第47話 スイレンの改心
スイレンの目は血走っていて、ソフィに対して
「貴様はスイレンとかいったか? どういうつもりだ?」
目の前に自分の身長よりも遥かに高い『スイレン』を見上げるようにしながら問いかける。
「貴様の所為で俺は、今まで築き上げてきた信用も失い王国軍への未来も潰えた。俺はもう終わりだ……」
ソフィから受けた怪我はまだ完全には治っていないようで、ストレスのせいか目の下には隈が出来ていて、精神的にかなり参っている様子が見て取れる。
「貴様が自棄になるのは勝手だが、ヘルサスを殺そうとするのに理由があるのか?」
ついついソフィは、気になったことを口にしてしまう。
虚空に向かってブツブツと何かを呟いていたスイレンだったが、そのソフィの言葉に笑みを浮かべる。
「ククク……。この場でヘルサスが死ねば貴様が一番に怪しまれるだろう? 何せ貴族の館に乗り込んできたのだからな!」
そう言って発狂したかのように、不気味な笑い声をあげるスイレンだった。
「俺も終わりだが、お前も終わりだ! ヘルサスは王国の大貴族、その大貴族を殺したとなれば、いくらお前でも終わりだ」
どうやらソフィを貴族殺しとして国から狙われるように、仕向けることが狙いだったようだ。
自分の道連れにソフィを選び、同じ破滅の道に進ませる事で留飲を下げようとしていたのかもしれない。
「クックック、
「何とでも言え、一族を束ねるには圧倒的な力が必要だったのだ! こうする事でしか俺には道がなかったんだ……。そうだ……、これしか」
先程までの気が狂ったような感じではなく、ある種では冷静な態度でソフィを見据える。
「まぁそれが貴様流の統治の仕方なのであれば、仕方あるまい。だが……」
ソフィは目を細めながら、過去の人間達の統治を思い出しながら口を開いた。
「一人の人間が統治をするには限界がある。一時的に力を得た所でそのような暴君は淘汰されてまた力を持った人間に潰されるのがオチだ」
ソフィはそうやって何度も人間の世界で『王』と呼ばれる者たちが、次から次に誕生しては消えていく姿を長年見続けてきたのだった。
「ふん、そうかもしれないが、何もしないままでは我々『影忍』が国に道具のように使われて、用が済めば口封じに殺されていく。そんな日常を変える事は出来なかったのだ」
スイレンとて初めから私利私欲の為にクーデターを起こすつもりではなかったが、いくら先代に話をしても現状を変えるに至らず、それならば自らが変えるしかないと思い始めた。
しかし中途半端に上手く行き始めると
なまじ彼に力があった分、ここまで成功してきたのだ。
「だがもう終わりだ。貴様に負けた後、周りの俺を見る目は変わった……」
人よりも秀でる者や有名人が失墜すれば、それまでの扱いが変わり手の平を返したような扱いをする。
それはいつの世も、そしてソフィ達の世界でも日常にある事だった。
「スイレンよ。お主は今後どうしようと思っておる? 子供のように駄々をこねて、上手くいかなかったからと周りを巻き込んで癇癪を起こし、どうにでもなれと自棄になって終わりか?」
ソフィが問いかけると、スイレンは無言で考え始める。
ソフィと話をしていくうちに冷静さを取り戻していったが、すでに『影忍』の多くは自分と里を見限って、既に居なくなってしまった。
スイレンの中で自分のやった事に対しての後悔という感情が、生まれてきていた。
当初こそ里の為にと思ってやったことだったが、その後はスイレンの思い通りに『影忍』を使って王国でのし上がることばかりを考えていた。
――今更どうしろというのだろうか。
気が付けばスイレンは、困惑した目でソフィを見つめていた。
しかしソフィは自分に目を向けられていても、口は開かず待ち続ける。
結局のところ今回の事にしても、自分で答えを出すしかないと分かっているからである。
――だが、ソフィは上に立つ者が一度は考える苦しみ、通ってきた苦い思い等を理解している為に、ここでスイレンがどのような決断を下そうとも、
――どれほどの時間が経っただろうか、やがてスイレンは泣きそうな顔で口を開く。
「お、俺は……『影忍』の里をもう一度復興させたいんだ。もう一度最初からやり直して、道具のように使われない、自分達だけでやっていける里を……!」
「……」
ソフィは真剣にスイレンに視線を向けながら数秒間、真剣に思考を巡らせる。
ここまで必死に結論を出したスイレンにソフィは、
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