 空からだと……?」
ピンときたビレッジが窓から外の様子を見る。
「あ、貴方は……!! な、何故ここに!?」
ゴスロリ服に身を包んだ女性がビレッジを見て笑った。
「そんな事はどうでもいいわ。それより貴方、変な魔族と人間に跡をつけられているよ」
その言葉にハッとしてビレッジは、馬車から鞄と薬草を手にもって外に出る。
「スフィア様、早くこれをもってレルバノン様のもとにお届け下さい」
「まぁ落ち着きなさいビレッジ。西側の連中に貴方が捕捉されたわけではないわ」
その言葉にビレッジは眉を寄せる。
「どうやら相手は
「の……、
ビレッジはゴスロリの服に身を包んだ女に、否定の言葉を投げかけるのだった。
「ふふっ。私に言われても知らないわよ、それよりもどうやら奴らが追っているのは、その男の『魔力』を探っているみたい。見つかりたくなければ、そこの男をもう
ゴスロリ服の女はミナトに指を差してそう告げる。
「し、しかしこの男は件の薬草の仕入れ先を知っている者でして、大変に利用価値があるのです。場所を聞き出すまでは殺すのはちょっと……!」
ビレッジがそう言うと『仕方ないわね』と呟いて、ゴスロリ服の女はゆっくりとミナトに近づいていく。
そして何をするかと思えばそのゴスロリ服の女は、
「す、スフィア様!?」
ビレッジが金切り声をあげながら、ゴスロリ服の女の名前を叫ぶ。
「ああもう全く煩いわね。殺しちゃいないわよ……」
そう告げると身体から手を抜いて『ミナト』の血がついた指を舐めあげる。
「単に仮死状態にしただけよ。心臓は停止させたけど、多分これで奴らは追ってこれない筈よ」
とんでもないことを口走るゴスロリ服の女に、ビレッジは小さく舌打ちをした。
「本当に大丈夫なのでしょうな? 我々の目的を叶える為には、もっと
ビレッジがグチグチと文句を言うので、だんだんとゴスロリ服の女も不機嫌な声に変わっていく。
「は? 貴方、私の言葉が信用できないのかしら? 数秒もすれば、すぐに心臓は動き出すわよ」
自分より力の強い女にそう言い切られてしまえば、ビレッジにはそれ以上の反論が出来ない。
「分かりました……。それでは予定通りに」
そう告げたビレッジはミナトを馬車に乗せて、再び御者に馬車を出させるのだった。
「さて、面白い奴もいるようだし、少しだけ観察をしてみるとしましょうか」
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