第35話 決勝トーナメント開幕
ギルド対抗戦予選リーグで上位16のギルドが決まり、遂に決勝トーナメントが始まった。
波乱の予選リーグ結果で数多くの人の予想を裏切る結果となった決勝進出ギルドだが『リディア』や『マケド』など常勝し続ける者も残っているので、盛り上がりに欠けるといった事はない様子であった。
そんな中でソフィは対抗戦よりも気になる事が出来たため、決勝トーナメントが始まった今も警戒を強めていた。
(我に殺気を向けて来た者が暗殺者等であれば、狙ってくるのはこういったイベント時の可能性が高いだろうからな……)
『魔力感知』を用いて『魔力』や戦力値を隠蔽している者が、近くに居ないかどうかを確認するソフィをリーネは不思議そうに見ていた。
ここ二日程の間にソフィが
しかし決勝が始まる前に何とか激励をしたいリーネは、意を決してソフィに声を掛けるのだった。
「ね、ねぇソフィ、決勝頑張ってね!」
「むっ? うむうむ、任せておくのだリーネよ」
警戒をしながらもリーネの言葉には、ちゃんと耳を傾けて頷いて笑顔を向けるソフィに、リーネはほっと胸を撫で下ろすのだった。
(よ、よかった……! いつものソフィだ)
リーネはようやく兄の件での心の整理がついて、これからはソフィと共に『
「リングにも届く程の大声で応援するから、みんな頑張りなさいよ!」
『ニーア』と『ディーダ』も『リーネ』の言葉に、嬉しそうに頷くのだった。
……
……
……
ギルド長や貴族たちが一堂に会する部屋は、打って変わって重苦しい沈黙に包まれていた。
ルードリヒ王国の大貴族であるヘルサス伯爵は、ルードリヒ王国軍に冒険者ランクAの『スイレン』を入隊させた功績を得ようとしていたが、ソフィによってその目論見は瓦解してしまった。
不機嫌を露わにしながらもその事は決して口には出さず、沈黙を貫いているので部屋の空気は重い。
(今に見ておれよ……! たかがいち冒険者風情がワシに恥をかかせた事を、死をもって償わせてやるからな!)
決勝トーナメントの開会式の場に居るソフィに向けて、ヘルサス伯爵は怨嗟の念を込めて睨みつけるのだった。
その様子を見ていたディラックは、冷や汗を掻きながらも不快感を表に出さず、自分のギルドのソフィたちに祈りを込める。
(ソフィ君! 君には望む報酬を用意する、だから無事に生き残ってくれよ!)
決勝トーナメントの開会式が終わり、16のギルドの対戦相手を決める抽選が始まった。
AからHまでの中で決勝行きをストレートで決めたギルドから順番に、数字の書かれた紙を引いていき、一回戦全八試合を決めるのである。
そうして各ギルドの代表者が順番にくじを引いていき、遂に全16ギルドの対戦相手が決まった。
☆――――
第一試合『グラン』対『ニビシア』、第二試合『クッケ』対『ウィラルド』。
第三試合『アーリズ』対『ザイ』、第四試合『ローラルド』対『アリオル』。
第五試合『レルドール』対『トンプーカ』、第六試合『シーマ』対『メラルド』。
第七試合『ケラード』対『リース』、第八試合『サシス』対『ステンシア』。
★――――
ソフィたちは予選リーグの時と同様に、決勝トーナメントでもまたもや第一試合で戦う事になり、その相手は『ニビシア』の冒険者ギルドと当たる事が決まるのであった。
ニビシアの大将『ソリュウ』は一回戦の試合で当たるソフィ達に近づき握手を求めてきた。
「私はニビシアの魔法使いで『ソリュウ』という者だ、よろしく頼むぞ」
ソフィも前に出て『ソリュウ』の握手に応える。
「我は『グラン』の魔法使いでソフィだ。お主相当に研鑽を積んでいると見えるな」
ソフィが笑みを浮かべてそう告げると、ソリュウの右目が静かに光った。
(予選リーグでこの少年が勲章ランクAの『スイレン』を倒したのは見ていたが、せっかくの機会だ……。少し測らせてもらうとするか)
ソリュウの右目が光ったのは『魔法』の発動の効果であった。
無詠唱で行われた魔法でソフィの魔力値を測ろうとするが、しかし数値は全く開示されなかった。
何故ならソフィは
(やはり隠蔽されているか、しかし彼くらいの実力者ならば当然であろうな)
スイレンを倒しての決勝トーナメント進出。
さらに言えばこの対抗戦で決勝まで残る事が出来る者達は、偶然や運のみでは決して残る事は出来ない。
冒険者ギルドの対抗戦の決勝トーナメントは、そんなに甘いモノではない。
その事をよく知るソリュウは、ソフィの情報が全く表記されない事にも驚きはなかった。
そして目の前に居る『ソリュウ』によって、
「クックック『
【種族:人間 性別:男 年齢:32歳
名前:ソリュウ 魔力値:885 戦力値:97000】。
ソリュウもまた隠蔽の『魔法』を使っている為に『魔力感知』や『
だがしかし『ソフィ』の『魔力』が『ソリュウ』の『魔力』を上回っている為に、あっさりと『ソリュウ』の隠蔽『魔法』を貫通して『ソリュウ』が隠している情報の全てが、そのまま効力通りに開示されてしまうのだった。
その事に気づいていないソリュウは、隠蔽に成功していると思い込んでいた。
だが、根源魔法を目の前で使われたソリュウは、驚きであった。
(ま、まさか、『
だが、出来ないからといって放置する事はなく、当然ニーア以上に失われし『根源魔法』への知識を深めているし『
そのおかげもあってソリュウ達『ニビシア』の冒険者は、今はまだ使えない『魔法』についても理解を深めながら出来る対策は行っている。
あらゆる角度から『魔法』と呼ぶモノを日夜研究し続けている『ニビシア』の魔法使いは『
規格外であるソフィでなければ、根源魔法である『
「クックック、ソリュウと言ったか? 我は研鑽を積む人間は嫌いではないのだ。良き戦いをしようではないか」
握っているソフィの小さな手が少しだけ強まった。
ソリュウはソフィの目や握っている手にその態度から性格を観察し、あらゆるところから情報を得て『ソフィ』という十歳程の少年に畏怖を感じるのだった。
「あ、ああ……、宜しく頼む」
何とか言葉を返すことが出来たソリュウは、呆然と立ち尽くして踵を返して去っていくソフィの小さな背中を視線で追い続けるのだった。
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